第9話 第二章 魔法姫(5/7)

【約2300文字】



【異世界であるトロピ界に召喚された勇太は、ジャンケンに勝った直後に毒見ができるかどうか試された。そして、その全ての毒を難なく当てたのだった】



 例え、一度感じた毒でも、時間が経つと感じない。ジャンケンの直後だけに感じるのだ。

 つまり、ジャンケンの直後だけ勘が鋭くなっているのである。


 そして、勇太には毒見の実感がない。ただ、ジャンケンをしただけに等しい。


 イラシャの言葉を思い出した。

 その時は意味が分からなかったやつだ。


 無敗の競輪選手が、自転車に乗れる能力を求められる。

 勇太の場合、無敗のジャンケン能力者が、勘の毒見能力を求められる、という訳だ。

 ちょっと違いそうだが、ジャンケン無敗も毒見も勘を母体にしている。


 勇太は、意味の分からなかったモノが、自身に潜んでいたと実感したのだった。



 パンッ!

 ミマが手を軽く叩いた。


「あたしは勇太を信じますわ! 力いっぱい、信じますわ! あたしの毒見役を頼みますわ」

 心を許したような、かわいい笑顔だ。

 メッチャ嬉しそう。


 勇太だってミマに負けてない。代理ジャンケンの小学校時代以上に嬉しい。

 そして、自分だけの特別な目標を手に入れた気がした。

「ああ、俺の方こそ、よろしくな」

 ミマと握手、勇太が異世界人と初めて触れた瞬間だった。



 実は、勇太は気になっていたことがあった。

 毒見テストの間中、疑問に思っていた。

「後ろを向きながら、考えてたんだけど、魔法で毒見はできないの?」

 魔法って、万能のイメージがある。


「あたしの魔法は治癒専門ですわ。それに、魔法全般に明るい魔法師でも、毒を探すのは難しいのですわ」

 思った以上に否定的だ。


「魔法なら、何でもできそうに思えたんだけど……」


「このトロピ界の魔法は、エーテルを利用しているのですわ。エーテルとは目に見えない特別な物質で、大気に混じっておりますの。

 つまり、自然界にあるものを利用しているのですわ。自然のものは自然のものにしか作用しませんの」

 どうやら、魔法にも縛りがあるみたいだ。


 でも、なんか変だ。

「毒も自然の物が原料じゃないの? 蛇の毒も自然だよ」


「蛇や自然から取れる毒でも、毒を盛ると言う悪意は人間由来なのですわ。そして、悪意は呪いに近いものなんですわ。

 残念ながら、魔法は呪いに対抗できませんの。だから、呪いに近い毒を盛ると言う悪意には無力なんですわ」


「魔法は悪意や呪いには通用しないのか。

 それなら、剣で人を傷つけるのも悪意だから、闘いによるケガは治せないの?」


 ミマはくすっと笑った。

「悪意は剣で傷つける行為ですわ。

 ケガには悪意はなくなっていますのよ。ですけど、毒は体の中に入り込んで悪さをするのですわ。

 剣と毒が同等のものと考えられていますの。

 なので、剣でいえば、その破片が体の中に残っている場合、悪意によって残されたのなら、治癒魔法が効かないことがありますわ」


 毒が剣の代わりなのか。

「ありがとう、何か分かった気がするよ」


「どういたしまして、ですわ。

 そういう理由ですから、あたしは魔法以外の能力に頼ったのですわ」

 ミマは正面から勇太を見る。


「それが、俺の勘ってわけか。そもそも、誰が毒殺しようとしているんだ?」

 犯人が分かれば、対処ができそうだ。


「そこまでは分からないですわ。分かっているのは、今日、呼ばれた領主様のお屋敷で毒殺されるって、占いババの占いに出たことだけですわ」


 そこまで分かってんのかよ!

「なら、領主が毒殺しようとしているんじゃないか!」

 勇太は犯人を見つけた探偵の気分。


 でも、ミマは乗ってこない。

「そうとも限りませんわ。この家をあてがってもらう時に、領主様に会いましたの。ですが、そんな感じには見受けられませんでしたわ。人を殺すなら、正面から堂々とぶった斬るタイプでしたわ」


 シュッ!

 ミマは剣を振るうポーズ! どうして、なかなかさまになってる。


「うーん、そうだな。自分の屋敷で毒殺したら、一番に疑われるだろうな。逆に違うかも知れない」

 だからと言って、正面から堂々とぶった斬るってのも危ないぞ。



 でもまあ、勇太のやるべきことがハッキリした。

「誰かが盛った毒をミマが口に入れないように、ミマが食べても大丈夫な物を、俺が勘で決めるんだな。そして、領主の屋敷で毒殺されなかったら、俺のクエストが終了になるのか……」

 言ってて、寂しい気持ちになった。


「そ、そうですわね。……今日にも達成ですわね……」

 ミマにも移ったのか、別れを惜しんでる感じ?


 勇太も、もっと長くトロピ界にいたかった。もっと、ミマのビキニ姿を眺めていたかった。森の中にビキニなんてシチュエーションは、めったにないだろう。

 だが、そういうサービスは長く続かないものだ。召喚なんだから、そんなものだと思った。受け入れるしかないのだろう。



 思い出した! 帰る時と言えば、焼死防止のアイテムである。

 すっかり忘れていた。

「俺が帰る時はシールを剥がしていいんだよね」


 ミマは恥ずかしそう。

「そ、そう、ですわね。でも、剥がすのはラスト勝負のジャンケンに勝ってからですわ……」

 胸を隠すようにして身を縮めた。

 可愛い!


 ニョロニョロ

 ナーガがミマを守るように前に出た。

「そうっすよ! ラスト勝負をする/しないは、召喚を依頼した姫様の気持ちにかかってるっすよ!」


 おいおい! この蛇! 大変なことを言い出したぞ! ラスト勝負をしないって選択肢があるみたいだ!


「毒見が終わったら、無条件にラスト勝負じゃないのかよ!」

 シールがゲットできないと焼死である。勇太は必死!


「必ず勝負をするって訳ではないっすよ! 召喚した異世界人がこのトロピ界で悪さをしたり、態度が悪くて依頼者の意に沿わないクエスト結果だったりすると、ラスト勝負をしなくてもいいんすよ!」


 なんだよ、それ! そんなの困る! 俺の命がかかってるんだ!

「俺が生きるか死ぬかは、ミマの気持ちにあるのかよ!」

 不安が溢れ出す!


 強気のナーガ。

「姫様の機嫌を損ねると、勇太は死ぬっすよーっ!」




【勇太は召喚とラスト勝負がセットになっていると思っていました。ラスト勝負ができないなら、シールを貼れずに焼死してしまいます。すがる思いなのです。

 次回、そのシールが登場します! 登場?】




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る