短歌とホラーと女子高生と

鯨井イルカ

第1話 笹かまぼこ

 夕陽に照らされた放課後の教室。


 グラウンドから響く、運動部の声。


 もちろん、残っているのは私一人。

 

 読書に没頭するには、もってこいの環境だ。

 そんな感慨にふけりながら、私は文庫本のページをめくった。


 この学校にも、図書室はあるし、品揃えが悪いというわけではない。

 それでも、私語厳禁、と言われているのに、集団でやってきてペチャクチャと喋る奴らが結構な数いる。

 だから、あまり好きではない。

 ……決して、沢山の友達と楽しそうにしている姿を見て、羨ましくなるからではない。

 別に、独りでいたって、寂しくなんかないし、読書するときに話し声があると集中できないのは本当だし……

 何故か言い訳のようなことを考えていると、廊下からバタバタと足音が聞こえて来た。

 

 それに、私にだって、仲の良い友達くらいいる。

 ふはははは! どうだ、まいったか!



 ……私は、何に対して勝ち誇っているのだろう?



 自分に対して呆れながら、文庫本をたたんで鞄に詰め込んだ。

 すると、教室のドアがガラッと音を立てて開いた。

 そして、明るい茶髪を二つに束ねた背の高い女子生徒が、息を切らしながら姿を現した。


 彼女はミナ、私の幼なじみで大切な友達だ。


 ミナは私の姿を見つけると、長い睫毛をした大きな目に、涙をたたえながら駆け寄って来た。


「うわーん! スバルー!」


 ミナはわざとらしい泣き声とともに、私の名前を叫んだ。

 ミナは何かあると、いつも私に泣きついてくる。

 まあ、困ったときに頼りにしてもらえるのは、悪い気はしない。


「聞いて、聞いて、聞いてー!」


 ……ただ、力任せに肩を掴まれ、ガクガクとゆさぶられるのは、勘弁願いたい。

 とはいえ、パニックを起こしているみたいだし、口で言っても聞かないか。


「ええい! 落ち着け! この大型犬!」


「ぎゃん!?」


 私が渾身の力を込めて頭突きをすると、ミナは短い悲鳴を上げて肩から手を離した。

 そして、額をさすりながら、涙目で私を見た。


「酷いよ、スバル、何するの?」


「それは私のセリフだ。脳震盪のうしんとうを起こすかと思ったぞ」


 私が反論すると、ミナはしょげた表情を浮かべた。


「そっか、ごめんねー……あれ? ところで、さっき私のこと、大型犬とか言わなかった?」


 ミナはそう言うと、不服そうに頬を膨らませた。

 あー……どさくさに紛れたつもりだったけれど、聞かれていたか……


「ほら、ミナってちょっとゴールデンレトリバーみたいで可愛いから」


「え!? 本当!? 美少女のスバルに可愛いって言われると、照れるなぁ」


 怒ったかと思ったら、すぐに照れ笑いを浮かべた。

 うん、やはり可愛いな。

 ……いや、今はそんなことを考えている場合ではないか。


「それで、何があったんだ?」


 私が質問すると、ミナは大きな目を見開いた。



「そうそう! さっきね、すごく怖いことがあったの!」


「またなのか……」



 ミナは昔から、何故かことあるごとに怪奇現象に遭遇する。

 その度に、私に泣きついてくる。

 それは、構わないのだが……


「そうなの! さっき、リコぺんとゴミ捨てに行ってたんだけどね! あ、リコぺんっていうのは、ウチのクラスの吉田梨々子ちゃんって子でね、すごく仲良しなんだ! それでね、リコぺんと二人でゴミを捨てにいったらね、ゴミ捨て場の近くにある、昔使ってたゴミ燃やすやつ……えーと、なんだっけ……そうそう、焼却炉だ! リコぺんは気がついてなかったけど、焼却炉からギャー! って聞こえて、変な匂いがしてウェってなって……あ、変な匂いっていうのはね」


 ……事態を説明してくれようとすると、なんとも酷い有様になる。

 本人は必死なのかもしれないが、何が起こったのか全く伝わってこない。

 まあ、普段は普通に話すことができるし、パニックになっているから、仕方ないのだろうけれど……


「それで、リコぺんは先に帰ったんだけど……あ、置いていかれたんじゃなくて、習い事があるから先に帰らないといけないんだって! 私はリコぺんとスバルの三人で帰りたかったんだけどな……あ、それでね! リコぺんが帰っちゃったから、私一人で焼却炉を開けたら、なんかもう、ゾワーってなって……」


「ミナ、ちょっといいか?」


 思わず話を止めると、ミナはキョトンとした表情で首を傾げた。


「うん、どうしたの?」


「話の内容が、全く頭に入らない。五・七・五・七・七の形でまとめろ」


 私の言葉に、ミナはあからさまに不服そうな表情を浮かべた。


「えー、なんで、今ので伝わらないのー?」


「いや、むしろ今の話で、なんで伝わると思ったんだよ……ともかく、まとめられないなら、私は何も聞かなかったことにして帰るぞ」


 そう言って席を立つふりをすると、ミナは慌てて私の肩を掴んだ。


「わー! 待って待って! 今、やってみるから」 


 そして、私を席に着かせると、自分も隣に座った。それから、口元に手を当てて黙り込んだ。

 やれやれ、これでようやく状況が把握できる。

 ミナは無軌道に話させるより、何故か短歌の形式にさせた方が、遭遇した事態を分かりやすく説明してくれる。

 まあ、分かりやすすぎて血の気が引くこともあるけれど……そのあたりは気にしないでおこう。


 それにしても、こうしていると、先ほど騒いでいたのと別人のように見えるな。

 

 長い睫毛の凛々しい目。


 筋の通った高い鼻。


 形の整った唇。


 まっすぐ伸びた背筋。


 可愛いというよりも、美人という形容詞が似合う容姿。

 若干アホなところはあるけれど、明るくて朗らかな性格。

 人付き合いが苦手な私をいつも気にかけて、声をかけてくれる優しさ。

 こんな様子だから、ミナは男子からも女子からも人気がある。


 それでも、困ったときに真っ先に頼りにされるのは、他の誰でもなくこの私だ。


 優越感に浸っていると、ミナは口元から手を離した。




「焼却炉 扉の中に 目が光る 悲鳴を上げる 生焼けの子の」




 ……そして、優越感をぶち壊すような歌を詠いだした。

 それにより、私は一気に現実へと引き戻された。


「って感じのものに遭遇したんだけど……あれ、スバル、頭をおさえたりして、どうしたの?」


「いや……予想以上にヘビーな内容だったから、ちょっと頭痛が……」


 頭痛を堪えながら答えると、ミナは口元に手を当てて視線を上にずらした。


「ヘビーというか、むしろベビーみたいな……」


「あー、うん、分かった。ともかく、すごく怖かったっていうのは伝わった。だから、それ以上、焼却炉の中にいたものについては、何も言わないでくれ」


 私が制止すると、ミナはコクコクとうなずいた。


「分かったー。それで、怖くてすぐに扉を閉めたんだけどさ、やっぱり気になってもう一回開けてみたの。そしたら、何もいなかったんだよね……」


 ミナはそこで言葉を止めると、深いため息を吐いた。


「これってさ、見たらマズいやつだよね?」


 そして、不安げな表情で首を傾げた。


「さあ……でも、生焼けの何かが実際にいたってよりは、マシなんじゃないか?」


 涙目になるミナを励ますと、うー、という不服そうな声が返ってきた。


「そうだけどさー……何か、呪われそうで嫌だなー……」


 呪われそう、ね……

 小さい頃から怪奇現象に遭遇し続けているのだから、既に何らかの呪いにかかっている気もするが……


「ねえ、スバル、何か呪いを跳ね返すようなおまじない知らない?」


 心の中で疑問に思っていると、ミナは再び首を傾げた。


「……何故、私がそんなことを知っていると思ったんだ?」


「えー、だって、中学の頃、占いとか、陰陽道とか、悪魔召喚だとか、そんな本ばっかり読んでたじゃない。それに……」


「分かった、私が悪かった。何か思い出すから、それ以上何も言わないでくれ」


 いわゆる黒歴史を蒸し返される前に、何か思い出さないと、大変なことになりそうだ。

 まあ、その黒歴史も、怪奇現象に悩まされるミナのために、解決方法を色々と調べていたのを拗らせた結果なのだけれど……


「えー、なんでそんなこと言うの? 格好良かったのに、陰を祓う者シャドウスイーパーの決めポーズ」


 ……当の本人は悪びれることもなく、人の傷口を抉りながら、片目をおさえて斜に構えた。

 いっそのこと、逆に呪いを受けるようなことを教えてやろうか、コイツは……

 いや、本気で格好いいと思っているみたいだから、許しておこう。

 ともかく、ミナでもできるようなおまじないを思い出さないと。

 

 えーと、身近にある物で手軽にできるようなヤツは……

 

「あー……たしか、ぬるま湯につけた笹の葉を振り回すと、悪いモノが逃げていく、みたいなことを何かで読んだことがある」


 ……我ながら、微妙なものを思い出してしまった。


 ぬるま湯はともかく、笹の葉なんてどこから仕入れればいいのだ?

 私の提案に、ミナは真顔になって黙り込んだ。

 さすがに、呆れてしまったか……


「笹の葉か……昨日おじいちゃんから、大量に笹かまぼこ送ってもらったから、それでいけるかな?」


 しかし、想に反して、ミナは真剣に私の案を検討してくれていた。

 それは嬉しいかぎりだが、大量の笹かまぼこで何をするつもりなのか?


「胸ポケットの中で温めておいて、次に遭遇したときに投げつければ、どうにかな……」


「……いや、多分どうにもならないよ」


 私が脱力しながら反論すると、ミナは残念そうにため息を吐いた。


「そっかー……だめかー……」


「まあ、怪奇現象の類は気にしないのが一番っていうから、普段通りにしていればいいんじゃないか?」


 私の言葉に、ミナは不服そうな表情を浮かべた。


「えー!? じゃあ、大量の笹かまぼこはどうすればいいの!?」


 ミナの興味は、焼却炉の怪奇現象から、大量の笹かまぼこの消費方法に移ったようだ。

 うん、わけの分からない現象に悩むより、健全だ。


「そのまま食べたり、磯辺揚げにしたり、蒲焼き風にしたり、バターと炒めたりすればいいだろ」


 私が答えると、ミナは目を輝かせた。


「あ、蒲焼き風ってすごく美味しそう! ママが、スバルの家にもおすそ分けするって言ってたから、お弁当に入れてきて!」


「それなら、物々交換だ。私はバター炒めを所望する」


「分かった! 交換しよ!」


 ミナは元気いっぱいに返事をして、無邪気に笑った。

 笑ったときに見える八重歯が、すごく可愛らしい。

 そんなことを考えていると、またしてもミナは真顔になった。


「あれ? そう言えば、なんで笹かまぼこについての話になったんだっけ?」


 自分から助けを求めてきたのに、もう忘れたのか?

 

 ……まあ、仕方ない。

 ミナは、怪奇現象についての記憶を異常に忘れやすくなっているのだから。

 

 あまりの忘れやすさに少し心配になるが、恐怖をずっと引きずっているよりマシだろう。


「さあ? でも、別に気にすることでもないだろ。笹かまぼこ、美味しいし」


 怖がっていたことを思い出させないように、適当に話を濁した。

 ただ、少し突き放すような話し方になってしまったような気がする。

 ミナは怒ってしまうだろうか?


「うん! そうだね!」


 私の不安に反して、ミナは気分を害することなく、屈託のない笑みを浮かべた。

 見ているこちらまで、明るい気持ちになるような笑顔だ。



 この笑顔を守るためなら、私は何にだってなろう。



「ところでスバル、そろそろ帰らない? 笹かまぼこの話してたら、お腹すいちゃったー」

 

 心の中で決意をしていると、ミナが気の抜けた声を出して、胃のあたりをおさえた。 


「そうだな。ただ、私はまだ少しすることがあるから、先に行って校門のあたりで待っててくれ」


「うん! 分かった! じゃあ、また後でね!」


 ミナはそう言うと席から立ち上がり、駆け足で教室を出ていった。

 さて、私はもう少しだけ、ここで時間を潰そうか。

 昇降口でミナと鉢合わせたら、面倒なことになるから。


 五分ほど時間を置いて、私も教室を出た。

 ミナがふざけて隠れていたりしたらどうしよう、という不安はあった。

 しかし、そんなことはなく、昇降口にたどり着いても、ミナの姿は見当たらない。

 それはそれで、寂しい気もするが……

 まあ、これで本来の目的は無事に達成できるのだから、気にしないでおこう。


 それから、私は革靴に履き替え、校舎を出た。

 そして、校門とは逆方向に歩きだす。

 校舎を出て数分足らずで、目的の場所に到着した。



 ゴミ捨て場の横に設けられた古い焼却炉。



 掃除の時間も終わっているため、私の他に生徒の姿はない。

 念のため周囲を見渡したが、こちら側を向いた校舎の窓にも、人影はない。

 

 これなら、好都合だ。


 私は焼却炉の扉に手をかけた。それから、目を閉じて、ミナが詠った歌を思い出した。


  焼却炉

  扉の中に

  目が光る

  悲鳴を上げる

  生焼けの子の




「ああああぁぁああああぁぁぁぁ!」





 歌を頭の中で唱えた途端、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。

 それから、生臭いような、焦げ臭いような、酸っぱいような臭いが鼻をつく。

 吐き気を堪えながら扉を開くと、中にはミナが詠った通りのモノが蠢いていた。


 体の半分が焼け焦げ、目だけが光る、乳児のようなモノが。


 私がこう言う類のモノを見ることができるようになったのは、中学時代だった。

 ミナが見ているモノを私も見たいと言う一心で色々と試行錯誤して、今の方法にたどり着いた。


 

 ミナに歌を詠んでもらい、怪奇現象に遭遇した場所で歌を唱える、という方法に。



 この方法が見つかったときは、嬉しかった。

 これで、ミナが怖がっているときに、力になれると思ったから。

 それに、怖い思いをしたときに真っ先に頼りにされる、という役得も手に入れたから。

 ときには、パニックになったミナに抱きしめられることだってあるのだし。


 ……いや、思い出してニヤけていないで、目の前のコイツをどうにかしよう。

 

 コイツらが何故現れるのかは、分からない。

 ただ、大体のモノが、悲鳴やうめき声を上げている。

 時折、怒鳴り散らしているヤツもいるが、ほとんどが苦悶の表情を浮かべている。

 だから、多分、自分たちの悲しみや苦しみを分かってもらいたくて、姿を現しているのだろう。

 ミナのように、コイツらの姿が見えて、優しい人間の前に。


 ミナがそれで、どれだけ苦しんでいたかも知らずに。


 目の前のモノに怒りを感じるとともに、私の足元に赤黒い沼が現れた。

 赤黒い沼は、私を中心にして少しずつ広がっていく。

 そして、焼却炉の内部にまで広がり、目の前のモノを飲み込んでいく。


「ああああぁぁああああぁぁぁぁ……」


 目の前にいたモノは、悲鳴を上げながら、沼の中に沈み込んでいった。

 すると、赤黒い沼は徐々に色を薄め、ついには、跡形もなく消えていった。

 

 ……相変わらず、えげつない力だ。


 ミナが見ているモノを見る方法が見つかってから、恐怖を共有することはできるようになった。

 それは、ミナの気休めになったのかもしれない。

 それでも、根本的な解決にはなっていなかった。

 だから、私はミナを怖がらせるモノを追い払うため、色々な対策方法を調べた。

 調べるだけでなく、実験と実践も沢山した。

 失敗して、体調がものすごく悪化したこともあった。

 一晩中、何かのうめき声が聞こえて、一睡もできないこともあった。

 何かを拗らせて、二つ名や決めポーズに力を入れてしまったこともあった。

 それでも、そんな苦労が実を結んで、私は怪奇現象に対抗する力を身に付けた。


 ただし、身に付けたのは、赤黒い沼を呼び出し怪奇現象を飲み込む、というかなりグロテスクな力だった。


 初めのうちは、怪奇現象が飲み込まれていく光景が、気持ち悪くて仕方なかった。

 しかし、今ではもうすっかり慣れてしまった。

 それに、これでミナが怖がらなくて済むのなら、安いものだ。

 ただ、この光景は、絶対にミナに見つからないようにしないといけない。

 絶対に怖がらせてしまうから。


 それに……


 私を怖いモノと認識したら

 ミナはきっと私のことを忘れてしまうから


 ……まあ、見つからなければ良いだけか。


 感傷的になっていても仕方ない。

 これ以上待たせたら悪いから、早く校門へ向かおう。


 早足で校門に向かうと、スマートフォンを凝視するミナの姿が目に入った。

 いつになく真剣な表情に、声をかけるのが怖くなる。

 さすがに、待たせすぎてしまったか……


「……あ! スバル! おかえりー!」


 私の心配をよそに、こちらに気づいたミナは屈託のない笑顔を浮かべて手を振った。


「ああ、お待たせ。遅くなって、ごめん」


「ううん、気にしないで!」


 一見すると、本当に全く気にしていないように思える。しかし、先ほどの表情は、絶対に怒っていた。

 直接怒るのが面倒だと思われるほど、嫌われてしまったのだろうか?

 ミナに嫌われてしまったら、私は一体どうすれば……


「スバル、どうしたの!? 泣きそうになってるよ!?」


「だって、ミナ、すごく怖い顔してたから……待たされて、怒ったのかなと……」


 不安を正直に口に出したら、涙が堪えられなくなった。

 待たせておいた方が泣きだすなんて、すごく滑稽だ。

 きっと、ミナも呆れているのだろう……


「そんなことで、怒ったりしないよ」


 私の不安に反して、ミナは優しく頭を撫でた。

 滲んだ視界の中には、穏やかに微笑むミナの顔が映っている。

 どうやら、本当に怒ってはいないようだ。

 だとしたら、先ほどの表情は一体……


「えーとね、笹かまぼこのレシピをちょっと見てたんだけど……ほら、これ見て」


 疑問に思っていると、ミナは私の目の前にスマートフォンを差し出した。

 スマートフォンの内容を見た途端、私の涙はピタリと止まった。

 多分、顔には先ほどのミナのような表情を浮かべているのだろう。


「超美味しい笹かまぼこのチョコレートソースがけ……考えたヤツは、正気なのか?」


 率直な感想が、思わずこぼれてしまった。

 いや、人の趣味趣向にケチをつけるのは、良くないことだと分かっている。

 しかし、さすがにこれは……


「ねえ、スバル……これ、ものすごく気になるよね?」


「巻き込むな、同意を求めるな、かがみ込んで顔を覗き込むな。やってみたいなら、一人でやれ」


「分かった……スバル、私に何かあっても、楽しく生きていてね」


「今生の別れを覚悟するくらい無謀な挑戦だと分かっているなら、挑まないでくれ」


「スバル、青春時代は短いんだから、何事にも全力で取り組まなきゃ!」


「どうせなら、笹かまぼこじゃなくて勉強に全力で取り組めよ」


「ぜ、全力で取り込……もうとしてるもん!」


 いつしか、私たちはどちらともなく足を進め、とりとめのない会話に花を咲かせていた。

 傍目から見れば下らなくても、私にとってはとてもかけがえのない時間だ。



 だから、ミナを怖がらせるモノは、これからも全力を尽くして退けよう。



 二人でいつまでも、こんな会話をしていられるように。 

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