第213話 ツリーハウス

ヨハンはテレポートが使えるので、フリード達よりも早くガルガンディアの地へ到着することができた。

ところどころ変わってしまっているが、それでも数年暮らした土地は、どこか懐かしい雰囲気をヨハンに与えた。


「とりあえずはツリーハウスに行ってみるか?」


竜の山脈近くにテレポートしたヨハンは、近くにあるツリーハウスの町を目指した。

ツリーハウスとは、ガルガンディア地方に作られている町の一つで、ユグドラシルと言われる木の上に町が作られている。

ユグドラシルを見つけたのはアイスであり、アイスが作りあげた町なのだ。

戦争が開始してからはミリーという女騎士が管理を引き継いでいるはずだ。

ガルガンディア地方には大小六つの町と一つの街が存在する。

ツリーハウスは町の中では一番大きなものであり、ミゲールの街の次に大きい。


「フリードたちはミゲールの方から来るだろうしな」


王都ランスから一番近い場所にあるのが、ミゲールの街なのだ。

森を抜ければガルガンディア城にも行けるが、リンの足取りを追うためには竜の山脈から近いツリーハウスの方が、何かしら手がかりがあるのではないかと思えた。

ツリーハウスまでもテレポートを使えるが、現在のツリーハウスがどうなっているのかわからないため様子を伺う必要がある。

そのため気配消しのスキルを発動して、遠巻きに様子を伺いながら少しばかり肉体の強化をするために魔力を体に流してみる。


「見張りが立っているな」


ツリーハウスはユグドラシルの上に作られているので、隠れた町なのだ。

木の下に兵士を立てていては、隠されている意味がない。


「どうやら、ツリーハウスの現状も随分と変わってしまったらしいな」


ヨハンは気配消しを最大にして、音をたてないように兵士たちの間を抜けていく。ジョブには忍者、シーフ、アサシンを搭載済みだ。

ユグドラシルを登るためには三つの方法がある。

一つは単純に木を登る方法。

次に子供や老人など木が登れない者たちのために作られた滑車を使ったゴンドラ。

最後に大きな荷物などを運搬するために作られた人力の釣り紐あるのだ。

ヨハンはそのどれも使わない。一瞬だけ足に魔力を集約するだけで、筋力を強化して跳躍するだけで上がることができる。


「魔力の気配に気づく奴はいないな」


ヨハンは先ほどから魔力を体に纏っていたので、誰も気づかないことがわかっていた。そのため跳躍を選びツリーハウスに入っていく。

ツリーハウスは木の上であることを利用し、それぞれの家に行くには階段や縄橋、渡りロープなど様々なモノが用意されている。

もちろん、老人が過ごしやすいゴンドラも用意されているので、アイスの心使いがうかがえる。


「ミリーに会うのが先決か?」


アイスは精霊王国連合の、シーラと共に行動を共にしているのでここにはいない。

実質ここの管理をしているのはミリーなのだ。

ヨハンはミリーがいるであろう町長の家を目指した。

ツリーハウスは、町の中へ入ってしまえば兵士の気配はなく。

町全体も静かな雰囲気だった。


「静か過ぎるな。人の気配がしない」


静かを通り越して、人がいないのだ。

兵士たちの家族や、ツリーハウスにはエルフなども出入りしていたはずなのだ。

それが今は人の気配を感じない。

町長の家に向かえば、少しばかりの人の気配がした。

様子を伺うように中を見れば、数名の女性が兵士たちによって組み敷かれていた。

ヨハンは一瞬で状況を理解して兵士を瞬殺する。

魔力など無くてもレベル百越えは伊達ではない。

さらに隠密系ジョブをつけているので、音も立てることなく兵士たちは絶命した。

残ったのは一番奥で未だに女性を組み伏せている男だけだ。


「言い残すことはあるか?」


あえて言葉をかけて男の首にナイフを突きつける。


「ひっ!」


男は女性から飛び退き、ヨハンは女性に布を投げかける。


「貴様は誰だ!」


男は怯えながらも叫ぶようにヨハンを指さした。


「俺はヨハン・ガルガンティアだ。貴様こそ誰だ」

「貴様がヨハンだと?」


男はヨハンの名乗りを聞いてマジマジと顔を見てきた。

ヨハンもその顔を見て、よく知る人物であることがわかった。

それはヨハンのことをバカにしていた男だ。


「お前?ガンツか?」

「ガンツ様と呼べ。我は第三突撃部隊隊長であるぞ」


こんな男が隊長とは不憫なことだ。


「ここで何をしている?」


ヨハンは怒りを込めて、ガンツに言葉をかける。

そこには威圧や殺意をふんだんに盛り込んだ脅しが込められていた。


「ひっ!……我々は異教徒どもを駆逐していただけだ」

「異教徒?」

「そうだ。ここにいた女たちはユグドラシルなる精霊を崇めていた。

絶対神様こそが唯一の神であるのにだ。だからこそ清めてやったのよ」


ガンツは一瞬怯んだが、まるで狂ったように話し出した。

清めているなど聖職者みたいなことを言うが、ハッキリとした自己満足だけしかこの男にはない。

ヨハンはこいつと話しても無駄だと判断して、ガンツの首を飛ばした。

そこには知り合いという情は一切働かない。

ライスが管理していたミゲールの街も、ガンツによって奪われたことを聞いていたからだ。


「ライスの弔いになっただろうか」


倒れている女性たちはこと切れている者がほとんどで、二人ほど意識を朦朧とさせながらも生きていたそんな姿を見て、ヨハンは後悔した。

自分が素直に殺されていれば、彼女たちがこんな無残な姿をさらすことはなかったのではないだろうか。

ヨハンは二人に回復魔法をかけてやるが、かけている途中で一人は死に、もう一人はヨハンの服を掴んだ。


「私の息子を助けて!」


彼女は母親だったのだろう。

どこかに連れていかれた息子を思って何とか死なずに耐えていたのだ。

ヨハンの魔法で体は治っても心は直せない。体が治っても彼女の瞳に光はなかった。


「くそっ!ガルガンティアの地で何が起きたんだ」


ヨハンは、リン一人をこの場に残したことを悔やんだ。

どうして一緒に来なかったのか……


「どうか無事でいてくれ」


ヨハンは彼女らを弔ってやり、リンの無事を切に願った。

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