第214話 不可解な消失
ツリーハウスの町を歩くヨハンは手がかりがないか建物の中を見て回った。
しかし、まるでそこで食事をしていたのではないかというような食卓が残されたまま、誰もいなくなった家が数件。
元々そこには誰も住んでいなかったような家が数件あるだけだった。
「どこも荒らされていない?」
兵士が来て強引に略奪があったなら、もっと家の中は荒らされていると思っていた。しかし、町長の家以外はほとんど争った形跡がなく。
住民だけが忽然といなくなっている。
まぁ兵士に呼び出され、どこかにまとめて連れていかれたのかもしれない。
そう思うと家々の光景にも納得できる。
「とにかく下で見張りをしていた兵士たちに話を聞くしかないな」
上にいた兵士を全て殺してしまったので仕方がない。
ヨハンは警戒を忘れず魔力を循環させたままユグドラシルを降りた。
しかし、先ほどまで見張りをしていた兵士はおらず、人の気配すらしなかった。
「どうなってるんだ?」
まるで、先ほどまでいたのがウソだったように足跡すらない。
ヨハンは不思議に思いながらも、ツリーハウスを後にした。
「このままここにいても仕方ないな」
町の中をある程度調べ終えた。
聞くべき相手がいないのであれば、聞ける人間がいるところに行かなければならない。ヨハンはガルガンディア城を目指して歩き出した。
ガルガンディア城はツリーハウスから歩いて二日ほどいったところにある。
そこにはガルガンティアの領地を運営するのに必要な文官や、ガルガンティアを守る兵士の宿舎などが存在するはずだった。
しかし、ヨハンがガルガンティア城に到着すると。
そこあるのは壊れた瓦礫の山だった。
城と呼べるような規模はなく砦が破壊された後のようになっている
「どうなってるんだ?」
まるで戦争でもあったかのように、城門や城壁などが破壊尽くされていた。
「誰か!誰か生きている者はいないか!」
不自然な光景にヨハンは不安になり叫んだ。
誰か生きていてくれと願いながら、何度も叫び続けた。
夜になろうと、朝になろうと、探せる場所は全て探した。
しかし、生きている人どころか、死体すらなかった。
全てが終わった後なのだとヨハンが悟るのに、一日は余りにも短い時間だった。
「くそっ!いったい何を考えてるんだ」
ラース王国のミリューゼが命令したことであったとしても。
ここまでする必要がどこにある。
ガルガンティアの地は、ヨハンがいたことである程度の収益を生み出していた。
食料や武器の生産だけでも、ラース王国を支えるだけの生産力をもっていたはずなのだ。
「とにかく何か手がかりを探すしかないな」
リンだけでも生きていてくれたらと、ヨハンはリンの足跡を探した。
しかし、瓦礫に埋もれたガルガンディア城の中では証拠も手がかりも、何も見つけることができなかった。
「くそっ……リンはどこにいったんだ……」
ヨハンは丸二日をガルガンティア捜索に使った。
フリードたちが現れることすらなかった。
「とにかく、最後に残ったミゲールの街に向かうか」
ミゲールの街も、ツリーハウスやガルガンディア城のように誰もいなくなっているかもしれない。ヨハンは人を求めて歩かずにはおれなかった。
ミゲールに移動する間も、ヨハンは思考を巡らせながら、誰が犯人なのか考えた。ここに来たのは、ミリューゼではなく聖女アクアだと言っていた。
冥王の下に訪れたのも、聖女アクアの配下の者だったとフリードが言っていた。
ここまで聖女アクアが行ったことは、ヨハンに関することばかりなのだ。
「聖女アクア、初めて会ったのはミリューゼの執務室か」
ヨハンは六羽の紹介をされたときのことを思い出す。
聖女アクアはカンナとふざけ合うように話していた印象がある。
無邪気で悪い印象はなかったが、いったい何があったのか。
「ミゲールの街が同じことになっていたなら、アクアについて調べてみるか」
ヨハンがミゲールの街に着くと先約がいた。フリードたちだ。
「フリード!」
「ヨハン様、どうしたっすか?」
青い顔をしているヨハンを見て、フリードは慌ててかけよった。
ヨハンは久しぶりに会う知り合いに安堵の表情を見せる。
「すまない。色々見てきたせいで不安になっていたみたいだ」
「何があったっすか?」
「それはあとで話す。そんなことよりもミゲールの街の状況はどうなってる?」
「それなんですが、どうもおかしいっす。街の中に誰も人がいないっす」
「やっぱりか……」
「やっぱりっすか?」
ヨハンの言葉にフリードは首を傾げるように、疑問を投げかけてくる。
ヨハンはツリーハウス、ガルガンディア城で見たことを話した。
ガンツ以外の人間に出会わなかったこと、まるで廃墟と化したガルガンディア城の姿を伝えた。
「どうなっているっすか?」
「わからん。わからんが何かとてつもない力が働いているような気がする。
そして、それに関係しているのが、聖女アクアだ」
「聖女アクアっすか?」
「そうだ。全ての事件に聖女アクアが関係している」
「……わかったっす。おいらは聖女アクアを調べてみるっす」
「危険だぞ」
「そんなの今まで何度も経験してるっす。おいらに任せるっす」
ヨハンは、しばし思考を巡らせてから頷いた。
それはフリードのことを心配してのことだったが、それよりもある仮説がヨハンの中で生まれたからだ。
「聖女アクア自身には絶対近づくな。いいな」
「わかったっす」
ヨハンの剣幕に押されるようにフリードは頷き。
元来た道を部下を連れて戻っていった。
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