キボウ ~失われていた物語~

搗鯨 或

第1話

「次の各文のカタカナを漢字に直して書け」

 開けている窓から入ってくる夜風が冷たく感じる。期末テストの6日前、真面目に勉強しているのは僕だけだろう。僕だってこのご時世勉強する必要なんてないと思ってはいるのに、特にやることがないので、仕方なく勉強している。ある時間になるまで。


(3)明日へのキボウ


 これがどうしても思い出せない。確か四年前、小学校四年生のときに習ったやつだ。シャーペンを片手に思考を巡らせるが、どうしても出てこないのだ。わからない問題に当たったら、すぐ答えを見て覚えろ。よく先生に言われた。僕はシャーペンを置いて、考えるのをやめたが、答えを見ようとは思わなかった。家を出る時間になったから。

 23時、僕は少しよれてきている紺のコートを羽織って、愛用している肩掛けバックをつかむ。机の上にできていたノートと問題用紙の山が崩れそうだったので、少し整えてから部屋を出た。崩れた音で母が起きると、めんどくさい。

 部屋から玄関はすぐなので、移動が楽だ。上の階で眠っている母を起こさぬよう、そっと玄関から外へでる。出る際に、自分の部屋の窓が開けたままなのを思い出したが戻って閉める気にはならなかった。


 家から数分のとこにある、街道に面しているコンビニに向かう。そこでコーラと卵サンドを買う。正直、コーラはスーパーで買いたかった。安いから。

「426円です」

 青と白のストライプ制服を着た黒ぶち眼鏡の店員が無愛想に言う。1円玉が足りなかった。

「あと1時間くらいですね」

 4円のお釣りを返しながら彼はそう言った。きっと暇にしていたのだろう、人が全く来なくて。

「あれは、本当なんでしょうか?」

「さぁ」

 久しぶりに家族以外の人間と話した気がした。


 買ったコーラを片手に、僕は街道に沿って歩いていった。コンビニの近くにファミレスがあったが、人はいないし、明かりもついてなかった。街道を沿って歩いているが、車は一台も見当たらない。車も人もない。それに加えどの家も明かりが灯っていない、一軒も。

 こんな異様な風景だが、ぼくはこの景色に親しみを感じていた。僕に似ているからだろう。未来への光がない。もうすぐ終わるであろう僕の人生には。

「キボウが書けなかったのも、そのせいでは?」

 人は何故生きるのか。何年も前からずっとこのことを考えている。僕は、昔から将来を明るく考えられない子だった。悲観主義者と言われた。


 けど、この状況では大多数の人が悲観的な考え方になっていると僕は思う。

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キボウ ~失われていた物語~ 搗鯨 或 @waku_toge

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