32. 閃光の先攻、LIKE A FRIEND OF CENTAUR.
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32. 閃光の先攻、LIKE A FRIEND OF CENTAUR.
「ヴァンパイア属は、体内の血流の操作によって爆発的な身体能力向上と、魔法陣の体内構築を実現しているんです。」
試合前夜、定期試験前の一夜漬けのように分厚い専門書を5~6冊積み上げて、ライムが言っていた。
魔法陣の体内構築とは、つまり魔力のブーストのようなものであり、魔法の威力や発動速度を上げる効果がある。
特殊な呪符や刺青などを使って同様の効果を得る種族はいくつかあるが、自身の血そのものを使うのはヴァンパイア属の特権とも言える。
「よくわからんが、血をイジッてディスればいいんだな…完全に理解した。」
ケイジは雑に理解する。
天性の才・BENNY天狗には慢心は無く、体内での血流魔法陣は当日も完全に整えられていた。
指先の毛細血管に至るまで、精密機械のように稼働していた。
それを乱したのが、ケイジのバースだった。
「よぉヴァンパイア 所詮惨敗だ 精々飲める酒は
血が流れるなら俺が止める 血を舐めるより地を嘗めさせる
FLAMINGする俺の指 フレミングの電磁力 ALIKE A 雷光
鉄分足りてねえ 踏んだ轍分 それがうまい血? それじゃイマイチ!」
「ヴァンパイア」「惨敗だ」「サングリア」。
第1節から
問題は「血」に対する干渉力と使役力だ。
もはや賢明な読者には説明するまでも無く、ケイジの魔法特性は「雷」である。
前世で雷に打たれて死んだことから、それが特性として発現している。
術者である当人は全く意識していないが、魔法の発動の速さと威力の大きさはこれに由来する。
「FLAMINGする俺の指」「フレミングの電磁力」が結果的に魔素を操る伏句となっている。
そして使役される魔素は自分のものではない――BENNY天狗のものだ。
公園でのケイジの素振り練習―親指・人差し指・中指を操る、いわゆるラッパーの“例の指の動き”が雷の電場から強力な磁場を生み出した。
その眼に見えない力は対戦者の体内にまで影響する。
BENNY天狗の血液の中の鉄分が、磁力に引かれて血流をかき乱してしまった。
精密機械のように調整されていた血液操作による魔力チャージが無に帰す。
結果、事前に仕込んだBENNY天狗の術式はまともに発動しない。
それでも強引に血を巡らせようとしたせいで、一時的に脳が血液不足に陥った。
そうしてこの難敵は呼吸が回らず手足が麻痺し、呂律も回らず暗鎖がつなげない状態で地を嘗めた。
どの専門書にも載ってはいなかったが、血を力とし操るヴァンパイアには、強力な磁気は天敵だった。
BENNY天狗は、初めて対人戦闘で人間種に負けた。
バトルに熱狂していた会場は一度静まり返り、次第にざわつきを取り戻す。
「…何が起こったんだ? お前見てたろ?おい、何が起こったんだよ!?」
「いや、喋ってたら…いや…喋ってる間に…何が…!?」
ほんの4小節の間の不可解な出来事を、にわかに説明できる者はいなかった。
「何か…が… 何かが起こって BENNY天狗が中押し負け《クリティカル》になった…」
「中押し負け《クリティカル》!? そんなもん本戦で見るの初めてだぞ…!?」
「たった1ターンの間にか…!?」
「中押し…BENNYほどの魔法師が呪文の続きを詠唱できないとは…」
フロウが負けたときよりもハズレ馬券を掴んだ人間は多かったはずだが、先日のように馬券が宙を舞うことはなかった。
多くの者が目の前の事態を受け容れられていなかった。
「あんなの…まるで雷…」
「閃光…」
「閃光の… 先攻…!」
この日、ケイジに二つ名がついた。
大注目の新人と、有力な本命選手を立て続けに下したケイジは、もうマグレの無名選手ではなくなった。
◇◇◇
(第33話へ続く)
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