1話 赤子との出会い

「ふむ…」


魔森エンダーハの主、フェンリルは数百年ぶりに困惑していた。


ここは魔の森。

大量の魔物が住み着いており、尚且つ熟練の冒険者ではないと倒せない魔物が大半を占めている。

そんなところには人は滅多に立ち入ろうとしない。


それが自分の目の前に居る生まれてたての赤子なら尚更だ。


「さて…どうしたものか。喰おうにもこのサイズだと腹の足しにもならんな。」


そこでフェンリルはあることを思いつく。

フェンリルは他の魔物とは一線を画しているため、森の中では暇で暇で仕方がなくなっていた。

よって数千年に一度来るかどうかの古龍以外と暇つぶしが出来ない。


そこで、フェンリルは


「よし…育ててみるか。」


赤子を育てることにした。


「しかし、見事な銀髪だ。」


その赤子は肌は雪のように白く、髪は月明かりが反射する程の銀髪だった。


「これは何処かの王族の娘では無いか?」


それならば尚更育てなければならない。

親の国を探しに行くのも良いが、まだ王族の娘だと決まった訳じゃない。

ある程度育つまで見守る事にした。


「まずは食料をどうするかだな…」


人間の赤子は母親の母乳を飲んで命を繋ぐ。

しかし、ここに母親は居ない。


「狼の母乳でもいいのか?」


狼の母乳を飲んで育った人間は聞いた事がない。

ましてや、魔物の乳なぞ飲んで平気なのか?

けれど、私達の出来る事を考えれば飲ませてみるしかない。


「ウオオォォォォン!!」


フェンリルの咆哮を聞いて、眷属の銀狼達が集まってきた。


「この中に母乳がでるやつは居るか?そこの赤子に飲ませてやりたい。」


そう問うと一匹の雌狼が答えた。


「飲ませてやってくれ。」


雌狼が乳を出すと赤子はすぐさま吸い付いた。

余程腹が空いていたらしい。


「これから私はこの赤子の面倒を見る。其方は、定期的に授乳に来てくれ。」


フェンリルは、これが大波乱の前兆だということををまだ知らない。

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