1話目 中編 助ける?助けない?

「……丁度いい。あの町を出る時にお前は『詳しい話はまた一段落ついたら』と言ったな。今ほどゆっくりできる時間が今後あるかわからないから聞きたいことがあるなら今はっきりさせておこう」

「ん?あー……」


 俺が考える仕草をすると誰も喋らないので静寂が訪れる。

 しばらくしても俺が話さないせいで痺れを切らしたララが口を開く。


「……ないのか?」

「いや、いざってなると聞きたいことが思い浮かばなくてな……あ」


 ようやく一つだけ頭に浮かんだことを質問することにした。


「んじゃとりあえず聞くけど、お前は『ララ』なのか?」

「「え?」」

「どういう意味だ?」


 俺の質問の意図がわからないと言った感じにイクナ以外が首を傾げる。


「言ったじゃねえか、今のお前は『転生した魔王』だって。それは全く違う人格が表に出てきてるとか、昔の記憶を思い出したとか、どういう感じなのかって気になってな。もし別人格ってんなら、お前のことをララって呼べない気がしてな……」

「……なるほどな」


 ララはふっと笑うと俺の目を見て答える。


「お前の言った後者が正しいな。我は『魔王』であり、この少女『ララ』でもある。この体が産まれる前の記憶を思い出したが、お前たちと過ごした記憶もしっかり刻まれている。喋り方はすっかり変わってしまったが、これからも『ララ』としてお前たちと共に居たい」


 そう言って優しく微笑む彼女からは、もう圧を感じなくなっていた。

 柔らかくなった雰囲気に俺たちも思わず笑みが零れていた。


「そういえばララは本当に魔族なのかにゃ?」


 すると唐突にレチアがそんなことを聞いた。何言ってるんだ?


「魔族の王なんだから魔族じゃないのか?」

「……いや、この魂は魔族のものだが、依り代としている元の体は人間のものだ。ただ今は魂に同調させて魔族と同じ肉体の強度にしてあるがな」


 ララはそう言うと近くの木に手を当てて力を入れた。

 メキメキっと凄まじい音を出したと思うと、ララが握った部分の木が丸々削ぎ取られてしまう。

 元々ララは怪力体質だったけれど、これはもう異常と言えるだろう。

 あらやだ、あの威力でビンタでもされたらアンパンのヒーローみたいに頭がどっか行っちゃう!


「全く頼もしいもんだな。それじゃあ次は――」

「ふあぁぁぁぁ……!」


 気になることばかりで聞きたいことをまた一つ質問しようとしたところで、イクナが大きな欠伸をした。

 それにレチアとガカンがクスリと笑う。


「今日はずっと歩きっぱなしだったからにゃ。今日はとりあえず寝て、また明日にするにゃ」

「そだな」


 意外と自分も眠気があったことを自覚し、それぞれ各自がフィッカーから寝袋を出して潜り込む。

 最後にガカンが火を消し、暗く静かな森の中で横になる。

 ガカンやレチアのおかげで食料には困らずに済むだろうけど、これからこの生活をずっと続けるのかと思うと少し不安になったりする。

 ふと寝返りを打って右を向くとララの赤黒の目と合った。


「「…………」」


 いや、何も言わないんかい。

 なんでこっちガン見してるの?その目で見られると怖くて目が覚めちゃうんだけど。

 いつまで経っても目を逸らそうとも瞑ろうともしないし……

 なんだか落ち着かない気持ちになり、こっちが目を逸らせばいいやと逆の左側へ寝返りを打った。

 すると今度はレチアが黄色い猫の目で俺を見ていた。お前もかよ!

 というかちょっと待って。ここそれなりに広くてバラバラに雑魚寝ができるのにも関わらず君たちはなんでわざわざ俺の横に来てるの?

 結局仰向けで空を見上げることになったのだが、一度気付いてしまった視線が気になって眠るどころではなくなってしまっていた。というかずっと視線を感じる。


「あの、言いたいことがあるなら聞きますよ?だから目で訴えかけてくるのやめてね?寝れないから」

「気にするな、我はお前の横顔を見てるだけだ」

「そそ♪見てるだけ見てるだけ……」


 だからなんで見てるのかが知りたいんだけど。

 そんなに俺の顔に何か面白いものでも付いてる?あ、付いてますね、腐った目が二つ……ってやかましいわ。


「つーか本当にお前ら、何も言わず俺の顔をいつまでもガン見すんなよ。どうせなら話題の一つでも出してくれない?俺が気まずいんだよ、この状況……」

「じゃあ、そうだな……お前のことを教えてくれ」


 急にララがそんなことを言い出す。いや、たしかに話題を出せって言ったのは俺ですけど……


「こんな腐った目の男の何が知りたいんだよ?」

「我を魔族だと知っても態度を変えないのはなぜだ?亜種のレチアも蔑まない、イクナのことも、ガカンのことも……お前は全員を同じ仲間として見ている。この世界でどんな生き方をすればお前みたいになれるか、興味がある」

「そんな興味を持たれても、特別何かしてたわけじゃないが……あっ」


 ふと、ララにはまだ話してないことがあるのを思い出した。


「なんだ?」

「そもそも俺、この世界の人間じゃないわ」


 内容としては凄いことを言ってるはずなのに、自分でも自然なくらいにスッとカミングアウトしてしまっていた。


「まだララちに言ってなかったにゃ?」

「ああ、そんな言い触らすようなことでもなかったからな」

「この世界の人間じゃない……そうか、だからか」


 俺の別の世界の人間発言に、ララはそこまで驚く様子もなく、空を見上げてむしろ納得しているような様子だった。


「軽く言っちゃった俺が言うのもなんだけど、驚かないのな?」

「まぁな、一応ヤタ以外にもそういう奴がいたのを知ってるからな」

「…………えっ」


 待って、今なんて言った?

 俺以外の俺?いや、なんか違う。

 逆に俺の方が驚いてちょっとパニックになりかけたけど、ララが言ったことをもう一度よく思い出す。


「俺以外の……異世界転生者?」

「ああ、奴も同じことを言っていたな。異世界転生がどうのとか、ラノベやら漫画がどうとか」


 完全に確定です、ありがとうございました。

 ……いや、マジかよ。俺以外にもこの世界に来た奴いたのか。しかもララっていう共通の人物に会ってたとかどんな偶然だよ。


「そいつって今会えるのか?」

「……さてな、可能性はなくもないが……」


 ララの言い淀む態度にこっちももどかしく感じてしまう。


「なんせ、最後に会ったのは我が転生する前。数十年以上も前のことになる。そして奴の姿はその時点ではすでにかなりの老人だった」


 ララの言いたいことはすぐにわかった。

 年老いた老人がそこまで長生きできているかわからない。仮に会えたとしても正常な判断ができるのか……

 あまり期待はしない方がいいのかもしれない。

 ……期待?何をだ?

 元の世界に帰りたいと思っているのか?

 いいや、帰っても結局は一人で他人からバカにされるだけだ。それにそもそもそいつが元の世界への帰り方を知ってるとも限らない。

 だったら同じ異世界人同士、談笑に花を咲かせる?爺さん相手にどんな話題を振ればいいんだよ。

 結論、別に何がなんでもそいつに会う必要は無い。


「ちなみにそいつは我より強いぞ」

「……同じ人間ですよね?」


 会うメリットがないと思ってたけど何それ超見たい。

 町の連合で見たララが魔王化した時には触れずに人間を破裂させる異常な強さを見たけど、そのララより強いって何なの?神レベル?邪神なの?

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