幼馴染が振り向いてくれない話

瞭明

第1話 振り向いてくれない幼馴染の話

 高校一年の俺こと駿汰しゅんたには幼馴染がいる。家から百メートルほど離れたところに住んでいる未央みおだ。

 明るい栗色の髪に、笑った時に見えるえくぼ。この二つがトレードマークの女の子。俺は彼女に確かな恋心を抱いていた。


「今日もボロボロだったなー!」

 夜なので家族に迷惑が掛からない程度に愚痴をこぼす。

 そう、俺はアピールを重ねても未央に振り向いてもらえない、残念な子なのであった。




 今日の学校。桜も散り、俺たち新入生が学校に少しずつ慣れてきたころ。朝から俺はいつものように未央を迎えに行っていた。


「未央ー、早くしないと置いていくぞー」

 は~い、という眠たそうな声が聞こえ、続いて衣擦れの音がして、俺はインターホンに背を向ける。

 朝からこれはダメ!心臓がおかしくなる!

 顔が赤くなっているのを戻しつつ、特に何もすることなくにひたすら待つ。約二十分後、栗色の髪を下ろしたままの美しい女性、もとい未央が現れた。


「ごめん、遅れたー」

「う、うん。全然いいよ」

 わあ、綺麗だ・・・。待って、今日のこのテンションならいけるんじゃないか?

 俺はここで勝負を仕掛けてみることにした。


「ちょっとヘアゴム貸して。くくってやる」

「いいよそんなの。自分でできるし」

「そうやって言ってこの前できなくて友だちに泣きついてたのは誰だったっけ?」

 未央の背筋がびくっと震える。その隙に俺は未央の手からヘアゴムを絡めとる。あ~あ、さすがにやりすぎたか?未央も向こうを向いて肩を震えさせているし。

 お、綺麗にできた。家で練習した甲斐があった。よし、勝負だ。


「できたぞー」

「ま、まあ普通ね。その程度で調子に乗らないでよね」

 未央は感想を述べる。相変わらずの辛口だなあ。けれど、いつもよりマシかな?これで、あともうちょっと可愛げがあったらなあ。

 綺麗な栗色の髪、胸を射抜かれる笑顔、手をつなぎ、視線の先にある・・・イケメン。ダメだ、未央とは離れ離れにはなりたくない。そう考えたら、なんか急にいたずらしたくなってきた。


「未央、何か言うことがあるんじゃない?」

「なにそれ、ふざけてんの?」

「お礼の言葉だよ。お礼のコ・ト・バ」

 え、どうしよう、調子に乗りすぎた。これ以上嫌われたらもう一緒に登校できないんじゃ・・・。


「助かったよ」

「え?」

「助かったって言ってんの!」

 予想外の言葉で、思わずこっちが赤くなってしまった。

 可愛らしい声でつぶやく君は、とても愛おしくて、でもだからこそ、こちらをに言っている君が残念でたまらないんだ。もし、あとほんの少しだけ俺の願いが叶うのならば、


 俺の方を、その顔を見せてくれませんか?

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