2話目 中編 お嬢様姉妹
「なんか成長してね?」
「ン?ソウ?」
「そうそう。というか言葉も前より流暢になってるし」
アナさんはイクナの種族が変化したって言ってたけど、それと関係があるのか?
「にゃー……」
俺が考え事をしていると、レチアが絶望したような表情で近付いて来た。
「どした?」
「いや、まだまだ成長は先だって思ってた仲間が急成長しちゃって置いてかれた気分になってただけにゃ……」
仲間とか置いてかれたとか……何を言ってるんだ、コイツは?
成長って言うから多分イクナのことなんだろうけど……
しかしそれもすぐにわかった。
イクナとレチアの身長はさっきまでほぼ同じくらいだったのだが、今は俺よりちょっと低いくらい……つまりレチアの身長を悠々と追い抜いてしまったのだ。
「ホントダ、レチアチャンヨリオオキクナッタ!デモマダオオキクナイトコロアルヨ?」
「え……」
慰めようとしてるのか、イクナが笑顔でレチアの目の前に立つ。
「オッパイ!」
「ぶふっ!」
イクナの遠慮の無い発言は慰めどころかトドメとなり、俺は思わず吹いてしまった。
なんとなくそれが「胸以外はイクナの勝ち!」と聞こえてしまって笑ってしまったのだ。
そしてレチアからはララよりも怖い威圧が俺に向けられる。やだ、睨まれるだけで心臓止まりそう……止まる心臓ないんですけどね。
「お嬢ちゃんが大丈夫そうで安心しましたよ」
「ああ、本当に。まさか後ろを取られた上にイクナを人質にされるとは……申し訳なかった。しかし……」
事が終わって茂みから出てきたガカンとララ。
すると何やらララが興味深そうにイクナの顔を覗き込む。美少女同士が顔を近付けるってなんか尊く感じるよね。
「その眼、まるで魔族だな」
「マゾク?」
「我と同じ目だろう?」
「オネエチャントオナジ!」
両手を挙げて「ヤッター!」と喜ぶイクナ。そしてさっきまで俺を睨んでいたレチアは「ララちのことはお姉ちゃんって呼ぶのに僕のことは呼んでくれないにゃ……」と落ち込んでいる。
メリーはメリーでイクナの変化に興奮して涎垂らしてるし、ガカンは俺が食い落としていた賊の装備などを自らのフィッカーに入れていた。
そしてそんな俺たちを馬車の周りに待機していた護衛たちがいつの間にか剣を下ろして呆然と立って見ている。あの甲冑の中でポカンとしてるのが思い浮かぶ。
若干カオス気味である。
「あの……!」
すると馬車の扉が開き、華やかなドレスを身に纏った少女が二人降りてきた。
「お嬢様、いけません!」
護衛の奴らがハッと正気に戻り、こっちに来ようとする少女たちと俺たちとの間に割って入ってくる。
「このような化け物に近付けばお嬢様方まで飲み込まれてしまいます!」
「ですがあの賊の方々を一掃し、こちらには一切手を出そうとしないではありませんか?亡くなってしまった方にも目をくれず……」
二人のうちお姉さんっぽい方の少女が死んでしまった護衛の死体にそっと触れ、悲しげな表情をする。
彼女は茶色い髪をポニーテールにして腰まで伸ばし、緑色の瞳をしている。
もう一人は気弱そうにもう一方の少女の後ろに隠れて俺たちを警戒するように見ている。
同じく茶髪で結っておらず、肩にかかる程度のセミロング。そして目の色は少し薄めの緑だ。
まさかだけどあの子、俺たちを窮地を救ったヒーローだとでも思ってんじゃないだろうな?
……今のうちに逃げよ。
「お前ら、行くぞ」
「待ってください!」
一応気付かれない程度の小声で言ったはずなんだが、護衛たちと言い争っていたはずの少女がストップをかける。
ちょっと振り向いて様子を見てみると、少女が護衛を抜けてこっちに近付いてきていた。
「あの、えっと……助けていただきありがとうございました!私の名はカナンと申します!」
「どうも。それじゃあ気を付けて帰ってね」
早口にそう言って早歩きで立ち去る。相手にこれ以上付け入る隙を与えずこの場から離脱する完璧な作戦である。
「だから待ってください!」
しかし回り込まれてしまった!RPGだったら1ターン何もできずに攻撃されてしまう!
「まだあなたのお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「ヤタですさようなら」
名乗ると同時に逃げようとするも腕に抱き着かれてしまう。
やめて離して!ボス戦からは逃げられないの?
「どうでしょう、お礼をしたいのでウチへ来ていただけませんか!?」
「遠慮します」
「そう言わず!美味しいものを出します!」
「断ります」
「お金!謝礼も母や父に頼めば出されると思うので!」
「嫌だ」
「あ、新しい武器や防具なんてどうでしょう!?それなりに有名な鍛冶師がいるので新調できますよ!」
なんでこの娘はこんなにしつこいんだ!
たしかに賊を追い払ったと言えば聞こえはいいが、俺はその賊を食って化け物らしいところを堂々と見せたんだぞ?つーか、今も怖がらせるために右手をオールイーターの姿にしたままなんだけど。
「ええい、しつこい!物や金で人を釣ろうとするんじゃありません!むしろこういう怪しい人物に会った時は見て見ぬフリをするのが普通だ。お母さんとかに言われなかったか?知らない人を家に上げちゃいけませんって」
「母はむしろ命を助けていただいた方はぜひウチに招待せよと申していました!だから問題ありません!」
ここまで引き下がらないとは……何が目的だ?
……いや、俺たちを誘おうとする理由なんて限られてる。
「悪いがその手には乗らんぞ」
「え……?」
何を言ってるのかわからないという風に首を傾げるカナン。シラを切るつもりか本当に知らないのか……まぁどっちにしても疑った方がいいな。
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