第28話 学び

 「高校の三年より大工の三年」という。学びの濃さは学校より大工が上だというのだ。確かに手に職はつく。だが誰にでも学びがあるわけではない。弟子入りしても、続かない場合だってある。大切なのは忍耐。

 労働基準法ができて、徒弟制度がなくなったわけではない。年季奉公・年季明け・御礼奉公という考え方は、形を変えて残っている。弟子入りしてまずさせられるのは、掃き掃除と片付けだけ。何も教えてもらえない。

 掃除と片付けによる整理整頓は、物作りの現場の安全と品質を保つ上で大切。そうした仕事の意味は、自分で学んでいくことが望まれる。仕事が入れば、棟梁や兄弟子は真剣勝負。背中を見て学ぶしかない。

 職人の世界は皆厳しい。料理人の同級生は、兄弟子から拳で殴られて仕事を覚えたと笑っていた。必死で学ぶ覚悟がないと続かない。知り合いの息子は、中卒で寿司屋に弟子入りして三日で辞めて帰ってきた。

 高校に、こんな厳しさはない。丁寧に教えなければ、教師としての資質を疑われる。かくして生徒は、コンビニの客よろしく、教えてもらって当たり前という態度になる。学びは、もっと貪欲でありたい。

 「高校の三年より大工の三年」という。学びの濃さは学校より大工が上。だがその学びは、あくまで本人の覚悟が支えている。貪欲な学びの覚悟は、大工でない高校の学びであっても、じゅうぶんに役立つはずだ。



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