短編集『恋とは十中八九勘違いでできている』

あん

第1話『三つの計略』

友人の直人はかなり落ち込んでいた。

どうやら芽依に昨夜フラれたらしい。

僕の部屋に上がり込んでメソメソ

愚痴を垂れている。僕の貴重な読書時間を

こんなどうでもいい話で台無しにされるのは

まったく不愉快である。

そもそも20歳を過ぎて「告ったの告られたの」

とか滑稽である。ガキの遊びの範疇だ。


「それで?友達としては好きだか、他に好きな

人がいるって断られたのな?」早く話を纏めて

御退席願うべく、僕は要点を聞いた。


うつ向いたまま頷く直人。


「なら話は簡単。明日の夜また呼び出してまた

気持ちを伝えなよ。次はうまくいくから」


「は?明日?!」戸惑う直人。

まあそりゃそうだろうな。


「うん。明日の夜。今日でも明後日でも駄目。

明日の夜なら成功する」自信ありげに答える

僕に、直人は当然の質問をしてきた。

「普通さ?せめて一週間とか間開けないか?」

「駄目、明日ならチャンスはある。

それ以外なら諦めな!」


釈然としていない様子の直人だったが、

とりあえず素直に実行したようである。

すぐに芽依と付き合う事になり、

私はしばしの間、直人の泣き言から解放された。

これで買ったばかりの新刊が読めるだろう。


なぜしばしなのかって?

他人の入れ知恵で始まる恋愛が長く続く

訳がないからだよ。


どうせアイツは

「なぜ明日でなければならないのか?」という

当然の疑問の答えも知らないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る