18

「帰ってこないかと思った」

「私は黙っていなくなったりしない。誰かと違ってね」遥は微笑んでいる。含みのある表情だ。夏はなにか言い返そうと思ったが食事を作ってくれたので我慢することにした。

「じゃあ 食べましょうか」遥はエプロン姿のまま椅子に座る。どうやらそのままご飯を食べるようだ。

「うん」二人で一緒の食事、本当に久しぶりだ。

 夏は料理に口をつける。とても美味しい。 

「遥はずっと一人暮らしなんだよね」

「そうだよ。ここでの暮らしは一年くらいだけどね」私が遥を探していたとき、遥はここで暮らしていた。遥は私がいなくても寂しくないのだ。私は遥がいなくなって抜け殻みたいになっていたのに。遥はまったく平気なんだ。遥のいない生活はとても寂しかった。

「遥は寂しくないの?」

「私には照子がいるから。あの子と一緒ならどんなことにも耐えられる」遥はすべてを捨てて照子を選んだ。彼女のためにそれまでのすべてを投げ捨てたんだ。その中には瀬戸夏も含まれている。だから遥は夏の前からいなくなったんだ。

 雨森照子。とても美しい少女。真っ白な肌をした人形。


「明日誕生日だよね。照子何歳になるの?」

「七歳。はやいよね。時間が流れるのって」どことなく嬉しそうに遥は話す。夏はさっきから照子に嫉妬しっぱなしだ。

「遥はもうここからは出ないの? ずっと照子と一緒に暮らしていくの?」

 遥の居場所を調べる際、彼女の情報を片っ端から収集した。有名人なのでかなりの量になったがその成果で熱は遥の経歴を殆ど暗記していた。幼いときからずっとすごい成果を出しまくっている遥だがここ数年はさらにとんでもないことになっている。もしかしたら世界で一番頭がいいのではないか、少なくともこの数年は世界最高と断言できる研究成果だ。遥は人工進化の分野で世界トップであることは間違いない。そのほかに数学の分野とプログラムで世界初の発見と発明をしているようだ。この辺りになると内容はあまり理解できない。理解できるのは人類の中では目の前でパンをくわえている本人だけだろう。しかも彼女にはまだ余力のようなものを感じさせる論文がいくつかある。この十数倍の成果を隠し持っている可能性がある。これは遥の戦略だと思う。お金を集めているのだ。実際にここを訪れたことで疑問は確信になる。すべては照子のためだ。遥の行動のベクトルはすべて照子に集まっている。遥の興味を引いているのは照子だけなんだ。夏は遥に太陽の下で暮らしてほしいと願っている。木戸遥は太陽の似合う女性なのだ。自由に空を飛ぶように生きてほしい。夏は空を飛ぶ遥が見たいんだ。

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