ヨロレイヒー

リョウ

ヨロレイヒー

 決して人は多くないが往来で、――ヨロレイヒー。――と叫ぶ男がいた。あたりに呼びかけるようだった。関わりたくはないが好奇心に負け、気になって僕は声をかけた。

「なぜ叫んでいるんですか?」

「なんでだろうねえ」男ははぐらかすように言ったが、しかし僕を騙からかっている風でもなかった。男は僕の目も気にせず続けた。「ヨロレイヒー」

 気にはなるがこれ以上事が進展する見通しも立たないから、退散することにした。しかし直前になって、男の足元にカラスが来た。男はカラスに餌をあげた。なるほど彼は独自のやり方でカラスを呼んでいたわけだ。

 しかし男はまた――ヨロレイヒー。――と叫び始めた。次の瞬間には女性が男に声をかけた。女性は男に道を訊いた。なぜ女性はこの妙な男に声をかけたのだろう。近くの僕に話しかけてもいいだろうに。

 女性が去って、僕はまた男に声をかけた。

「あなたが女性を呼んだんですか?」

「さあねえ」男はまたはぐらかすように言った。

「それってどういう意味なんですか。ヨロレイヒーって」さすがに苛ついた僕は声を荒げた。

「さあ。けれどこうやって叫んでいるとねえ、人が声をかけてくれるんだ。私は寂しがりな質でねえ」

 今度は猫が寄ってきた。タヌキも来た。

 呆れて尋ねることの無くなった僕はその場を去り、何を期待するでもなく、帰り道ずっと――ヨロレイヒー。――と声を上げ続けた。


 

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ヨロレイヒー リョウ @koyo-te

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