第7話 今週の拠点
そうだ。
この街について聞いておきたい事があった。
「そう言えばこの街でお勧めの宿屋と、冒険者ギルドの場所を教えて貰えませんか」
「宿屋は色々あるけれど優先順位はどんな感じだい」
「この2人と一緒に泊まっても安全で、料理が美味しい処がいいです。宿賃はまあ、そこそこ程度であれば」
おばさんはうんうん頷く。
「ならこれを縫い終わったら地図を描いてやるよ。一括で全額貰ったサービスだ。宿は『
なるほど。
「ありがとうございます」
「ここは辺境で魔獣や魔物も多い分、食い詰め気味の冒険者でも何とかなるからね。その分質の悪い冒険者共も多い訳だわな。まあお姉さんなら全く問題無いとは思うけれどね。お姉さんの怖さに気づかないレベル低いのも多いからちょい注意しな」
うわあ、やっぱりこのおばさん怖い。
俺の実力に気づいてやがる模様だ。
「ありがとうございます。充分気をつけます」
とりあえずこのおばさんには気を付けよう。
俺はそう決意した。
「それじゃ出来たよ。羽織ってごらん」
袖を通して羽織ると膝よりやや下まで隠してくれる。
あの服を完全に隠してくれてちょうどいい。
しかも見かけ以上に軽く暖かい。
これって……
「これで本当にいいんですか。この毛だともっと高価ですよね」
普通の羊毛だともっと厚手で重さもそれなりにあるのだ。
これは多分高地山羊、毛が長くて細い特別な毛だ。
確かけっこういいお値段するような……
「お姉さんならこの良さがわかると思ってね、ちょい毛が長くて細い別扱いの山羊毛さ。この布地も重くてしっかりしたもののほうが高級だと勘違いしている奴じゃなくてお姉さんみたいに違いのわかる人に着て貰った方が幸せだね。ま、これも即金払いのおまけだよ。遠慮せずに受け取りな」
「ありがとうございます」
いい買い物をした。
更におばさんはさらさらっと端切れ布に地図を描いて渡してくれる。
「残りは明日だね。日が出ているうちは何時でもやっているから。あとこれが地図。『
「ありがとうございます。それでは失礼します。あとは明日」
結構上機嫌で店を出る。
店を出た処でサリナが立ち止まる。
「どうしたの」
「お姉ちゃん、本当にいいんですか。私達の服まで買って。それに宿屋って、ひょっとして今日はお泊まりですか。それだともっとお金が……」
「心配ないよこれくらいは。こう見えてお姉ちゃんは結構お金持ちだし。あとこの街にどれ位の依頼件数があるか、依頼の質はどれくらいでお金がどれくらい貰えるか。それを調べるにはちょっと滞在しないとわからないからね」
言っている事は本当だ。
でも取り敢えず当面は色々目先を変えさせて不安とか悲しさとかを極力感じさせないでおこうという意図も一応ある。
成り行きだけれど面倒を見ることになった限り、2人に出来るだけ幸せで楽しい気持ちでいて欲しいのだ。
邪な意図は決して無い。
いやちょっとはあるかも。
「それじゃ次は宿へ行くよ」
地図で見る限り洋服屋から宿屋まではそれほど遠くない。
そしてその間の商店街は2人でも取り敢えず大丈夫な程度の治安状況のようだ。
ついでに言うとカタリナは右へ左へ色々眺め回しながら歩いている。
「カタリナはこの街は初めて?」
「うん、初めて!」
「なら後でサリナお姉ちゃんと一緒に色々見て回ろうね」
「うん!」
強いよなと思う。
一昨日お父さんが亡くなったばかりなのだ。
ひょっとしたら悲しいけれど頑張ってそれを見せないだけかもしれない。
それはそれで俺の出来る事をやるだけだ。
商店街の中央から1本入ったところに
確かにここなら2人に商店街に買い物に行かせても大丈夫そうだ。
人通りも多いし変なのも歩いていない。
宿自体も小綺麗でかといって敷居が高い訳でも無い。
掃除もちゃんと行き届いている。
確かに良い宿っぽい感じだ。
そんな訳で2人を連れて中へ。
「いらっしゃいませ。お食事ですか、時間は早いですけれどお泊まりですか」
見かけ上は俺と同じ位の年齢の感じが良さそうなお姉さんが迎えてくれた。
「泊まりでお願いします。3人分のベッドがある部屋で。取り敢えず1週間」
「ちょうど3人部屋が1つ空いていますけれど確認されますか」
「お願いします」
部屋は2階にあるようだ。
お姉さんの後をついて階段を登り、廊下右側奥の扉へ。
うん、明るいし掃除が行き届いている。
ベッドは標準サイズが3つ。
他にテーブルとロッカーがあるだけだけれどいいだろう。
「この部屋で1週間だとおいくらですか」
「
「食事は別?」
「別で朝が1人正銅貨5枚、夜が小銀貨1枚です。その都度お支払い下さい。昼は食堂として営業していますからメニューから選んで下さい。日替わりですが概ね正銅貨5枚です」
物価というか宿賃も食事代も安いと感じる。
多分それはここが辺境というか田舎だからだろう。
俺の記憶では最低でも5割くらいは高いのが普通だ。
「ではお願いします」
「それでは下で受け付けますね」
受付票に3人の名前を書いて小金貨で支払いお釣り正銀貨2枚を貰う。
「それではこちらが部屋の鍵です」
鍵を受け取って3人で部屋へ。
「
この部屋には現在の3人しか入れないよう魔法をかけ、ちょっと一息つく。
「一週間ここの街にいるんですか」
「うん。それ位いればこの街の様子もわかるしね。その上でこの街に落ち着くか、他の街の方がいいか考えるつもり」
そう言えば今のうちにやっておこうかな。
俺はポシェットから簡易型転移門を出し、壁際に設置する。
「あれ、これってお家に出したのと同じ?」
サリナは覚えていたようだ。
「そう。これがあればいつでも村の家やあのお風呂のある家に戻れるよ。だから用事を思い出したり買ったものを仕舞いに行ったりするときはこれを使えばいい訳」
「だったらご飯もお家でつくればいいですね」
「いや、ここの宿屋にいる時はこの街で食べるつもり。サリナもカタリナも他でご飯を食べる機会があまり無かったでしょ。だから色々な処で食べてみようよ。そうすれば新しい料理とかも出来るようになるかもしれないし。
とりあえずこの後、私はギルドへ行ってくるから帰ったらご飯を食べに行こう。多分2時間もあれば終わると思うから」
今日はギルドに登録に行って、ついでにどんな様子か見てくるだけだ。
だからそれ位の時間で終わるだろう。
「その転移門は行きたい場所を思い浮かべて通ればいいだけ。ただ今行ける場所はここを含めても2箇所しかないけれどね。試しておこうか。私がいるうちに」
そんな訳で2人と転移門の前へ。
「一人ずつ試すよ。まずサリナ、『お家に帰るぞ』そう言ってから通ってみて」
「お家に帰るぞ」
そう言ってサリナはおずおずと転移門に足を踏み入れる。
「あ、お姉ちゃん消えた」
「お家に行ったんだよ。次はカタリナ、『お家に帰るぞ』と言ってやってみて」
「お家に帰るぞ」
消えた。
よしよし大丈夫なようだ。
俺も転移門をくぐる。
2人とも無事家にいた。
「こんな感じで『家に帰るぞ』とか『宿屋に行くぞ』と行き先を言って入れば行けるから。あとは自由に使って大丈夫。ただこの道具は貴重品だから持っていることや使ったことは他の人にはいわないでね」
「わかりました」
「わかった」
2人とも了解してくれた。
「あとこのお家はこの転移門を置いているから他の人は誰も入れないようにお願いね。一応魔法で玄関や窓から他の人は入れないようになっているけれど、念の為」
「わかりました」
「カタリナもわかった」
2人の頭を撫でて、それから俺は転移門を通って再び宿屋へ。
さて、それではギルドへ行ってみるとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます