第一章 異世界召喚

第1話 第一章 異世界召喚(1/4)

【約2900文字】




   第一章 異世界召喚



勘秘勇太かんぴゆうたさん、あなたは、異世界に召喚されようとしています。召喚を承諾しょうだくしますか?」



 初夏、弓ヶ池高校1年A組の教室、その午後一番に始まった英語の授業中である。


 勘秘勇太は眠気をおさえつつ、息を殺しながらイスに座っていた。英語が苦手なのだ。先生に当てられたくない。目立たないようにしていた。


 そこへ、そんな女性の声が聞こえてきたのだ。


 なぜか、勇太の脳内に聞こえてきた感じだった。でも、そんなことはないと思い、きっと誰かの悪戯いたずらだろうと、キョロキョロと声の主を探そうとした。


 だが……。


 う、動かない! 体が動かないぞっ!


 頭も足も腕も、ノートをとる振りをしているシャーペンを持つ指すらも、1ミリだって動かなかった。

 まるで、全身が金縛りにあったかのようだ。


 勇太は焦ったが、目玉だけは動いたので、教室内を見渡してみた。

 すると、誰も動いていない。


 先生はチョークを黒板に当てたまま止まってるし、うたた寝中の奴も全く舟をこいでいない。


 勇太だけではなかった。教室の全員が一時停止になっていた。


 気付くと、何の音もない。

 静寂が教室の空気を氷漬けにしたかのようだ。


 勇太はあの声の仕業しわざと思った。

 異世界召喚なんてぶっ飛んだことを言って、時間を止めやがったんだ。


 しかし、その声に続きがない。

 どうしたんだ?


 勇太は声が言っていた内容を思い出してみる。

 確か、『あなたは、異世界に召喚されようとしています。召喚を承諾しますか?』みたいなことを言っていた。


 疑問文で終わっている。


 もしかして、俺が答えないから時間が止まっているのか?

 このまま金縛り状態なんて嫌だ。

 しゃーない、何か答えよう

 ……つっても、声、出ないじゃん!


 口も動かせないのだ。


 うーん、そういえば、声は脳内に話しかけてきたみたいだったな。

 なら、念じる感じで答えてみるか。


「いきなり、異世界召喚なんて、わけ、分かんないよ! 答えられっこないぞ!」

「では、この召喚に関することをお教えしましょうか?」


 声の続きが聞こえた。やっぱり勇太の答えを待っていたようだ。続きを聞こう。

「早く教えてよ」


「1つ、あなたの能力を望んでいる人物が我々の世界、トロピ界にいます。

 2つ、元の世界に帰る時は同じ時間と同じ場所になります。

 3つ、生命に危険があります。

 以上ですが、これでどうですか? 召喚を承諾しますか?」

 事務的というか、マニュアル通りに言っている印象だ。


 1つ目と2つ目は、この際どうだっていい、3つ目のインパクトがメチャクチャ強い。召喚された異世界で死ぬかも知れないのだ。


 スンゲーヤバイじゃん!

「3つ目、俺が死ぬって言うのかよ!」

 勇太は念ずるように聞いた。


「トロピ界では、勇太さんは不死身です。絶対に死にませんが、帰る時に死ぬ場合があります」


 異世界では不死身!


 不死身は勇太が子供の頃からの憧れだった。

 斬りつけられた剣を跳ね返したり、拳銃の弾を弾き飛ばしたり、不死身とは超人の象徴と思っていた。


 なので、不死身はすこぶるいい感じだ。


 しかし、帰る時に死ぬ! そんなこと、とても受け入れられない。


 不死身は嬉しいが、召喚は断ろう。


 答えが決まると余裕が出てきた。異世界人と話すなんて機会はもうないだろう。

 残りの2つを考えてみる。


 2つ目は、ここに帰るってだけだから、深く考えなくていいだろう。

 なら、1つ目はどうだ?


 考えるまでもなく、当然のことである。召喚なんて突飛なことを言い出したからには、召喚したい人がいるからに決まっている。

 と、いうことは、この声とは別の人物が勇太を召喚したいらしい。


 勇太は他人に頼られることが、案外と好きだった。なので、そいつのことが気になった。

 断るにしても、聞くだけ聞くのもいいかとも思ったのだが、聞くと行きたくなるかも知れない。

 命がかかっているのに、行きたくなると困るので聞かないことにした。


 でも、1つ目には『あなたの能力』という言葉もあった。これは勇太自身のことである。

 大いに気になった。


「おい、俺の能力って何だよ!」

「ジャンケンです」


 ジャンケン!


 実を言うと、勇太はジャンケンで負けたことがない。あいこもない。

 いつでも、全勝である。

 負ける時は故意による時だけだった。


 とは言っても、ジャンケンは確率ではなく、読み勝負と言う気もない。

 勇太が勝つのは、読みが当るなんてレベルではないからだ。


 ジャンケンを出す直前に、グー・チョキ・パーのどれを出すと勝つのかが、ヒョイッと頭に浮かぶのだ。


 つまり勘である。


 勘によるジャンケン全勝! これが勇太の能力なのだ。大きな声で言えないが、勇太はリアルチートの能力者なのだ。


 異世界にもジャンケンがあり、勝ちたい奴が勇太を呼んでいると思った。

「なあ、それって、代理ジャンケンなのか?」

 他人の代わりにやるジャンケンを、勇太はそう呼んでいた。


「代理かどうかは分かりませんが、恐らくはジャンケンです。しかし、同じ要因による別の能力である場合もあります」


 意味が分からない!

「難し過ぎる。もっと簡単に言ってよ」


 その声は、例え話で答えてくれた。

 負け無しの競輪選手が召喚された場合、自転車に乗れると言う能力が望まれている場合があるらしい。


 競輪選手が自転車に乗れるなんて当たり前過ぎる。

 煙に巻かれたと気もしたが、それだけ当たり前のことと思った。なので、それ以上は追求しなかった。


 一応納得したところで、大いなる疑問点に気付いた。肝心なことが抜けている。


「お金とか、宝石とか、何でも願いが叶うとか、俺への報酬は何?」

 世の中、ギブアンドテイクである。召喚を断るにしても報酬には興味があった。


「残念ながら、何でも願いが叶うなんて芸当はできませんし、報酬もこちらからはありません。しいて言えば、不死身を体験できることでしょうか。他には、えーと、そうですね。召喚する依頼者から何かスゴイ報酬がもらえるかも知れませんよ。

 どうですか? 召喚を承諾しますか?」


 いかがわしい勧誘のような口調になった。

 願いが叶うなんてことは無いし、報酬は召喚の依頼者次第のようだ。あとは特典として、不死身の体験か。

 依頼者次第というのなら本人に聞いてみるか。


「なあ、そこに依頼者はいるの?」

「残念ながら、いらっしゃいません。

 それより、どうですか? 召喚を承諾しますか?」


 なーんだ。いないのか。報酬についてはこれ以上聞けそうにない。

 それにしても、やけに承諾を聞いてくるな。そろそろ回答してやるか。でも、まあ、すでに回答は決まっているけどね。


「えっと、俺は人に頼られるってのは好きだし、不死身には心が動きそうだったけど、報酬の確約は無いし、何と言っても、帰る時に死ぬのは絶対に嫌だから、この召喚は無しってことで……」


 3つ目の帰る時に死ぬ場合があるというのが、答えの全てだった。


 声は慌てる。

「ちょ、ちょ、ちょっと! 必ず死ぬわけじゃないですよ! あるアイテムを持っていれば、安全に帰れますよ!」


 そのくらいでは安心できない。そのアイテムが簡単にゲットできるとは限らないからだ。


「それって、超レアアイテムとか、言うんじゃないの?」






【勇太は異世界に召喚されようとしていますが、事前に色々と教えてくれて良心的な召喚のようです。その割には死ぬかも知れないとか、危ないことを言っています。危険を犯したくない勇太は召喚を断る方向なのですが……、アイテムゲットで安全なる……?】








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