第22話 現在の状況

 話を聞く限り、どうやらゴブリンは東北にある雑木林にいるようだ。

 目撃情報のほとんどがその雑木林方向に集中している。

 薪等を取りに行って襲われたり、そちらに近い側の放牧地で牛が被害に遭ったりという感じだ。

 ゴブリンは凝った作戦とかを普通使わない。

 魔法を使う種がいたり簡単な武器を作ったりと知性が無い訳ではない。

 でもおとり部隊を使ったり違う方向から同時に攻めたりとかはあまりしないのだ。

 勿論ゴブリン以外の指揮官がいる場合は別だけれども。

 なら基本的に東北側を注意しておけばいいだろう。

 一応見張りは各方向につけているようだけれども。


「それではもし先遣隊のゴブリンを発見して、私達のパーティが攻撃をかけられる状況なら、基本的に村の人達は全員塀の中へ退避して下さい」

「いいのですか。こちらから応援を出さないで」

「私達は大規模魔法攻撃を得意とするパーティです。ですからむしろ現場に味方がいない方が戦いやすかったりします。ただ木戸を閉めて防衛に徹しても、念の為鐘楼に配置する見張りは残していただきたい。戦闘中はどうしても視野が狭くなりがちですので、戦闘している以外の方面も確認していただけると助かります」

「わかりました」


「この会議が終わり次第、上空から付近の状況を確認します。ゴブリンならだいたい3離6km程度の距離で発見可能です。その範囲に確認出来ない場合はさらに上空や付近地域を飛行してゴブリンを捜索します。一時的に私達の姿が確認出来なくなりますがこの村の状況は常に確認していますので心配なさらないで下さい。地上にいるときも平常時なら周囲2離4kmの魔獣や魔物の気配はわかりますから」

 この世界は球形で平面では無いのでそれ以上先は地平線が邪魔して感知出来ない。

 上空からだと概ね3離6km、条件が良ければ5離10km近く先まで気配を感じられるのだけれども。


「わかりました。それではよろしくお願いいたします。あと宜しければ昼食を用意してございます。簡単ではありますが宜しければ」

「ありがとうございます」

 今日は急いで出てきたので弁当を持っていない。

 一応保存食としてある程度の食料は保管庫のポシェットに入れているけれども。

 今度余分に弁当を作って貰って保管庫に入れておいた方がいいかな。

 どうせ保管庫の中では時間停止しているからいつでも食べられるし。

「それではこの村の防護補強が終わり次第いただこうと思います。それまで私は少し上空から付近の様子を確認して参ります」

 状況はほぼわかったし話も一通り聞いた。

 ならさっさとお仕事に入ろうと思う。

 まあ本格的なお仕事は午後以降になるだろうと思うけれども。

 

 家の外に出て呪文を唱える。

「ゆんゆんやんやん風の精シルフィたん。どうかお空を飛ばせてね!」

 呪文が非常に恥ずかしい。

 だがこの方が増幅効率が良くなり威力も増すから仕方ない。

 俺は空中へと舞い上がる。

 今回は周囲を色々観察出来るようにゆっくりと上昇。

 案内を連れた3人が壕を掘ったり塀を強化したりしているのが見える。

 全体を壕で囲うのでは魔力の消費が大きいから、壕は弱点になる角や入口付近を重点に掘っている様子だ。

 他は今ある木塀を土で強化している様子。

 方針としてなかなか正しいな。

 それにあの壕や強化した塀は今回の襲撃の後でも役に立つはずだ。

 役に立つ機会は無い方がいいのだけれども。


 さらに高度をあげる。

 おおよそ高さにして100腕200m

 これくらいが俺にとって一番偵察に適した高さだ。

 今のところ半径3離6km内にはゴブリンの気配は無い。

 ゴブリンの進行速度は小柄な分人間よりやや遅く、1時間に2離4km程度。

 持久力も人間ほど無いから延々と走って移動なんて事はしない。

 あと1時間ちょっとは村が襲撃される可能性はごく低いと言っていいだろう。

 なら防御の補強作業が終わったら食事をして、ちょっと遠目まで飛行しつつ確認してみてもいいかもしれない。

 指名依頼でそこそこ高報酬とは言え、一つの依頼に長期間かけたくないし。


 少し高度を落として街全体とその周囲をもう一度確認する。

 今のところ異変は無い。

 そして防護強化は見た感じ今の場所が最後。

 村全体を囲う塀で過度になる場所付近には幅3腕6m深さ2腕4mの壕で各方向10腕20mずつ囲い、村の入口2箇所には長さ10腕20m3腕6m深さ2腕4mの壕を通路の左右に掘って水を入れてある。

 また村を囲う塀は内側から土魔法で補強しゴブリン数匹が丸太を持って突進してもすぐには打ち破れない程度に強化済みだ。

 これでかなり安心していいかなと思う。


 ただカルミーネ君とカタリナは大分疲れた筈だ。

 カタリナは小さい分魔力の総量が少ない。

 カルミーネ君は壕を掘ったり壁を土で強化したりかなり魔法を使っている状態。

 今の作業が終わったら回復魔法をかけてやろう。

 それでは降りるとするか。

 場所は現在補強作業中の西門前でいいかな。

 俺はゆっくりと空中を降りていく。


 ◇◇◇


 食事は思った以上に美味しかった。

 しっかり小麦の香りがするちょっと塩味が強めのパン。

 振り回せば簡単にバターが作れそうな位濃い牛乳。

 熟成させて旨味が増している分厚いステーキ。

 人参やカボチャ等の蒸した野菜類。

 シンプルだが素材がいいのだろう。

 味によって食べる態度が露骨に変わるカタリナも夢中で食べている。


「ありがとうございます。とっても美味しいです」

「それは良かったですわ」

 村長の奥さんである老婦人がにこりと微笑む。

 こういう人ばかりだと安心出来るのだけれどなあ。

 何処ぞの服屋のおばさんとか冒険者ギルドの一見受付嬢にしか見えないお姉さん風とかああいう怖い人ばかりじゃなくて。

 食後の麦芽飲料までいただいていい感じだ。

 本当はこのまま昼寝なんて出来ればいいのだろうけれどそうもいかない。

 まだ俺の感覚にゴブリンの気配は感じられない。

 でも来ないようならこちらから探して倒すまでだ。

 今日の夕方までには何としてでもお風呂を楽しむぞ。


「それではまた出てきます。一回りして大丈夫そうなら一度こちらに報告した後、捜索を行う予定です。それでしたら私達がいない間にここが襲われる心配はありませんから」

「わかりました。どうか宜しくお願い致します」

 お互い軽く頭を下げ、そして俺達は家の外へ。

「ゆんゆんやんやん風の精シルフィたん。どうかお空を飛ばせてね!」

 恥ずかしい呪文を唱えて4人で空へと舞い上がる。

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