廃れた世界に花束を

たぴおかぴ

第1話 死の星と生きる者

 ―3rd A.D.648 8/21―


 かつて地球と呼ばれたこの星は、今や生命活動不可能な死の惑星となっていた。地平線の彼方まで続く白い大地と大気が汚染され黄土色になったこの景色は、生物が存在していないことを明瞭に示していた。

 旧人類の叡智が地上、地下深く、そして遥か上空にまで存在していた頃の名残は何処にもない。かつての地球には海という塩水の巨大な湖があったらしい。そんな夢のようなものの欠片も見つけることは出来なかったが。果たしてこの星で生きていくことは出来るのか………



  * * *



 俺、レイン・シャルロットは地球調査機動隊に所属している。今日が初の地球調査で、仲間と共に只今帰還したところだった。乾ききった空気や砂埃にさらされた調査用強化服を洗浄し、拠点 ―アースクリア(地球調査隊の拠点兼宇宙船)―へと足を進める。暫くして機動隊の仲間に一瞥をし、自分の部屋へ向かう。


「ただいま」


 白一色の味気のない自動ドアが開き、我が家に帰ってきたことを報告する。すると横の物陰から人影が飛び出してきた。


「おかえりぃぃぃぃ!!!」


「う゛っ!……お前なぁ…帰還直後の人間のみ・ぞ・に肘入れるやつがあるか?」


「いや、だってさ!初めての地球探査でしょ!?そりゃ心配もするよ!!!」


「だからって帰ってきて早々肘タックルは控えていただきたい…」


 この元気、もというるさいのは幼なじみのユーカ・デラクニル。綺麗な茶髪に、瑠璃色のクリッとした目。その顔は小動物を連想させるまるっとした童顔だ。こいつは地球調査隊の医療兼技術メンバーとしてついてきている。昔から手先は器用だったのが功を奏し、メンバーに抜擢された。らしい。


「で、初調査はどうだった!?」


 左右に首を振りながら俺は答える。


「全然だめ。1万年も前の資料なんて当てにならんわ。科学文明の面影ゼロ。海なんてどこにあるんだって感じ。」


「そっかぁ〜空飛ぶ船とか見られないのか〜」


「話最後まで聞けよ。てか、地球まで来るのに宇宙船乗ってきただろうが」


「それは別だよ〜!!!」


 俺達はそんなちょっとした夢を織り交ぜた他愛も無い会話をしながら食堂へ向かった。

 食堂には既に機動隊の仲間やユーカの同僚の顔も揃い始めていた。今日は地球初調査終了の打ち上げがある。いつもは白一色の食堂だが、今日は申し訳程度の装飾が施されている。

 俺はユーカと別れ、機動隊の仲間の元へ駆け寄った。

 機動隊の顔にはわずかだが疲労の色がみてとれる。確かに事前のシミュレーションと比べあまりにも環境が劣悪すぎた。故に精神面から体調を崩した者も少なくなかった。

 そんなことを考えていると食堂のざわめきがなくなったのに気づいた。全員の視線が一点に集中している。その先から大きな声が響いた。


「お前たち!初の地球調査が只今終了した!!沢山食え!沢山歌え!心の底から喜び盛り上がれ!!!」


「「「うぉぉぉ!!!!!!!」」」


 大声に続きその場にいた全員が弾けるように声を上げ互いを称えあった。


「よお、レイン!初調査お疲れだったな!」


 声をかけてきたのは、さっきの大声の発信源。凛々しい顔立ちにぴったりな爽やかな笑顔。その体は動物の筋肉をも彷彿とさせるしなやかさと強靭さを併せ持つ完全体パーフェクトボディー。機動隊隊長のラウド・ガーネットだ。


「ラウドさん、お疲れ様でした。今日はありがとうございました」


「おう!そんなに畏まらなくてもいいんだぞ」


 多くの人を頼り、頼られ、信用し、信用される。強靭な肉体を持ち、頭の回転も速く、どんな状況でもそれを打破できる能力を持っている。そんなラウドさんを俺は尊敬していた。


「それより嫁さんどうした」


「いや、嫁じゃないですし。ユーカなら医療班の方にいるはずですが」


「さすが旦那!嫁さんのことわかってんじゃねーか」


 そう言ってラウドさんは大きな声で笑った。俺とユーカはこの地球調査隊の中では最年少だ。だから皆によくいじられる。正直きついです。やめてください。


 この後の事が多少予測がついたのでさっさと食堂を後にしようとしたところ、他の機動隊メンバーに捕まってしまった。


 ラウドさんに冷やかされ顔を真っ赤にしたユーカが俺に助けを求めに来るのは数十秒後のことだった。



 ——あとがき——


 この度は僕の小説を選び、お読みくださりありがとうございます。今作が初めての執筆となります。まだまだ拙い点があるかと思いますが、暖かい目で見ていただけると幸いです。

 作品の純粋な感想はもちろん、気になる点や指摘などがあれば書いていただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いします。


 たぴおかぴ

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