1話目 後編 肩身が狭い
「君には教えたけど、僕とルフィスさんの階級は同列だからね。逆に僕ら以外にまともなパーティを組める相手がいないっていうのもあるけど」
マルスとルフィスさんの階級……たしか剣聖と拳魔だったか。
名前からしてかなり上の階級ではないかと思う。少なくともマルスの実力の一端をこの目で見たわけだし。
たしかパーティを組む際は、どんなに階級の高い奴がいても低い奴から数えて一個上のものしか受けられない……とかだったはず。
だとしたらこいつらが受けるクエストはこの二人以外、誰も受けられないほど階級の差があるってことだ。
「そりゃもう、ある種の運命ってやつだろ。潔く諦めて俺のために人柱になってくれ」
「真顔で酷いことを言うね、君は……」
「ハッハッハ、僕はどちらでもウェルカムだから待ってるよ!」
俺とマルスの後ろでルフィスさんが両手を広げて構えるが、俺たちはそれを無視して掲示板の方へと歩き出す。
「ハハッ、つれないね!」とか言いながらマッスルポーズを決め続けるルフィスさんを何とか視界から外しながらも、依頼の紙に視線を向ける。
「あら、あなたたちもいたのね!」
すると男たちの騒々しさに負けない女性の張り上げた声が聞こえてきた。
その声がしたのは男たちが群がっている方からで、視線を向けると数人の女性が不敵な笑みを浮かべてこちらへやってくるのが見えた。
そして同時に、なぜ男たちが群がっていたのかを理解した。
こちらへやってくる女性の全員が全員、超が付くほどの美女ばかりなのである。
なるほど、あいつらが目を引くのもわかる。恐らく正常な男なら誰でも蛾のように群がるだろう。
人数は四人。
一人はララと同じくらいの高身長、燃えるように真っ赤な色の赤いロングヘヤーと瞳、腹部などの筋肉質な肉体が目に入りやすい露出の多い服、笑っている時に八重歯が特徴。いかにも脳筋のパワータイプっぽい。
横には逆にちんまりとした低い身長をした金髪ツインテール少女が腰に手を当てている。
魔女が被るようなとんがり帽子と肩からマントのようなヒラヒラしたものを身につけてる辺り、奇跡を使う魔法使いといった感じか。
次にムスッとした表情をしたボーイッシュな少女。
短い青髪と黒目にスレンダーな体型をし、腰に携えている短剣からスピード型らしい。
……別にどこを見てスピード型とかスレンダーとか言ってるわけじゃないからね?本当だからね?
そして最後にリーダーっぽく前に出てきたのは巨乳のお姉さんだった……
いやごめん、他にも特徴があるんだけど、本人が組んだ腕で大きな胸を持ち上げてたからそこに目が行ってしまったのだ。
しかしスタイルの良さは本当に中々のもので、メリーほどでなくとも大きい胸とくびれた腰、髪は膝まで伸ばした綺麗なブロンドで、揉み上げの片方を三つ編みにしている。
その立ち振る舞いから高飛車なお嬢様っぽい性格を連想させるが……
「どうも、アリアさん♪」
「僕たちはさっき依頼を終わらせてきたところだよ。アリアさんたちはこれから?」
「えぇ。ですがさすがですわね、マルス、それにルフィス!まだ昼前だというのに依頼を終えて戻ってくるなんて……簡単な準備運動でもしてきたのかしら?」
何だかちょくちょく突っかかってくる。マルスたちに恨みでもあるのだろうか?
というかその美形集団でこっちに来るのをやめてほしい。
今この場の美形比率が一気に上がって俺の肩身が狭くなってしまうじゃないか。
「……旦那、あっしはちょっと外に出ていてもいいでしょうか?」
ほら見ろ、ガカンも場の空気に押されて逃げ出そうとしてるじゃねえか。というかお前が逃げたら本当に俺一人になっちゃう気がするからどこにも行かないで!
「うん、この近くにトライアルが出たみたいだから、緊急で行ってきたんだよ」
「トライアルが!?……んんっ、失礼」
マルスの発言にアリアという女性が声を荒らげて驚くが、咳払いして落ち着こうとする。
「……なんだ、そのトライアルって?」
「ドラゴンの一種でさぁ。何でも首が三つある金色に輝く竜だとか……」
「何それ、大きな山一つ分の体格で怪獣大戦争とか繰り広げたりしない?」
「そんな大きくはありませんて。ただ成長具合によってはこの町の領主様が住んでいるお家くらいの大きさにはなるみたいでさぁ」
……死ななくなったこの体でも会ったら怖くて思わずチビりそうだな。
「さすが私たちのライバルですね!トライアルを準備運動代わりに行ってくるなんて。ですが負けませんわよ!」
「ハハッ、そんなことないよ……」
アリアのライバル意識の強い発言にマルスが困った表情を浮かべる。
だけど意外だな。マルスみたいなイケメンに対して女は全員、恋愛とか尊敬とか熱狂的なファンになるかと思ってたけど、このアリアを含めたメンバーはそれが見られない。
……そういえばうちの奴らもマルスを見て特別キャーキャー言わないな。
――もちろん僕はヤタのこと、一人の男性として好きにゃ――
思わずレチアの顔を見て、前に告白まがいのセリフを聞いてしまったことを思い出してしまう。
もちろんレチアは俺に聞かれたなんて思ってないだろう。なんたってアナさんの寝ている時に自動で録音したという音声で聞いたのだから。
現代科学顔負けの技術で乙女の秘密を聞いてしまったことに申し訳なさを覚えつつも、やっぱり意識しないわけにはいかなかった。
「……何か二、人の顔をジロジロ見て?」
……とまぁ、そんな意識していたらバレるのも当たり前か。
ここは適当な話題で話を逸らしておく。
「レチアたちってマルスのことをどう思ってるんだ?」
「マルスのこと二?うーん……」
レチアとララはアリアたちと話しているマルスに視線を向けるが、眉をひそめて悩む以外の感情は見られなかった。
「人気者……」
「か二?」
ララの呟きにレチアも疑問形にしつつ同意する。
まぁ、レチアは亜種だから一般的な感覚とは違うかもしれないけど、ララも同じ感想とはな。
「ヤタはどう思ってるのか二?」
俺がマルスをどう思ってるか?決まってるだろ。
「滅茶苦茶イケメンのクセに馴れ馴れしく話しかけてきて仲良くなった気でいる面倒臭いモテモテ野郎爆発すればいいのに」
「かつてないほど真顔で」
「おーい、聞こえてるよ?」
おっと、思わず本音が。
「……ねぇ、誰なのかしら、その子たちは?」
「彼らは冒険者だよ」
「そんなの見ればわかります!あなたたちとどういう関係かって聞いてますの!」
マルスの抜けた返しにアリアが憤慨する。
マルスとどんな関係かって?決して友人にはなり得ない知人程度の関係です。
「大切な友人だ」
おいやめろ。俺とお前がいつ友達になった?
まずどこからが友達ということになるのか、その定義から話し合おうじゃないか。
「こんな……」
アリアがポツリと呟いた気がした。
しかもかなり低めの声を出して恨めしそうな目付きで俺を睨んでいるような……
「こんな見るからに品性の欠片も感じない顔をした方のどこが……友人はきちんと選んだ方がよくてよ?」
……あっ、これ見下されてるやつですね。
しかもこっちは四人いるのに俺一人を見て言ってやがるぞ、このお嬢。
「言われずとも選んでるつもりだよ。少なくとも彼は一緒にいて苦にならない」
しかもちゃっかりマルスも俺が原因だってわかってる言い方をしやがる。
つーかお前が苦にならなくても俺が苦になってんだよ!イケメンと一緒にいる凡人以下の顔を持つ俺たちの心を察しろ!
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