35 社畜はJKとのデートを報告する…
「で、思ったワケよ。JKと付き合うのってこんな難しかったのかって」
葉豆とのデートがあった日の夜。
大智は近所を散歩しがら、高田と電話で話していた。より正確に言えば、一方的に話をしていた。
「結局カフェに入ってコーヒーとちょっとしたコッペパン食べたんだけど、葉豆ちゃんなんて言ったと思う? 『カフェラテ一杯550円……だと私、コッペパンはいいかも……です』だぜ? 最初何を言ってるのかわかんなかったんだけど、どうも学生同士って、男が女の子に奢るって感じじゃないらしいんだよな。友達の話ではみんな割り勘らしくて、だから葉豆ちゃんも自分で支払いしようと思ってたらしくて。そういや公園で一緒に散歩してるときも自分でコーヒー買ってたなって思い出して、まあ、あのときはまだ付き合ってなかったし俺も気に留めてなくて、今日はもちろん俺が出したんだけど『映画代も出してもらったのに食事代まで……』とか言われてさ。あ、映画代で思い出したけど、俺、大人2人でチケット買っちゃったんだよ。でも葉豆ちゃんって高校生だから、学生証見せれば1000円なんだよね。ほぼ半額。だから900円余計に出しちゃって、そんなの俺としては全然良かったんだけど『申し訳ないです……』って。最初、『マジどんだけいい子なんだよ』って思ったんだけど、あんまり言われると『もしかしてこの子、俺のこと貧乏だって思ってるのかな?』『いや、普通に払えるからね?』的な気持ちも出てきて」
「だいだい」
「でも、そのあと行く店行く店全部満員ってのはさすがに堪えたな……仕事だと普通に予約するのに、プライベートだと意識が変わるのかって感じだし、たぶんトータルで3キロは歩かせちゃったかなって。葉豆ちゃん、せっかくオシャレしてかわいいサンダル的なの履いてたのに……で、ずっと歩いてるとさすがに会話もなくなってくるし、葉豆ちゃんも緊張してたのかぎこちない感じで俺もしんどくて……それであとやっぱ、お酒飲めないってのがキツイなって。社会人同士だと、昼間からでも飲めるし、飲めば恥ずかしさとかも消えるだろ? あ、あと音楽の趣味とかも全然違って、『どんな音楽聞くんですか?』って聞かれたから『今でもバンプ聞いたりするよ』って答えたら『DA PUMPですか? 意外ですね。踊るんですか?』とか言われて……葉豆ちゃん、ああ見えて音楽は意外と若者趣味でまふまふ? とか、そらる? とかを聞くらしくて、その手の歌い手? 的なのは俺わかんないし」
「あのさ、だいだい」
「ん?」
高田が早口で喋る大智を静止する。
「どうした急に早口になって。お前そんなに喋るキャラだったか?」
「早口って……」
「どちらかと言えば静かなほうだろ。お喋りは俺の専売特許だろ」
「それはそうだが」
「あと急なキャラ変は読者が戸惑うだろ。作者疲れてるのかって」
「なんの話だよ」
ツッコミを受け流すと、大智は小さくコホンと空咳をついて。
「とにかくだ。簡単にまとめると、正直いろいろギャップがありすぎてしんどいって言うかさ……」
そんなふうにまとめる。それを機に、ふたりの話のトーンも、自然と1~2段ほど下がる。
「そうか~? 俺には自慢してるようにしか聞こえなかったけどな」
「自慢? 俺の話のどこに自慢が?」
「いや、『どんだけいい子なんだ』とか言ってたし」
「いや、いい子なのは事実だろ」
「それが自慢だって言ってんだよ!」
「……はっ」
「納得してんなよ……」
いつもは呆れられている側の高田だが、この日ばかりは大智に呆れる側だった。
しかし、大智としては自慢しているつもりは本当になく、むしろ初回デートはアクシデントと緊張の連続だったと感じていたし、同時に深い自己嫌悪に襲われていた。だから、こうやって高田相手に一方的に喋って、ストレスを少しでも軽くしようとしているのだ。
でも実際、デートがボロボロだったのは間違いない。スプラッターアニメ映画で葉豆が気持ち悪くなってしまったこと、お目当てのカフェが臨時休業だったこと、そのあとなかなか入れる店が見つからなかったこと、せっかく入ったカフェで気まずい思いをしていしまったこと……などなど、全体で見れば色々好ましくないことが起こりすぎた。
「それで、帰ってから思ったんだけど」
「うん」
「俺、そもそも高校生のときにJKと付き合ったことないんだよな」
「あー、まあそうなるか。彼女いたの大学生のときって言ってたもんな」
「そう。それに彼女いたって大学生ですげえ遠い昔って感じだし、あと俺自身がオトナの世界のやり方に慣れちゃってるのもあって」
葉豆と解散したあと、大智はひとりそんなことを考えていた。
恋愛経験が多いワケではなく、むしろ少ない大智だが、ゼロなワケではない。もうずっと彼女がいなくて、とくに社畜になってからは過労で性欲が減退したこともあり、しばらく大事な場所を排尿以外に使わなくなって「これもう童貞じゃね?」と思うこともしばしだったが、それでもかつて、彼女がいたのは間違いのない事実なのだ。
だから少しはそのときの蓄積を活かせると思っていたのだが、遠い昔のことで記憶も曖昧だし、オトナとして、葉豆の言動の色んなところでギャップを感じたのだ。
「んー、まーでも、たしかにオトナは酒飲んで飯食ってしてればいいってとこあるもんな」
ここにきて高田も、同意を示す。
「俺らくらいの年になると交際経験がゼロって女の子も少なくなってて、すごく乱暴な言い方をすると程よくあばずれてるというか」
「本当に乱暴だな」
「お互いにいい年だし、どうしても結婚とかちらつくから最短距離を目指しがちなんだよな」
「最短距離。たしかに」
「語弊を恐れずに言うなら『時間がもったいない! カラダの相性を確かめよう!』って感じで」
「語弊恐ろよ少しは。あと俺はそんなことないぞ? 普通に段階踏みたいからな?」
「まあなにが言いたいかと言うと、酒は偉大な存在だってことだ」
話をまとめるように言うと、それに従って大智もこう述べる。
「……葉豆ちゃんとはこの先、居酒屋とか一緒に行けないワケだし、映画もしばらくは行きにくい感じになったからどうしようって……」
「まあ気持ちはわかるよ。でも、そういうの全部覚悟したうえで付き合うことにしたんだろ?」
「それは……」
「じゃあ、腹くくって自分たちなりの付き合い方模索するしかないだろ。違うか?」
言葉に詰まった大智に対し、高田はいつになく、強い口調で言った。それは少し、叱咤のような雰囲気もあった。
「……そうだな。高田の言う通りだ」
「ま、話ならいつでも聞くから」
「うん、ありがと」
「じゃあまた明日会社でな」
そんなふうに言葉を交わし、ふたりは電話を終えたのだった。
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