4章
1話目 前編 肩身が狭い
「ふぁ~……はぁ」
椅子に座って寝ていた俺はあくびをしてから溜め息を吐く。
おはようございます、八咫 来瀬です。
見た目は好青年(目以外)をしているが、中身は35歳のおっさんである。
何かの病気とか、心の病気とか、頭の病気とか目の病気とかでもなく正真正銘、若返ってる状態だ。
理由の一つとしては、俺がこの世界に来たことが起因であることに間違いないと思う。
俺が生まれた地球ではない、この……異世界に来たとこによるものだと。
剣と魔法の世界、なんて言うと鼻で笑われるか、「それ何のゲーム?」って言われるかもしれない。
しかし実際に非現実的なものを今まで散々目にしてきた俺からすれば当初こそワクワクと驚きの連続だったし、今ではある程度慣れてしまった。
……慣れ?いや違うな。むしろ俺自身がファンタジーの塊になってしまったことで慣れるしかなくなっているんだ。
何、目が腐ってるのがファンタジーっぽいって?ハハハハハ……
今そう思った奴、ちょっと表に出なさい。その目を俺と同じように腐るまで数時間ガン見し続けてやるから<◯><◯>
とまぁ、そんな誰に言うでもない冗談はともかくとして、俺は不死に近い体になってしまっている。
腕一本無くなってもすぐに元へ戻るし、心臓や頭を吹き飛ばされても死ぬことができず同じように再生する。
さらに痛みも感じないからゾンビアタックが可能なのである。
……ゾンビか。本当にゾンビになったのなら腐ってるのが目だけじゃなく、体も腐ったってことになるな。
ハハハ、子供の頃は「おい、あそこに目が腐ったゾンビがいるぞ~」なんてからかわれたりしたが、今では本当の意味で言われかねないな、これ。
「……うにゃうゃ~」
若干落ち込みかけていると、変な声が聞こえてくる。
振り返ったそこは今のところ一ヶ月近くお世話になっている宿屋の一室で、ベッドには三人の少女が寝ていた。
まずその変な声を出していたのが、長い白髪に十歳前後にしか見えないちんまりとした身長。
しかしその身長とは見合わない、たわわなバストをお持ちの美少女、レチア。
頭には獣耳、腰からは尻尾が生えており、この世界では「亜種」と呼ばれる人間とは別の種族らしい。
最初に出会ってからは色々あったが、今では頼りになる仲間だ。ちょいとオカン属性が入ってる気もするが……
もう一人は長い黒髪に俺よりも高身長でこれまたスタイルの良い美女、ララ。俺がこの世界に来てから初めて仲間と思えた人物である。
そんなグラビアモデルとかアイドルとかやってそうな彼女らに挟まれて寝てる少女、イクナ。
青黒い髪と真っ青な肌。
片目は人間の目をしているが、もう片方は黒目に黄色い瞳をしてオッドアイみたいになっている。
今では特徴的な外見をしているイクナだが、元は人間で髪の色も違っているようだった。
彼女はとある研究所でモルモットにされ、半壊滅状態になっていたそこで道に迷っていた俺とララが見つけて連れ出したというわけだ。
「にゃー」
そして猫らしい鳴き声を発する黒猫が、俺が起きたのを見計らったかのように膝の上に乗ってきた。
この黒猫、多分俺がこの世界に飛ばされる直前にドロップキックを食らわせてきやがった奴と同一人物……いや、同一猫物だろうと思っている。確証はないけど。
妙に物分りが良かったり、たまに助けてくれたりと普通の猫ではありえない行動をする変な奴である。
そういえばこいつとも付き合いが長いな……そろそろ名付けた方がいいか?
――――
「ニャンダーはどうにゃ?」
「却下」
「なんでにゃ!?」
ララたちが起きたところでそんな話になり、イクナ以外の二人が「そういえば」といった感じの反応をする。
そしてレチアが考えた名前を即却下した。
俺としてはクロとか直球な方が好きなんだけど……
「……ィズ」
「ん?」
ララがボソッと呟いた気がして聞き返した。
「ウィズ。私の故郷で……『不思議な人』って意味がある」
「不思議な人……こいつの場合は不思議な猫だな。こいつの行動にも合ってるし、呼びやすいからいいんじゃないか?」
俺がそう言うとララは嬉しそうに笑って頷き、ウィズの命名された黒猫を抱き上げる。
「ウィズ……」
ささやくように呟いたララの表情は、思わず見蕩れてしまいそうになるほど綺麗だった。
「ニャンダーもいいと思うんだけどにゃー……」
そして不貞腐れて言うレチアの言葉で色々台無しになった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます