閑話 前半 モルモット
私はある日、何も聞かされないままどこかの施設に連れて来られた。
パパもママもいなくて、それがただただ怖くて、大人の人に連れていかれている間ずっと下を向いて歩いていた。
ちょっとだけ気になって横を向くと、白い服を着た大人がいっぱいいて、窓の向こうを見てる。
たまに変な動物の鳴き声とかも聞こえてもっと怖くなった。
「……ねぇ、パパとママは?」
私の手を引っ張る大人の男の人に、勇気を振り絞って聞いてみた。
するとちょっとだけ止まってこっちを見てきたけれど、すぐにまた歩き始める。
「……もう君の両親には会えないと思った方がいいよ」
男の人の言葉が頭の中でグルグル回る。意味がわからなかった。
もう会えない?りょうしんって何?パパとママには会えないってこと?なんで?
理解が追い付かないまま、ボーッとしていた私はある一つの何も無い部屋に置いていかれ、男の人はどこかへと消えてしまった。
ふと男の人と繋いでいた手を見ると、「No.197」って書かれたプレートを持っていた。ボーッとしてる間に男の人に握らされたんだと思う。
そして時間が経つにつれて悲しい気持ちが溢れ、涙がポロポロと流れ出て泣いてしまっていた。
さっきの男の人の言葉で、もう二度とパパとママには会えないと悟った私は、必死に叫んだ。声が枯れるまでずっと……
泣き叫ぶ私を慰めてくれる人は誰もいない。もうパパも……ママも……
――――
泣き過ぎていつの間にか寝てたみたいだった。
起きると少しだけ部屋の様子が変わってた。
可愛いぬいぐるみが何個も部屋のあっちこっちに置かれてる。あの男の人が慰めるつもりで持ってきてくれたのかな?
でも私はもうぬいぐるみや人形で遊ぶ趣味は卒業してるから、あまり興味はないのに……
するとこの部屋の扉がカシャッって音を立てて開いた。
ここに来た時は気付かなかったけど、凄い扉だなと思った。ぬいぐるみより、こっちを見てたら泣き止んでたかもしれない……
「やぁ、嬢ちゃん。落ち着いたかい?」
優しい声で話しかけてきたのは、優しそうな白髪のおじさんだった。おじいちゃん……かな?
思い出すとまた泣きそうになるけど、とりあえず頷いておく。
「そうか……あのね、お嬢ちゃんはおじさんたちのお仕事のお手伝いをすることになったんだ。それで君のお母さんたちに頼んで、しばらくここに住んでもらうことにしたんだ」
お仕事のお手伝い?私、何も聞かされてない……
「……会えるの?」
「え……?」
「パパとママに会えるの?違う男の人に「会えない」って言われた……」
まだショックが残っているのか、拙い言葉でそう言った。
するとおじさんは「うーん」と困ったように唸る。
それがまた私を不安にさせた。
だけどおじさんはすぐに優しい笑顔になって否定する。
「大丈夫だよ、お仕事が終わればまたお母さんたちに会える。ただその間、寂しい思いをさせちゃうと思うけど……我慢できるかい?」
それを聞いた瞬間、不安で浮ついていた私の体が落ち着いて地面についた気がした。
ホッと息を吐き、また涙が出そうになるのを我慢して私も笑おうとする。
「大丈夫!またパパとママに会えるなら、頑張る!」
必死に笑みを作って言う。
するとおじさんはさっきよりも嬉しそうな笑顔になる。
「それはよかった!それじゃあ、早速なんだけど……注射は嫌いかな?」
<hr>
お仕事を初めて次の日になった。時計も無い部屋の中にずっといるから時間感覚がわからなくなっちゃうけど、ここに来る人が教えてくれる。
ここには色んな大人の人がいて、今日は昨日とは違う大人が来た。
「ほーい、今日も注射するから大人しくしてろよー?」
なんというか……男の子みたいな喋り方をするカッコイイお姉さんだった。
赤髪で身長もここで見た男の人たちより高い。その人の綺麗な赤い目で見られると、ちょっとドキドキする……
私は注射とか結構大丈夫な方だったから、その人の言う通り大人しくしてた。
「あーん?血管どこだ……?針刺すとか繊細なもんはやっぱ苦手なんだよな……おっ、あったあった♪」
……凄く不安でしかない。
大丈夫だよね?失敗して私死なないよね?
ここに来た時とはまた違った恐さがあった。
「ほい、終わったぞ」
「あ……うん……」
注射が無事終わってホッとする。
あれ、でもなんだろう……頭がボーッとする……眠いのかな?
「ん?どうした?」
「……ううん、なんでもない。ちょっとまだ眠いだけ」
「頭が変」と言おうとしたけど、眠いだけだと思ったからそう言わなかった。
「おいおい、まだ昼だぞ?……って、こんな場所にいたら眠くなってもしょうがねえか。ならちょっとこっち来いよ」
女の人が正座になって、自分の太ももをパンパンと軽く叩く。
なんだろう……?
女の人のところまで近付くと、無理矢理寝かされた。
「えっ、えっ?」
それが唐突過ぎて女の人が何をしようとしていたのかがわからなくて混乱した。
でも頭に当たっているのが柔らかくて気持ち良い感触だった。
それが短くも離れてしまったママたちを思い出して安心して……
「寝る子は育つっていうしな。私って柔らかい方だから、枕代わりにも十分……ん?」
私はもうウトウトとしていて、目を瞑り眠ってしまう直前だった。
「ふふん、私の膝枕も捨てたもんじゃないってことだな」
女の人の得意げな声が聞こえてきた。
そしてその人に頭を優しく撫でられて、私の意識は次第に暗闇に沈んでいった。
それからどれだけの時間が過ぎたのか、わたしは目が覚めた。
目を擦って辺りを見渡すと部屋の電気は消されていて暗かっタ。あのカッコイイ女の人モいない。
誰もいないことヲ確認すると、急に寂しクなってしまった。
「パパ、ママ……アレ?」
パパとママの顔……どンな顔だッタっケ?
――――
「今日も注射するから、少し我慢しててねー」
今日も注射。
ここノ人二「大丈夫?」ト聞かレた。ナニがだろう?
私がココに来てから五日ガ経ったッテ大人ノ人が言ッテタ。
あれカラ五日……なんで私ココニいるンだっケ?
体に青い痣もアるし……ナンダカ痒イナァ……
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