1話目 後半 怪しい依頼
「奴隷の脱走者や犯罪者という雰囲気でもなく、気になったので声をかけてみたのですよ。ですが話しかけてもこっちを見るだけで、言葉を発そうとしなかったので困り果てていたのです。何か事情があるのだろうと我が家へ招きました」
ライアンさんはハハハと軽く笑ってそう言うが、俺は呆れて溜息を吐いてしまった。
それにホイホイついて行ったのか?もしこの人が騙してるだけの悪人だったらどうするつもりだったんだ、あいつは……
「そしてここに連れてきた彼女に何があったかを身振り手振りで何とか知ることができました。どうやら彼女は職に困ってる様子でして」
「職に?冒険者が?」
俺もここに来てから連合に顔を出しているが、俺でもできるような依頼は沢山あったので、職に困ることなんてそうそうないと思うんだけど……
「えぇ、どうやらララさんに合った仕事がなかったらしく、話せないためかパーティも組めずと難航していたようです」
その時俺は、ララは人間関係に難があって、パーティを「組めなかった」んじゃなく「組まなかった」んじゃないかと思ったが、口には出さなかった。
「簡単な討伐を複数受け持てば、彼女でもその日を凌ぐくらいは稼げたんじゃないかと思うんですがね」
「それが……彼女は誰かを探していたようでしてね。そのせいで依頼を受ける時間がなかったようです」
ライアンさんの「誰か」という言葉に、俺はギクッとする。
え……まさか俺のせい?
いや、なんでだよ。せっかく俺が遠慮してララから離れたのに、なんで探しに来てんだ、あいつは……
「それじゃあ……あなたはそんな彼女を見兼ねて?」
「はい、メイドとして雇いました。ララさんのような境遇の者は山ほどいて贔屓とも言われるかもしれませんが、これも何かの縁と思いまして。ここにいる他の者たちも色々な事情を抱えてるのを知って雇っているんです……こんな性格だから両親からは『お前は底抜けのお人好しでバカだ』とよく言われましたよ」
いつの間にか自らの話にシフトチェンジして語り出そうとするライアンさん。
この人はアレだな……世間話大好きさんだな。
そして俺の思った通り、ライアンさんはララの話など忘れて自らの出生から今までの人生、最近あった出来事まで細々と語った。
俺は自分語りなどあまり好きじゃないし、自慢できるような人生は送ってないから、ただひたすら頷いて聞き手に回ることに専念していた。
「それでですね……っと、どうやら話に夢中になってる間に着いてしまいましたか」
思い出話をし続けていたライアンさんがそう言って一つの扉の前で立ち止まる。
そこには他と違う大きな金属製の強固な扉をしていた。
明らかに雰囲気からヤバさを感じる。
父さん、俺の危険センサーがビンビン反応してるよ!チャンチャンコもリモコン下駄もないのに、こんな妖怪でも出そうな場所に入るなんて無理だって!
もはや黒いオーラっぽいのも見えてきたもん!
しかしライアンはそんなことをお構い無しに扉を開く。
「ヴィネラさん、依頼を出した冒険者の方を連れて来まし――」
――ドゴンッ!
笑顔で入って行こうとしたライアンさんを爆発が襲う。
そして近くにいた俺もその余波に襲われ、「はぬべらっ!?」なんて間抜けな悲鳴を上げて後方数メートルを転がるくらいに吹き飛んでしまった。
「あー……ごめんなさいねぇ、領主様?たまたま偶然、今実験してた薬品の分量間違えちゃって爆発しちゃいましたよぉ……ヒヒヒッ!」
すると爆発した扉の先からフラリと誰かが出てくる。
頬が痩せこけ、いかにも怪しい雰囲気を醸し出している白衣を着た細い男がそこにいた。
いや、「ヒヒヒッ」なんて笑い方をリアルにする奴いるのかよ。
「ち、チェスター殿……またおかしな実験でもしていたのですか?」
「『おかしな』とは心外な!魔法学の進歩にはいつも爆発が付き物なんですからねぇ?」
ねっとした話し方をしながら、またヒヒヒと不気味な笑い方をするチェスターと呼ばれた男。
すると男が俺を見つけると、さっきよりも酷い、全身の鳥肌が立つ笑みを浮かべた。
俺も散々人から気持ち悪いだのなんだの言われてきたが、そんな俺でも言う側になりたくなってしまう。こいつの笑い方は気持ち悪い。
「君かい?怖いもの知らずで頑丈で頭のおかしい冒険者というのは」
「一言余計だけど……そうだ」
なんだかこいつには敬語を使いたくなかったから、砕けた感じで話しかける。というか、こっちの方が冒険者らしくていいのか?
「そうですかそうですか!……では依頼内容がどんなものかを知って?」
「いいや。ただ頑丈で根性があればって聞いただけ。そこに関してはその辺にいる奴よりは自信あるぞ」
俺の言葉にチェスターは更に口角を上げて不気味な笑みを作る。
もうあれ口裂けてるレベルじゃない?口裂け男とかいう都市伝説ができそうなんだけど。
「すばらしいぃ!では早速実験台になってもらいましょう!」
意気揚々としたテンションで部屋に戻っていこうとするチェスター。
そこに俺は待ったをかける。
「待て、その前に条件がある」
「は?条件ん?」
チェスターはピタリと歩みを止め、凄まじく不愉快そうな顔でこっちに振り返る。
「依頼の報酬だけでは足りないと?」
「俺が言いたいのは依頼内容と報酬の提示だ。曖昧で詳細が書かれてない依頼内容と報酬じゃ、すぐには受けようとは思わない。もし依頼内容が辛いのに報酬と見合わない、なんてことになりたくないからな」
そう言うとチェスターは不快そうな表情をやめて、「ふむ」と顎に手を当てて考え始める。
「それもそうでしたねぇ……いいでしょう、ではこちらも今一度条件付きで依頼内容と報酬の話し合いをしましょう!」
骸骨が笑っているかのような不気味な笑み向けてくる。
え、条件?
「報酬に関してはご心配なく、高額を差し上げますよぉ?納得いかなければ法外な値段でもない限り上乗せさせましょう。代わりに依頼内容を知った後はその内容を口外禁止、依頼の破棄もダメです。口外、もしくは破棄しようものならそれこそ法外な違約金を請求させていただきますし、逃げようものならそこの男に頼んで指名手配をさせていただきますのであしからず……」
「そ、それは……」
メリットとデメリットを提示されて戸惑う。
依頼内容を知れば途中で破棄ができない?ますます怪しいじゃねえか……
ここは保身を取って受けないという選択をした方が……
「あっ、そうそう。ちゃんとした金額の提示がまだでしたねぇ……このくらいでどうでしょう?」
「いや、残念だけどこの依頼はなかったことに――」
しかし断ろうとしたところで見せられた金額は、凄まじくら0が沢山ついた数字だった。
「……え?」
「ああ、先に行っておきますが、これは継続した場合の金額です。さすがに一回だけでこの値段を渡すわけにも行きませんがぁ……どうです?」
ピッタリと密着した状態で耳元で呟かれ、そんな悪魔のような囁きに俺は――
――――
「ヒャア~ッハッハッハッハッハ!冒険者といえば頑丈屈強我慢強い!ようやくそんな都合の良い実験体が手に入りました!」
そんな風に超ハイテンションになってるチェスターの横で、俺はベッドに寝かされ両手両足を拘束されていた。
お金の誘惑には勝てないとは、これも人間の性か……
ちなみにライアンさんは横で立って見守っている。さっきの爆発を食らったせいで、髪型がギャグ漫画みたいに焦げて立ち上がっている。
「って、本当に何するの?いくら高額だからって、腕とか足を切断とかやめろよ?」
「そこまではしませんよぉ……ただ『薬』のテストをするだけなんですから」
そう言うチェスターの手には注射器が握られていた。
……やっぱ判断を間違えたかもしれない。
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