ラップが魔法の呪文詠唱になる世界に転生したおじさん、うっかり伝説級の魔法を量産してしまう

@paper-tiger

K.G

0. 閃光の先攻

◇◇◇

0.閃光の先攻



宮廷魔法師採用試験の本戦会場は、一般観覧客も加わって予選以上の喧騒だった。


国中のあらゆる人種・部族・種族から優れた魔法師が集まったとあって、肌や髪の色、着る服も様々だが、唯一目の光だけは誰しもが等しく高みを見据えていた。



「オイなんだよアイツ、魔威倶マイクを使わないつもりか?」

「そんなの見たことねえぞ、ハッハー」


「オイオイオイ死ぬわアイツ。試合する気あんのか?」

「遊ばせ要員だろ。そういうのお姫様が大好きらしいからな。

 嬲らせて貴族への見世物にして見物料をせしめるんだろうぜ」


この先は運の入り込む隙が無い、完全なる実力の世界。


予選を勝ち抜いた魔法師たちが他者の試合を見に集まるのは、余裕や好奇心ではなく、純粋な敵情視察であり勝利のための最低限の努力だ。

どの試合コートもなるべくしてザワついていた。



そんな中、国軍の練兵場を利用した試験会場の一角、第6コートだけが一瞬静まり返る。

そして観戦者たちの戸惑いと共にざわめきが戻った。


「…おい、BENNY天狗のやつ、暗鎖アンサーが繋げられてねえ、…そんなことってあるのか?」

「先攻が圧倒してる…? まさかそんなわけが…」


「魔法戦は後攻有利なのが常識だ…相手の出方を見て後出しで追撃できるんだからな…。」


「ああ、先攻が勝つには威力の弱い速攻魔法で先制するか、後半までの詠唱を含めて長大呪文にするか―

 しかし後半の詠唱も、後攻の方が相手の上げ足を取りやすい…

 よほどの圧倒的な実力差がなくては…」


「でもさっきからあの対戦者、おかしくないか…?」



そして再度、コートは静まり返る。


一人の男がガックリと地面に膝を着き、もう一人の男がそれに背を向けてコートを後にする。

先ほどより長い沈黙の末、観客たちは顔を見合わせる。


「…何が起こったんだ? お前見てたろ?おい、何が起こったんだよ!?」

「いや、喋ってたら…いや…喋ってる間に…何が…!?」


「何か…が… 何かが起こって BENNY天狗が中押し負けクリティカルになった…」


中押し負けクリティカル!? そんなもん本戦で見るの初めてだぞ…!?」 

「中押し…BENNYほどの魔法師が呪文の続きを詠唱できないとは…」



4節の呪文を交互に2ターンずつ詠唱することで競われる魔法競技。


激戦となれば10ターンまで続くこともしばしばある、魔力と精神力の削り合い。

それを1ターンで、有名な使い手が試合放棄するとは誰も想像だにしていなかった。



「あんなの…まるで雷…」

「閃光…」



「閃光の…先攻…!」




◇◇◇


(第1話に続く)

※第1話からが本編です。

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