第41話 対リンエイ


 千堂ヒカリは山道を登る。


 もう何度も山登りを経験したヒカリにとって登山は全く苦ではなくなっていた。苅田の祓い人の寺は確かに標高が高かったのだが、リンエイのいるアジトは山を二つ分越えたところにあるそうで、今は下山と登山を繰り返している最中というわけだ。


 僕と蓮也さんは山はホームのようなものだが、九寺魅音と安城あかりの二人にとってはそうでもないらしく、そんなに速いスピードでもないというのに既に息を切らしていた。


「はぁ……はぁ……きつい……」

「休憩……しま……しょう……?」


 既に隊列は意味を成しておらず、二人は僕らの後方にいて、なんとかついてきている感じだった。でもおかしいなぁ。君達どうやって今まで寺まで上り下りしてたの?


「仕方ねぇなぁ……じゃあ休憩すっか!」


 その一言でバタンとその場に崩れ落ちる二人。やっぱりどう考えてもおかしい。体力が五条以下というのはたるみ過ぎではないだろうか。


「ねぇ、二人とも。お寺まではいつも山登りしてたんでしょ?体力無さ過ぎじゃない?」

「そ……それは……」

「私達は……持久力はないの……瞬発力は……あるのだけど……」

「?」


 聞くところによるとこういうことらしい。苅田町の妖魔は基本的に移動速度が速い妖魔が主なようで、持久力より瞬発力が身体能力として求められるようだ。よって、寺までの距離なら問題ないようなのだが、それ以上となると体力的には厳しいらしい。戦い方もチームワーク重視の連係プレーが基本だそうで、千の宮とは少し違ったシステムのようだった。


「じゃあ観月さんいなくなると戦闘スタイルが崩れるんじゃないの?」

「いいえ、それはありません。私達は誰と組んでも問題なく戦えるように日々研鑽してますので」


 さっきまで駄々をこねていたとは思えないほどに九寺さんは胸を張って答える。正直威厳とかもう感じられない。


「へぇ、そうなんですね。ところで九寺さんは大学生なんですか?」

「ええ。苅田大学の三年生で二十一歳です。安城は二年生で二十歳。観月も同じです。学部も同じなのでもう姉妹みたいなものですね」


 おっと、やはり大学生のおねぇさんでしたか。年上の女性。僕好きですよ。


 休憩してから五分くらい経ったが二人はまだ回復しきっていないようで、足がまだプルプルと震えている。呼吸は整えられたようだが、体力的にはまだ回復しきっていないようだ。汗も大量にかいており、手持ちの水筒は空なようでうなだれている様子が目に見えてわかる。


 そのことに気づいたのか、蓮也さんはピュゥイ!と口笛を吹き、あの鷹を呼びだす。一分して、今度は筒に入った水と食料らしきものを運んで空から降り立ってきた。


「よしよし、偉いぞ!天王てんおう!」


 鷹からそれらを受け取り、九寺と安城に渡す。


「ほら、もらっとけ」

「い、いいんですか?」

「おう。千堂特製の山賊飯だ。それはただの水と飯じゃねぇ。体力回復は勿論だが、それ以外にも色々と効果があるもんが入ってる。マジで特別だから味わって食べろよ?」

「あ、ありがとうございます!」

「あ、ありがと!」


 二人は水を得た魚のようにそれに食らいつく。山賊飯か。いいなぁー。僕千堂なのに食べたことないよ。でも、さっきから気になってるけどその鷹は何?


「こいつが気になるのか? こいつはオレの千獣だ」


 口に出さなくても僕の視線で聞きたいことが分かったらしい。蓮也さんは相変わらず気が利く。


「千獣?」

「ああ。異形の怪物とかを自分の相棒に育てるんだ。全員が全員飼ってるわけじゃねぇがな。俺のはこいつ。鷹の天王。こう見えても千堂が育てた鷹だからな。見た目以上のパワーと頭脳がある。大抵はオレのすぐ上を飛んでてな。いざとなれば欲しい物を届けてくれるんだ」


 何それ、めっちゃ羨ましいんだけど。僕も千獣欲しい。


「でも、そんな荷物持てなさそうですよね?さっきは槍とか持ってきたし。どういう仕組みなんです?」

「ああ、こいつは元は巨大な鷹の妖魔でな。特性は自分の巣を固有の結界内に作って過ごす変わった妖魔なんだ。外国から入ってきた妖魔だからこの国に知名度は無いだろうがな」

「へぇ。確かに三大妖魔になっていそうな妖魔ですもんね」

「だろぉ?こいつの良さがわからねぇのがたまにいるんだ。天王!もう行っていいぜ!」


 そういうとその鷹は天高く空を飛び立つ。よく見れば体には金属の鎧が巻き付けられている。千武だからかなり頑丈なのだろう。いざとなれば戦闘にも参加できそうだ。


「鷹ですか……私も欲しいなぁ……」


 千武ではなく今度は千獣を欲しがる九寺さん。物欲というよりはもはや千堂ゆかりのものなら何でも欲しがりそうな勢いである。流石の蓮也さんもそっぽを向いた。僕も勿論空を見上げて誤魔化そうとする。


「ひ、ヒカリ様は千獣いないんですか?」


 チッ、逃げられなかったか。


「い、いないよ。僕は」

「あん? 影道はいたぞ?」

「へ?」


 マジか! それは嬉しい情報だ! 僕も鷹とか虎とか、かっこいい千獣がいい!


「ど、どんな千獣ですか?」

「大蛇だ。ほら、三大妖魔の」

「大蛇って……ユーゼリウスとかいうやつですか?」

「おう!確か名前は……友禅とか名付けてたな。三大妖魔の一つがお前の千獣なんて情報は千堂でも限られたやつしか知らねぇけどな!」


 はっはっはと快活に笑う蓮也さん。で、でも僕その友禅に会ったことないんだけど!?


「? 何不思議がってんだ? お前の千獣ならずっとお前の後をつけてんぞ?」

「え?」


 後ろを見るが何もない。辺りを見回しても影も形もないのだがこれ如何に。


「…………相変わらず観察力のない男だ。全く」


 しかし声ははっきりと聞こえた。正体不明の声は特徴のつかめない声でどこからともなく響いてくる。するり、するりと何かが這う音が上の方から聞こえてきて、見上げたところにそれはいた。


「……槍の男には俺の姿がすぐにバレてしまうから敵わん」

「はっはっは!何年ぶりだろうな! お前とは!」


 僕は口をポカンと開けることしかできなかった。え、ど、どういう事!? 二人は知り合い?


「よう、貴様。記憶は戻らねぇみたいだが何話ぶりだろうな。とりあえず、また会ったなとだけ言っておこうか」


全長二メートルくらいの大きな蛇が人間のような瞳でこちらを見つめていた。










「こ、これがヒカリさんの千獣ですかー?いいなぁー!」

「な、生意気そうだけど、それがいいわね……」


 蛇だというのに女性二人は嫌がることもなくその体に触る。蛇は蛇で満更ではないようにその体をくねらせる。


「お、俺は三大妖魔だぞ! 気安く触るんじゃない!」

「えー?いいじゃないですかー! あ、友禅さん。友禅さんは他に友達がいます?」

「い、いるにはいるが……何故だ?」

「いや、祓い人に飼われたい妖魔を募集中なんで!是非ともお願いします!」


 蛇に土下座して頼み込む巫女。それをゴミを見る目で見下す蛇。何とも奇妙な光景がそこには広がっていた。というか祓い人が妖魔飼っちゃだめでしょ。千堂じゃあるまいし。


 僕はその様子を見ながらも蓮也さんを離れたところに連れ出し、事情を説明してもらう。


「ちょ、ちょっと!なんで教えてくれなかったんですか!」

「あん? 蛇がいたことか? いや、平然とお前の後をつけてたからな。つい知ってるもんかと」

「初耳ですよ! いつから気づいてたんですか?」

「苅田町に来た時から」


 割と結構前じゃん!


「僕が気づかないのになんで蓮也さんが気づくかなぁ……」

「ああ、あいつ『絶対隠密』のスキルあるからなぁ。普通の奴、いや、千堂でも気づく奴は少ねぇ」

「じゃあなんで蓮也さんは気づいたんですか?」

「オレに異能とかは全く効かねぇからだよ」

「?」


 もうわけわかんなくなってきたよ。まぁ僕の千獣だというのであれば聞きたいことは山ほどある。もしかしたら僕の状況についても知ってるかもしれないから聞いてみよう。

 僕は友禅に近づく。


「き、君は僕の千獣なんだよね?」

「一応な」

「影道の事は知ってる?」

「当然だろう?話の流れでわかるだろ、普通」


 おやおや? なんか態度がでかくはないかい?


「ご、ゴホン。僕が記憶操作されていた理由は知ってる?」

「ああ、あのシスターがやってたんだろ?」

「!! ど、どうして教えてくれなかったのさ!」

「教えたに決まっておろうが!このバカ道が! それを何度も何度も記憶を消されおって……思い出すだけでも頭にくる!」


 おお、怖いよ……。それはすまんかったよ……


「じ、じゃあなんで僕の体が若返ってるのかはわかる?」

「それは知らん」

「マジかよ、使えないよこいつ」

「き、貴様!昔からお前はそんなんだから俺様が色々と苦労して……」

「知らないよ、そんなの!僕はヒカリだから関係ないし!」

「はぁ? 粛清隊につけられた名前をいつまで大事そうに名乗ってんだ貴様は! いい加減元に戻せ!」


 う、そんな風に言われると確かにそうだ。奪われた名前よりも敵につけられた名前を大事にするなんておかしいのかもしれない。でも、今更昔の名前を呼ぶのもどうかと思うし……


「い、いいじゃんか!昔の記憶はないんだし!いい名前だろ!ヒカリだって!」

「名前で言うならこっちも言いたいことがあるわ!何が友禅だ貴様!俺の名前はユーゼリウスだ!」

「長いんだよ、それ!この国らしい名前にしろよ!」

「あ、てめぇ!昔と同じこと言いおって!もう嫌だこいつの千獣は……つーかお前の千獣になった覚えなどないわ!」

「はぁ?」


 千獣じゃない?でもさっきは……


「お前が勝手に俺を千獣呼ばわりしたからいつの間にかそう認知されたんだ!否定してもお前が言いふらすから仕方なく千獣を受け入れておるだけじゃボケェ!」

「み、認めたんならグダグダ言うなよな!」


 クックックと蓮也は笑い出す。それにつられて九寺と安城までもが我慢できないとばかりに笑い出した。


「ふふ……あはははははは!仲がいいですね!」

「こ、コントみたいですよ、二人とも……」


 解せぬ。


「ま、まぁ友禅が僕の千獣だということはわかったよ。感覚的には初めましてだけど、友禅からしたら久しぶりというとこかな?」

「ふん、まぁそうだな。記憶が完全に戻ったら会いに来る筈だったがもう戻らんみたいだしこの際仕方がない。お前に付き添ってやるよ」


 そう言うと蛇の友禅はヒカリの腕にするすると上り、赤い鎧と一体化する。その際に、大きさと色も鎧に合わせて小さく、赤くなる。


「え……友禅はそんなことができるの?」

「ああ。能力は槍の男が言ったように『絶対隠密』。それと大きさと色を変えられる『擬態』。そして、口にしたものをなんでも吸収する『万物吸収』の三つだ」

「へぇ、それはなかなか便利だね。最近流行りの擬人化とかもできるの?」

「できるぞ」

 

 うそ、見てみたい!


「だが、無駄に人に擬態するのは疲れるからやらん」

「えぇ~、僕の千獣ならそれくらい聞いてくれよぉ~」

「誰が聞くか。千獣だからと言ってなんでもいう事を聞くと思うなよ」

「で、でも蓮也さんは……」

「あの槍の男は信頼関係ができているからだボケが。俺と貴様は腐れ縁。それ以上でもそれ以下でもない」


 ひっでぇなぁ……


「まぁヒカリ。良かったじゃねぇか、相棒が見つかって」

「はい……もっと素直なパートナーならよかったです……」

「俺様のセリフだ、バカ道」


 そんなこんなで休憩を終えた僕らは再び山を登り始める。蓮也さん曰くもうすぐ着くとのことだったので僕は改めて気を引き締めた。山賊飯を食べた九寺さんと安城さんは見違えたように動きが機敏になり、本来の体力以上に力が出ているようだった。山賊飯の成分が気になる。それがあればオリンピックとか世界記録バンバン出せるだろうね。人間とは思えない記録が出るから捕まりそうだけど。







 九寺さん曰く、その山は神成山かみなりやまと呼ばれているようで祓い人の中でも近寄る者はいないらしい。昔からの言い伝えで、その山に入ると異境の地へと飛ばされてしまうという迷信が根強く残っているようで、それを知る地域の住人は立ち入り禁止区域にしているようだ。


 そんなあからさまに妖魔がいますよと言っているような場所であっても、苅田の祓い人が近寄らなかったのは、自分たちの戦力の少なさと、無報酬で命がけの戦闘をするのがバカらしいというのが理由のようだ。そのせいで、今回のお寺襲撃に結びついていたとしたら、苅田の祓い人の自業自得と言えないこともない。


「……まぁそこにまさかリンエイが住んでいようとは思いもしなかっただろうがな」


 蓮也さんがぼやく。槍を杖代わりにして歩いている様はとてもランサーだとは思えない。その横には安城さんが俯きながら千武を手に、山の中を進んでいく。


「そうよ……ここまで来るのさえ大変だし、近場の妖魔だけで精一杯だったんだから……」


 持久力が無いということは必然的に討伐範囲が狭いということになる。千堂でいえば山二つ分越えることは、都内の大型スーパーに通う感覚であっても、彼女たちからしたら遠征気分にもなるのだろう。目的の場所まで行って、妖魔を探し、戦って帰るまでが任務だとしたら確かにキツイ。


 隣の九寺さんを見る。彼女も何か思うところがあるらしく、日ごろの怠慢さが祓い人陥落の原因になったと考えていそうな表情だ。責任感が人一倍強そうな九寺さんらしいといえばらしいが。


「九寺さんが悪いわけでも無いでしょ。責任があったのだとしたらそれは亡くなった祓い人自身にもあるわけだし」

「そ、そうですね……それでも、頭ではわかっていても心が納得していないのです……」


 落ち込んでるなぁ……。どうしようもないんだけどね……。


「私にも千獣がいれば立ち直れそうな気がするんですけど……」


 まだ諦めてないのか。もういい加減この人に何かやらないと収まらないんじゃないだろうか。


「なぁ、友禅。九寺さんに何か紹介できる妖魔いない?」

「簡単に言うな! 妖魔にだって意思や感情はあるんだぞ! だがまぁ……いないこともない」

「どんなのがいるの?」

「勿論俺は大蛇だからな。眷属である蛇の妖魔はたくさんいる」

「じゃあそれで」

「軽いぞ、貴様」


 だってねぇ……自分の事じゃないしさ。


「へ、蛇の妖魔ですか……他にはいないんですか?」


 九寺さんも蛇は無くないが、違う妖魔をご所望ようだ。ちょっと欲張り過ぎません?


「そもそもな。祓い人に飼われたい妖魔とか普通はおらんのだぞ?」

「な、なんでなんですかー!?」

「妖魔を殺し回っとるからに決まっておろう。祓い人についても同族を殺す役目をこなしながら、祓い人からも蔑まれることを考えたらかなりのブラックだぞ」

「で、でも千堂様にはなんで……」

「長い物には巻かれた方が色々楽なんだ。妖魔と言えども。妖魔同士であっても縄張り争いとか普通にあるし、お前らみたいな祓い人に殺される事も多々あるしな。それに比べて、千堂と手を組めば奴らは必ず我らを優しく扱うし、何かあれば互いに助け合う仲になれる。生存率がめちゃくちゃ上がるのよ」


 なるほど。すっごくわかりやすい。まぁ千堂なら妖魔でも仲間にしたら無下には扱わないもんね。


「わ、私はちゃんと優しくします!」

「簡単には信用できんな。小娘がいつまでも妖魔を優しく扱う保証がないし、小娘以外の祓い人がよく思わん可能性も十分考えられる。それに、何より弱い。弱い奴につくメリットなんぞありはせん」

「そ、そんなぁ……」


 弱さを補うために妖魔を飼うつもりが、弱いから妖魔が仲間になりたがらないなんてなんて不憫なのだろう。でも、もうこうなったら諦めるしかないね。


「うし! ここだ!」


 目的の場所に着いたのか。蓮也さんがそう声を張り上げる。敵にバレませんか?


 そこは広大な平地が続く原っぱだった。芝生のような草地に白い花がポツポツと咲いている。その中央と呼べるような場所には人が住んでいそうな一軒の平屋が。


「あの中だ!」

「え? あの中ですか?」

「おう!」

「どう見ても人が住んでいそうなんですけど……」

「いいや、絶対にリンエイがいる! オレの勘に間違いはねぇ!」


 勘かよ。しかし蓮也さんがそう言うのであればそうなのだろう。前衛である蓮也と安城はその平屋に行き、ヒカリと九寺は離れたところで様子を見ることとなった。


 蓮也はまだ槍を杖のように扱い、まるで辺境の友人に会うようにして歩く。対して、安城は警戒心バリバリの様子で、槍を構えながら平屋へと赴く。温度差よ。


「おう! リンエイさんや! 遊びに来たぜぇ!」

 

 違った。本当に友人に会う感覚だ。蓮也さん。


しばらくして、その平屋の中から一人の男の子が出てくる。それは、体格的には夢幻君と同じくらいの身長で、白い髪、白い肌。白い和服を着ていることから何だかお化けのような容姿だった。


「ええっと……あなた方は……誰デス……?」

「リンエイに会いに来た!」

「し、知りませんケド……?」


 なんだよ、やっぱり違うんじゃん。


「? なんで嘘つくんだ? リンエイはお前だろ?」

「い、いや、本当に違いますカラ! 帰ってくだサイ!」


 その白い男の子は必至で抵抗する。でも、そういえば何だかおかしい。こんな山奥にこんな格好の子供がいる筈がない。それに、槍を持った二人を見てもその槍に反応すらしない。普通は武器に怯える筈だ。ということは……


「ほぅ、じゃあもうやるか」

「え、な、何をデス?」


 『千堂流白式 我流 突き破り』


 蓮也の"奇跡"は『我が武の前に狂い無し』。それは相手のどんな異能、スキル、呪いであろうとも、看破し、元に戻すという対異能の"奇跡"。"奇跡"のランク自体は低いものの、使いどころさえハマればかなり有用な"奇跡"であることは間違いない。


 そして、この技は槍で突いた対象の異能を解く、異能キャンセラー。無防備だったその白い男の子は反応する間も与えられずに槍をお腹に食らい、平屋の中へと吹っ飛んでいった。


 ドォぉォぉォぉォぉン!


 ものすごい音と共にロケットのような速さで飛んだので、平屋を貫通し、その奥の原っぱへと男の子は転がって、そして動きを止めた。普通の人であれば当然即死級の攻撃。しかし……


「よ、よくもやってくれタナ!」


 人ではないその妖魔。全長二十メートルもの巨大な白狼がその姿を現す。真っ白な体毛はとても神秘的で威厳のある佇まいをしており、理由はわからないがパチパチとその体毛から放電をし始める。


 安城と蓮也は平屋をぐるっと回り、その姿を見る。蓮也はともかく、安城はそれを見ても驚かない。仲間の仇。それが今の彼女の中でグツグツと煮えたぎっていた。


「落ち着け、安城」


 蓮也がポンと安城の頭を叩く。それで安城は冷静さを取り戻した。


「オレもいる。ヒカリもいる。九寺もいる。仲間の仇はみんなで討たねぇとな」

「う、うん……」

「安心しな! 俺はお前が気に入ってんだ! 少なくとも今回の戦闘では死なせはしねぇ!」

「き、気に入ったって、そんな……」


 安城は顔を赤らめるが、蓮也は気にせずに続ける。


「千の道は槍の道!"異端狩りの千堂"!"一の槍"!千堂蓮也!推して参る!」


 決戦の火蓋は切られる。三大妖魔との戦い。それは祓い人にとってかなりの死闘となることが予測される。妖魔の中の妖魔。妖魔の頂点に位置するバケモノ相手であればそう思うだろう。ゲームでいえばボス戦。中ボスではなく、本ボス。勇者に対しての魔王。しかし、敢えて言わせていただきたい。いや、誰が止めようとも僕は言う。絶対に言う。空気を読まずに僕はこうつぶやいた。





「でも僕の『死に至る一撃』なら瞬殺なんだよな」



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