4話目 中編 化け物と呼ぶのならば

「ば、化け物……!」

「そういうことだ。お前らが殺そうとしている化け物は殺しても死なない化け物なんだよ。そんで……」


 俺は右腕をオールイーターに変形させ、さらに「らしさ」を見せる。


「これが賊を片付けた力だ。岩も鉄も砕き食うから、お前らの鎧なんて紙っぺら同然だぞ」

「ひっ……!?」


 後ろで小さく悲鳴を上げて後退りするのが聞こえる。

 どうしよう……ちょっと面白くなってきちゃった☆


「よもや本当に化け物だったとは……」

「怖気付いたか?まぁ、俺も鬼じゃないからな。どうしてもっていうならこの勝負の件は忘れて――」

「面白い!」


 ……へ?

 何を言ってるんだろうか、この大男は。

 頭の中が疑問だらけになると同時に、大男は刺している俺の体ごと大剣で持ち上げて投げ飛ばしやがった。


「なぐ……!?」

「全員に告ぐ!奴を客人でも人間でもなく、魔物として見て戦え!もちろん殺す気でだ!」


 壁に埋まるほどの威力で投げ飛ばされた俺は、その壁から抜け出そうともがいた。

 男たちはというと、大男の言葉に闘争心を燃やされたのか武器を持ち始める奴がチラホラと出てくる。

 そして大男はさっきとは違う嬉しそうな笑みを浮かべて俺を見ていた。

 なんでアイツは俺が本物の化け物だと知った瞬間にやる気に満ちたんだよ?訳わからん。

 だけどアイツらとの戦いを曖昧にして誤魔化す作戦は失敗したらしい。

 戦わなくちゃいけないのか?しかもできるなら殺したくはない相手だ。

 殺さずに無力化とか……どうしろってんだよ?


【拳で殴る方法を推奨します】


 困ってたところにアナさんアドバイス!

 この人の言うことに間違いはないと俺は信じるぜ!


 「うおぉぉぉぉっ!」


 俺が壁から抜け出したところで気合を入れて斬りかかってくる一人の男。

 ……遅い。シャドウや進化グロロを相手にしてきた俺からすれば遅く感じるぞ、これ。


「そい!」

「ぐべっ!」


 オールイーターを元の手に戻して男の腹をグーパンした。

 甲冑でかなり硬かったが、殴った部分がへこんで男は吹っ飛んでいってしまった。

 おぉ、これが俗に言う俺TUEEEEってやつか。


【追加推奨。オールイーターを非捕食目的での使用もオススメとします】

「非捕食?食わずに食う……ってややこしい言い方になるな。とりあえず試してみるか」


 もう一度右腕をオールイーターに変異させ、向かってきたもう一人を食らう。


「あっ……!」


 食われた同僚を見て言葉を零す奴もいた。

 俺も「これ大丈夫か……?」と思って見ていると、ぺっ!と吐き出される。


「もう嫌だ……もうダメだ……もう……もう……」


 吐き出された男はめっちゃネガティブになって芝生の地面にうずくまってしまった。

 一体何があったんだ……?


【オールイーターで闘争心のみを捕食しました。闘争心を捕食された者は一時的に著しく気分が落胆し、しばらく戦闘不能の状態となります】


 え、何それ凄い。

 岩とか硬いものでもなんでも噛み砕いて食べちまうから#全てを飲み込む者__オールイーター__#なんて名前を付けたけども、まさか闘争心とか概念的なものも食えちまうのかよ。

 どんどんチート感増してくるな、俺のこの体……


「彼に何をしたんだ!?」

「ちょっと卑屈になってもらっただけだ。さて、これでも俺に戦いを挑みたい奴はいるか?」

「グアァァァァッッッ!!」


 ちょっと脅すだけのつもりだったんだけど、変形させた右腕が凄い咆哮を放つ。

 獣というにはあまりにも荒々しい声で、怪獣映画とかで聞いた迫力あるものだった。

 え、こんな機能もあったの?

 俺が驚いているのを他所に、男たちが次々と戦意を喪失していく。

 しかしただ一人だけ、戦意喪失どころかやる気に満ち溢れていた男がいた。

 俺をここに連れて来た大男だ。


「手加減していたらこちらが飲まれるということか……よし!ではこちらもこんなものではなく、本気の武器でやるとしよう!」


 大男はそう言うと持っていた大剣を捨て、大斧を二つ両手に持ち構えた。

 さっき全力で戦えって言ってたクセにお前は全力で来る気なかったのかよ。

 ……よく考えれば全力で戦えとか殺す気で行くとは言ってたけど、アイツ自身が本気で挑むとは一言も言ってなかったな。

 つまりアレだ……コイツ俺をバカにしてたな?

 化け物とか言いつつ自分の方が強いから別の武器を使って手加減してやろうとか考えていたんだろうが、予想以上の化け物っぷりを見せられて考えを改めたといったところか。

 にしても大斧二つって……いくらステータスが上がったって言われても、アレを止められる気がしないんですが。


「ハァァァァァッ!」


 すると大男はなぜかその場で二つの大斧を地面に叩き付ける。


「《大衝撃》!」


 技名を叫ぶと同時に大斧が叩き付けられた地面から俺に向かって真っ直ぐ衝撃波が飛んでくる。


「……マジか」


 ただその一言だけ呟いた後に俺は宙に舞った。

 数秒間、空や地面など目に見える景色が瞬間的に変化し続け、またもやグシャッという音が聞こえ、俺は地面に頭から落ちていた。

 今この姿を鏡で見たのなら、相当マヌケな状態になってることだろう。

 そして世界が反転して見える先、いつの間にか俺の目の前へ移動していた大男が斧を振りかざしている。


「ふぅんっ!」


 暑苦しく感じる声と同時に斧が振り下ろされた。

 大砲でも撃ち込まれたような衝撃を食らい、再び宙へと飛ばされるワタシ。

 ちょっと待って、あの人速くない?

 昔からパワータイプはスピードが遅いって決まってるじゃないですかー……えっ、時代遅れ?

 あらやだ、時代の流れって厳し。


「……そういや、俺の体って捕食以外にも変形できたんだっけな」

【強くイメージされたものを体の一部に反映させることができます。一度見たものを推奨】


 地面へ不時着する俺の呟きにアナさんが詳細を教えてくれる。

 逆に言えば強くイメージしなきゃ体に現れないってことか?ちょっと不安だな……


【……補助機能により見たものが実物であれば記憶から読み取り再現することが可能です。漫画やアニメなどの創作物類は不可】


 俺を心配してくれたのか、さらに便利な機能を教えてくれるアナさん。

 もうホント好き。アナさんマジ天使。

 これでアナさんが例え男だったとしても惚れちゃうレベル。

 とはいえこの状況で役に立つものってなんだ?

 いや、直接的なダメージを与えるものじゃなくてもいいのか。

 さらに追撃して来ようと大男が攻撃を仕掛けてくる。

 ――チカッ


「な、なんだ!?眩し――」


 強力な光を受け、大男は攻撃を中断してよろめく。

 どうだ、現代の車で使われる純正LEDヘッドライトの眩しさは!

 その隙に俺はオールイーターで大男を仮捕食する。


「何事か!」


 すると外から声が聞こえてきた。

 見るとアリア家族とララたちがそこにいた。

 仕えてる家の主の登場に騒然としていたその場が一気に静まる。

 怒りに近い厳格な表情をしているアリアパパや心配そうな表情を浮かべるアリアママ。

 しかしその二人とアリアが俺の腕を見た瞬間、恐怖に固まる。


「っ……!?」

「その、腕は……?」

「えーっと……」


 急な彼らの登場に何から言えばいいのか……

 とりあえずオールイーターの口の中に入れっぱなしの大男を吐き出してから考えることにする。


「きゃっ!?」

「うわ……」


 ペッと吐き出されベチョッと地面に放り出された大男を見たアリアママは小さく悲鳴を上げ、レチアは後退りして引くなど反応がそれぞれだった。


「俺は人間失格だ……母さんと一緒に誰の迷惑にもならないようどこか山奥に引っ越そう……そうだそうしよう……」


 ネガティブモードになってブツブツと呟いている大男以外の全員が黙りこくってしまう。

 えっと……これは俺、悪くないよね?

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