第47話 子供たち

 自分とアセナの紹介をした後、続けてエリィとピピィの紹介を行う。

 エインセルが妖精だと知って子供たちがとても驚いていた。


『それと、皆には見えないかもしれないが、もう一人仲間がいる。』


 手を前に出し手のひらを上に向ける。そこにミミがと腰を下ろす。


『精霊のミミだ。君らを救けた時、側にいたんだ。今回君らを助けることが出来たのも彼女の力添えが有ったからこそだ。』


「精霊のミミよ。とはいってあなた達には見えないだろうけどね。ただ感謝してくれてもいいわよ?受け取ってあげるわ。」


「こら、そんな言い方はないだろう。」


「何よ。別にいいじゃない。見えなくたって感謝ぐらいされたいわよ。」


「いや、そうかもしれないけど…。もうちょっといい方があるでしょ。」


 ミミとのやりとりを目を見開いている子らに、はたと気が付く。

 ミミが見えない子らにしたら、一人でブツブツつぶやいているようにしか見えないだろう。そこに、困ったような顔でアネアが訪ねてくる。


『……その、精霊はなんと言って…?』


 

『ああ…、いや。 皆が助かってよかったと言っている。』


『そう…。 ミミ、救けてくれてありがとう』


 アネアが手に向かって頭を下げる。


『ミミさん。救けて頂きありがとうございました。』


『精霊さんありがとう。』


『ありがとう。』


『あ、ありがとうですっ!!』


 子供らが口々にお礼の言葉を手のひらにむかって投げかける。


「別に構わないわよ。」


 そう突っ返すミミであるが、まんざらでもないようだ。

 



 続いてアネアたちが自己紹介を始める。


 アネアは見ての通りアラクネという種族で、上半身は人のそれと変わらないが、下半身が蜘蛛の姿をしている。エインセルが言うにはアラクネという種族は森の番人と言われる程の狩りの名手で、類まれな身体能力と、高い戦闘技術を持ち合わせたハンターなのだという。

 そんなアラクネ種が何故人間に捕まったのかと疑問に思ったが、どうやら彼女の体に原因があったようだ。


 彼女の足の一本が、半ばから欠損していたのだ。

 この怪我のせいで素早く動くことが出来ずに捕まったのだという。

 怪我自体は昔に負ったものですでに傷口はふさがっているが、まだ生来の動きをすることができなかったらしい。


 本人はすでに傷のことは気にしていないという。

 しかしそのせいで捕まってしまったことは今でも思う所があるみたいだ。そして

そのせいでスクォンクに心配をかけてしまったことに負い目を感じているらしい。




 次に自己紹介をしたのは、小さな二人組みの女の子であった。


『今回は、救けて下さりありがとうございました。』


『あ、ありがとう…。』


 二人はアネアよりもさらに幼い容姿をしていて、そしてアラクネ種という身体能力を有しているアネアと違い、体もとても小さかった。一見普通の子供にしか見えないが、しかしその容姿は、かなり特徴的であった。


 一人は大きくつぶらな瞳を顔の中央に。

 一人は両の目の上、額にさらに目を一つ。



 多眼族・単眼族


 そう呼ばれる種族であった。


 三つ眼の方の女の子が姉のネムエルザ。

 一つ眼の女の子の方が妹のウルエルザ。

 二人は双子の姉妹なのだという。

 

 双子なのに瞳の数が違うのは二卵性双生児だからなのか。そんな疑問を持っていたら、エインセルがふとあることに気が付いたようだ。


『記憶が間違っていなければ、多眼族/単眼族は男性が一つ眼、女性が三つ眼だと思っていたんだけど。ウルエルザは女の子__みたいだし。記憶違いだったのかな…。」


「え、それってどういうこと?」


『いや、ボクの思い違い___』


『間違いじゃありません。』


 エインセルの言葉を遮るように姉のネムエルザが声を上げる。


『エインセルさんのおっしゃった通り、私達多眼族・単眼族は男は一つ眼、女は三つ眼、それで間違いありません。』


『ということは、ウルエルザは…』


『いえ、ウルエルザは間違いなく妹__女です。ですが、ご覧の通り一つ眼でもあります。妹のウルエルザは、女でありながら一つ眼という___先天的な身体異常なんです。』


 ネムエルザの話を聞くと、妹のウルエルザは女として生まれながら一つ眼というあり得ない状態で生まれたらしい。彼女らが生まれた時、村ではかなりの騒ぎとなったという。なにせ女のはずのウルエルザが一つ眼なのだ。村の者からしたら異常のソレでしかない。その後、村の大人たちは腫れ物にふれるようにう、子どもたちからは容赦のない差別をされたという。彼女らの両親はそんな我が子でも愛情をもって接してきたのだが、しかし幼いウルエルザにとって村の状況は耐えられるものではなかった。


 このままではウルエルザは壊れてしまう。


 そう思い姉のネムエルザは妹を引き連れて村を飛び出したのだという。姉のネムエルザは全てを投げ捨ててでも、妹のウルエルザを選んだのだ。


 とはいっても、流石に幼い二人だけで自然の中で生きていくのは難しい。自然はそこまで優しくはないのだ。そこで二人は、多眼族・単眼族がいない別の町で、ひと目につかぬよう、なかば孤児のようにひっそりと暮らしていたという。


 町で二人、隠れるように暮らしていたある日、二人を見つけた人間に捕まってしまったのだという。


『女なのに単眼、その珍しい体質に気が付いた人間が、妹のウルを捕らえようとしました。必死で抵抗したのだけど、私ではどうすることもできなくて…。それで私も同じように捕まってしまいました…。』


『そうだったのか…』


『村には居場所がなく、町にも居場所がなく、挙げ句には人間に捕まってしまって…。もう本当どうしていいのかわからなくなってしまって…。でもそんな時、シュンさんに救って頂きました。本当に、本当にありがとうございました。』


 ネムエルザが深々と頭を下げる。妹のウルエルザも同じように頭を下げる。


『二人とも色々と大変だったね。とりあえず今はゆっくりと休むといいよ。』


 エインセルが優しく声をかけると、二人はエインセルにも深く頭を下げた。






 次に自己紹介をしたのは、獣人の女の子。名をヤァコという。

 全身をフワフワの毛で覆い、狐色の毛はまさに彼女という存在そのものを主張しているようである。


 狐


 彼女はまさに狐と呼ばれる顔をした獣人であった。

 黄金を思わせる深く鮮やかな瞳は見ている者の意識を吸い寄せるような不思議な魅力を持ち合わせている。すらっと伸びたマズルは自分の犬のソレとは違いどことなくシャープな感じがする。

 

 そんな彼女であるが、どうやら彼女は普通の狐獣人とは違うようである。

 その証拠に彼女のふさふさの尻尾が二本、立派に生えていた。


『二尾とは随分めずらしいね。彼女ら狐人は九尾の末裔とも言われているし、もしかしたら先祖返りなのかもしれないね。』


 エインセルが彼女の立派な尻尾を眺めながらそんな言葉を口にした。


「え、こっちの世界にも九尾って存在していたの?」


『九尾はこちらでは神の使い、もしくは神そのものとは言われているね。ボクも実際九尾を目にしたことがないから断言はできないけどさ。それにしても…、シュンの元いた世界にも九尾がいたのかい? 意外だなぁ。』


「いや、いたというか神話というか…。んーなんて言えばいいんだろう…」


 エインセルと話をしていると、狐の子がコテンと首をかしげながらこちらを見つめてきた。その可愛らしい表情はとても愛嬌があって親しみを覚える。


 エインセルの話によれば、二尾はとても珍しい存在のようだ。もしかしたらそれで彼女は狙われたのかもしれない。


 




 四名の自己紹介が終わり、残す所あと一人。


 最後の一人が自己紹______





「ワンッ!」


「きゃうん!!」




「……えっと、何をしているのかな……?」



 目の前に、アセナに組み伏せられ、仰向けにひっくり返されている子供がいた。



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