3話目 中編 本当の仲間

「……いいえ、責任はワタクシにもあります」


 フランシスさんが意を決したように固唾を飲み、そう言った。

 その言葉に少女たち三人が彼女の方へ顔を向ける。


「そ、それは……違いっ……!」

「リンシヤさんはワタクシの大切な仲間であり、友人です。彼女だけを切り捨てて自分が助かろうなどとは考えませんわ!」


 呼吸が荒く、上手く言葉を出せないリンシヤさんをフランシスさんは堂々とした態度で庇った。


「それならあたしもよ!」

「……ふん、しょうがないわね」


 するとフランシスさんの意気込みに感化されたのか、金髪ツインテールの少女と青髪ボーイッシュの少女も彼女の横に並ぶ。


「あんたら……」

「あなた一人を悪者になんてさせなくってよ!」


 まるで芝居でも観てるんじゃないかっていうやり取りにイイハナシダナーなんて適当に思いつつ歩き出して彼女たちの横を素通りする。


「そうですか。それじゃ、用も終わったみたいだし俺は仲間のとこに帰らせてもらいますよっと」

「えっ、あ……待ってくださいまし!連合への報告する際にはどうか……!」


 このまま報告されるとでも思っているのか、俺の裾を控えめに摘んで引き止めようとするフランシスさん。

 うわぁ……無意識なんだろうけど涙目の上目遣いと胸を寄せ上げるのズルいと思う。

 どうすんだよ、思わず惚れて告白しちゃったら?

 あとは悲鳴を上げられて逃げられるところまで想像できちゃうぞ☆……なにそれ泣きそう。


「……連合に報告してほしいんですか?」

「……はい?」


 フランシスさんはキョトンとした表情で俺の顔を見る。

 他の少女たちも似たように固まり、鳩が豆鉄砲を食らった顔をしていた。


「もし自首したいっていうなら報告しておきますよ?」

「それ、は……どういう……?だってこれからワタクシたちのことを報告しに行くんじゃ……?」

「俺はそんなこと一言も言ってませんよ。ただ『報告していいですか?』って聞いただけです」


 そう言っても相変わらずポカンと開けた口をそのままにしているフランシスさん御一行。

 間の抜けた顔をしてても美人はやっぱり美人だからズルいよなぁ……


「だって俺は何度もお前を殴ったのに……何も言わないってなんだよ?何か裏があるのか……?」


 リンシヤさんがそう言って訝しげな眼差しで俺を見てくる。なるほど、彼女は俺っ娘か。


「いや、俺は――」

「わかってるわ、あんたの狙いはアリアの身体でしょ!」


 否定しようとしたところで金髪ツインテールの少女が俺に向けて指を差してくる。なんでそうなるの?


「そんなわけ――」

「男なんてみんな同じよ!どう表面を取り繕ったって結局はただのケダモノなんだから!」

「いやだから――」

「あんただってアリアのおっぱいをチラチラガン見してたことも知ってるのよ?」

「それは言い訳しない――」

「ほらやっぱり!いい、アリア?こっちが弱みを見せれば男なんてすぐにオオカミになっちゃうんだから下手に出ちゃダメよ!そもそもこんな目の腐った奴、性根も脳みそも何もかもが腐ってるんだから信用しちゃ!」


 ……やっぱり信用されないのって目が腐ってるからなんですか?

 というかおい、いくら目が腐ってるからって言い過ぎだろ。何なのこの子?

 ツンデレみたいな外見してると思ってたけど、デレのないツンだけな性格してるじゃねえか。

 しかも人が話してるのをぶった切ってばかりでかなり忙しない。

 おかげでどーすんだよこの空気。

 ほら、リンシヤさんですら「そこまで言うつもりはなかったんだけど……」みたいな感じで完全に戸惑ってる。

 ツインテールの少女は「どうよ?図星でしょ?」と言わんばかりに腰に手を当てて無い胸を張ってるし。

 そう思っていたらツインテールの少女が頬を膨らませて急に不機嫌な表情になる。


「……今、あたしの胸の悪口思ったでしょ?」


 エスパーかな?

 いや、悪口なんかじゃないよ?

 胸が無いのは何も悪いことじゃない。むしろ需要があるのだからステータスになり得るまである。つまり俺の思ったアレは悪口とか陰口じゃない。


「いいや、思ってないぞ。大きかろうが小さかろうが女の胸は等しく胸だ、気にする必要はない。それに大きい奴は重さで肩が凝りやすいと聞くし、ゲスな目で見られやすいだろう。なら小さい方が得してると思わないか――」

「死ね」


 フォローのつもりで俺の考えを言ってみたのだが、それが気に入らなかったツインテールの少女が手に持っている何も付いてない細い棒を構え、俺の股間目がけて凄まじい勢いで突きを入れてきた。

 あっ、死んだ。

 痛みがなくともそう思ってしまえる箇所に打撃を食らってしまった。

 しかも体が浮く威力を食らうって……俺がというか俺の息子が死んだんじゃね?


【ウイルスの効果により蘇生は可能です】


 はい、お知らせありがとアナさん。

 ただね、こういう男の繊細な話に女性の声で入って来られると凄く気まずいから。

 あと言い方。「再生」とか「復活」じゃなくて「蘇生」って結構生々しい言い方するのやめてね……


「おいおい、男の大事な部分になんてことしやがる……本当に死んだらどうしてくれる?」

「だから死ねって言ったの。というかなんで何事もなかったみたいに立ち上がってんの?普通ならもがき苦しむところでしょ?男なら潔く死になさいよ」


 低い声のトーンで言いながら俺の股間にもう一度叩き込もうと構えるの、怖いからやめてください……

 なんでこの子こんなに俺を殺したいの?前世で俺この子になんかやっちゃった?

 だったら前世で知り合って別々の世界に生まれ落ちたのにこうやって出会えたのってむしろ運命になるんじゃね?

 殺意で彩った運命の黒い糸とかで繋がってそうなんだけど。何それカッコイイ。


「言っとくけどこれ以上は庇えないからな」

「何がよ?ここに来て怖気付いちゃったの?」

「俺はいつでも怖気付いてるぞ。じゃなくて、冒険者同士のいざこざは禁止だってさっきも言っただろ。まさか本当にこのパーティに迷惑をかけるつもりか?」


 そこまで言ってようやくツインテールの少女はハッと我に返る。

 ま、ようやく落ち着いたみたいだし、そろそろネタばらしとでもいこうかね。


「さて、さっきの話に戻るが、俺が連合に報告してもいいかって言った時に、お前らがリンシヤさんを売るような真似をしてたら共犯として全員衛兵に突き出してた」

「なっ!?」

「どうしてそんなことを……」


 リンシヤさんや他の少女たちは驚き、フランシスさんは困惑した様子だった。


「……俺は『友達になりましょう』なんて言われて友達になる気はないからだ。今までそうして裏切られてきたことなんて数えきれないほどあるからな。しかも拉致まがいのことをしてリンチに近いことをされたら尚更だ」

「で、でもワタクシは本当に……!」

「どうだかな。今は本当に親しくなろうとしてたとしても、後々あんたの『お仲間からの助言』とかで考えが変わるかもしれないだろ」


 そう言いながら視線を赤髪の少女、ツインテールの少女、そして青髪の少女へそれぞれ向けた。

 三人とも俺と仲良くしたいとは思ってない顔をしている。まぁ、こっちも必要以上の接触はするつもりないがな。


「だからまずは試させてもらった。あんたらが本当に仲間を大切に思ってるかどうかを」

「そ、それじゃあこれでお友達に……?」

「いや、それとこれとじゃまた話が別だ」

「ひぃん!」


 表情がパァッと明るくなったかと思ったら一気に涙目になるフランシスさん。ちょっと可愛いと思ってしまった。

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