48. 王宮騒乱、突入砲弾、CALL YOU SO FUN.
48. 王宮騒乱、突入砲弾、CALL YOU SO FUN.
「王宮、第3東宮の回廊、一般開放エリアの三重塔」。
そこにフロウが囚われている、と従者のポルトスが話していた。
そこまでわかっていて手が出せないというのは、歯がゆいことこの上ないだろう。
広い東宮庭園ごと、普段は公的施設として国民に開放されており、三重塔の聖堂は式典などで一般使用もできる。
したがってそれなりに人通りはある場所なのだが、今現在は宮廷内の混乱で、一般人の強制退出が始まりつつあった。
すでに情報が錯綜していた。
王宮に何か起こる、というモルダウたち国軍捜査官から火急の通報があり、宮廷兵はその所存に惑っている。
まだ試験で出払った魔法師たちは戻ってきていないし、連絡も断片的だった。
国軍の増援を試験会場に集めるか、王宮に戻すかという点も、多方面で軍事指揮を執るヨドミナイト家の将校たちが人質を取られているため、軍を動かす判断ができずに二の足を踏んでいる。
普段と何も変化を感じていないほとんどの宮廷の人間たちは、「テロ事件が起こるなら試験会場だ」としか考えていない。
人と魔法を遮断する連鎖結界魔法が完全に発動してしまえば、試験会場からの通信もできなくなる。
その状況になれば間違いなく、事情を知らない司令部によって会場に兵が集められてしまうだろう。
「やっぱりこれから何か起こる、ということだけは伝わっているようですね…。」
御者席のライムが幌の中のケイジに話しかける。
騒動になっているほどではないが、入場者の一斉退出が始まっていることは見て取れた。
一方、いつの間にかライムの呼んだ馬車の御者になっていた(女神)ムジカはその時、門番の衛兵とモメていた。
「ですから、一般客を外に出すようにという指示なので―」
「だから関係者だって言ってんだろうが!
ていうかあぁしは女神だって言ってんだろうが、ええい!?」
「何の身分証明も無く信用できません!
それでなくとも女神を名乗るようなアレな人を通すわけにはいきません!」
「自称!? 顔見りゃあわかんだろう、あからさまに女神顔だよ女神顔!」
「女神顔というより女神ヅラしてるだけですが…」
ムジカは異国風の顔立ちとは言え、女神にはギリギリ値する美貌の持ち主だった。
しかしこの国には女神信仰は無い。
「聖女」と呼ばれる存在もいるが、ムジカとは似ても似つかなかった。
なにより御者などするはずがなかった。
というか、ムジカに御者としての技術は全然無かったので、一刻を争う今、ムジカに代わってほぼライムが運転してきていた。
入宮門の前で門兵に止められたので、「任しとき!」と言って意気揚々と交渉に馬車から降りたのだった。
「あなた本当に本国民ですか?
怪しいですねぇ、ちょっとこちらにー」
「くっ、これじゃあ埒が空かねえ…!
仕方ねえなあ、HEY, お前ら、ここはあぁしに任せて先に行け!!
気にすんな、いいから行くんだぜ、ええい!?」
「えっでも、ムジカさん、そういうわけには…!」
実際には、この時そこまで一般客退出を急いでいたわけではないので、「忘れ物をした」「主人を迎えに来た」などと言えば普通に入ることができたであろう。
が、モメたせいで今は怪しみの目を向けられていた。
そもそもライムが身分を明かせば一発なので、ムジカの奮闘にまるで意味はなかった。
強いて利点を挙げるならば、人質の確認ができていないこの時点では、身分はまだ隠した方が良いのかもしれなかった。
「ライム、先に行こう!」
「ケイジさん…」
ケイジはムジカを放置することにして馬車を降りた。
勿論、もう一人の衛兵に止められる。
「あっ、ちょっと、今からの入場はできませんよ!」
「えっと、あの、ちょっと忘れ物をしまして」
「それは仕方ないですね、見つけたらすぐ出てくださいよ!」
そのまま入ることができた。
二人は塔のある回廊へと駆け出す。
それを見送るムジカは、笑顔で親指を立てた。
「(へへっ、今のはかなり点数いったろうなぁ、ええい…?)」
点数、というのは、“女神の査定の点数”のことだった。
転生を担当した女神には、その転生者が転生先の世界で活躍できるように後見する業務がある。
都度、その次第を評価され、それが女神としてのランクを上下させる。
ムジカは女神としては最低ランクで、女神称号の剥奪の危機にあった。
今回のケイジの件で何かしら活躍できなければ査定があまりにヤバいので、とにかくこのトラブルに混ざりたい。
必要なくとも関わって、何かしら活躍した実績を残したい、というのが、今日同行した動機だった。
「(あとはお前次第だぜ、ケイジ…いや、K.G…!)」
かなりいい感じの役回りでケイジをアシストしたな、という自負で満悦のムジカは、そのまま警備員室で職質を受けた。
(危ない人だが無害と認識され、すぐに解放された。)
◇
広い東宮庭園をぐるりと囲む回廊の最奥が、目指す三重塔だった。
「ハァ…ハァ…遠い…!
ライム、宮廷兵に伝えて応援を頼もうか!?」
「いいえ、それができるならヨドミナイト家の方々がやっているはずです!
敵に動きを知られないよう、このまま二人で行きましょう」
おそらく一部、フロウ誘拐の件を知っている宮廷兵はいるだろうが、表立っては動けない。
監禁場所までわかっていて、この場がなお通常警備というのは、つまりそういうことだ。
三重塔は3階建てとは言え、かなり背の高い建物だった。
「この3階は聖堂になっていて、一般の方でも祭事や式典などで借りることができるんです。」
「ハァ、ハァ…つまり普通に考えれば、フロウはそこに捕まってるってことか!」
正面入り口には左右2人の衛兵が立っている。
通常の宮廷兵なのか、敵の息のかかった者かはわからない。
「しれっと入れてもらいましょう」
「しれっとて…」
ライムはお嬢様ながら結構いい根性をしている。
しかし、やはり衛兵は槍で扉を閉ざした。
「ダメダメ、今日は貸しきり行事中だから一般客は入れないよ」
「その行事の関係者なのです、中の方に会わせていただければわかります」
言っていることはさっきのムジカと変わらないが、本人のまとう雰囲気から信頼感がまるで違った。
「そいつはおかしいな…貸し切ってるのは大臣閣下の法務会議の目的のはずだ。
宮廷内の閣僚以外でお前らみたいなのが関係するわけが無い。
つまり―」
明らかに兵の疑いの視線が敵意に変わる。
「
「クッ…!」
衛兵二人に掴みかかられたライムは、覚悟を決めて二人の斜め後ろに回り、首筋をめがけて手刀を繰り出す。
おそろしく速い手刀。
ケイジ程度では見逃してしまうほどの。
そのまま衛兵の意識はなくなる。
膝をつく前に脇からライムが支える。
(――ごめんなさいッ…!)
緊急事態で止むを得ないとは言え、衛兵を見張り用の椅子に座らせながら、ライムは罪悪感を感じた。
ケイジには一連の流れが、衛兵が二人とも急に立ちくらみでも起こしたかに見えていたが。
「情報にあった侵入者、と言っていました…。
つまりこの方々は、“塔の中の敵からの通達”で我々を警戒していたということ」
その意味は、ワンテンポ遅れてケイジにもわかった。
「それはすなわち、敵が宮廷内部の人間であるということです…!」
宮廷試験の騒ぎに合わせた臣下のクーデター事件は、ライムが言っていた通り過去にもあった。
ただ、その時には大した争いにもならず、一日経たずに鎮圧された。
そしてその件のあまりに圧倒的な鎮圧劇が、この国でのクーデターへの抑止力となっていた。
それを経てなおクーデターが起こるとなれば、用意された“大厄災”がいかに巨大か、想像するだに恐ろしい。
「…急ごう!」
「はいっ」
今の所、ケイジは出番が無いので、とりあえず事情はわかった風な顔をして空気を読んだ。
◇◇◇
(第49話へ続く)
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