第202話 頼りになるオッサン
フリードの話をまとめ、死霊王に連絡をしたヨハンはすぐに不死者たちを派遣してもらった。冥王に対抗できるのは、一先ず死霊王だと判断したのだ。
「俺を頼ってくれるのはありがたいね」
「ワシもおるぞ」
ヨハンの呼びかけに、死霊王は自ら軍を率いてやってきてくれた。
魔族は大丈夫なのかと質問すると。
「最近は俺の後継者が出来つつあるからな。そいつに留守を任せた」
「ガハハハ、こいつも昔の血が騒ぐらしいのよ。
まぁワシらの寿命はお前さんの、軽く五倍はあるからな。暇で暇で仕方ないのよ」
ジャイガントは大笑いしながら、バンバンと死霊王の背中を叩く。
「イッテぇ~な。お前はバカ力なんだ。少しは手加減しろよ。
俺は肉体派じゃなくて頭脳派だぞ」
「何を言っておるか、貴様にボコボコニされた魔族がどれほどおると思っておる。
みんなお前を恐怖の大魔王のように呼んでおるわ」
二人の漫才を聞いていると、場が明るくなるのでありがたい。
フリードたち偵察部隊の死は、ヨハンにとって想定外だったこともあり、気持ちに暗雲をもたらしていた。
そんな気持ちを晴らしてくれるように、二人の雰囲気に少しばかりの気持ちが軽くなった。二人はヨハンの気持ちに気づいているのかもしれない。
「現状は話した通りだ。冥王ハーデスが、こちらに何らかの仕掛けてくるかもしれない。だから二人には冥王を食い止めてほしい。
俺は何を狙っているのか、王国のことも含めて調査をする」
「任せておけ。戦乱が終わってから魔族との喧嘩の日々だ。腕は鈍っておらん」
「そうだな。俺も昔のように個人として暴れまわって勘を取り戻した。
戦場があるのなら任せてくれ」
頼れるオッサン達は仲間となって、ヨハンを支えてくれている。
しかも、それぞれがヨハンに匹敵するほどの強さを持っているのだ。
ヨハンも安心して任せていられる。
「第四ダンジョンと、この村を拠点としてくれればいい。
ここに住んでいる者たちには、移住を要請した。
ここにいても危険であることは間違い無いからな」
「それがいいだろうな」
ヨハンの言葉に死霊王が同意してくれたので、村の者たちを連れて移住を開始する。死霊王は部下を使って村のあった場所に砦を作ると言っていた。
敵に責められても防備に厚く。何よりも敵を観察するための物見の役目も果たせる。
死霊王にこの場を任せ、回復したフリードには別の仕事を与えた。
三十二機関の幹部に連絡するため、ヨハンは各地をテレポートで回った。
「そのようなことがあったのですね」
冒険者ギルドにやってきたヨハンを出迎えたのは、ギルドマスターのローガンだった。ローガンは深刻そうに事態を受け止めた。
「冒険者にも冥王領には気を付けるように呼びかけましょう」
「そうしてくれると助かる」
「承知しました。して、ヨハン様。こちらでも少々厄介なことが起きております」
「厄介なこと?」
「はい。最近、僧侶やプリーストが教会の設立を訴えております。
訴えるだけでなく、嘆願書まで集め始めているのです」
「嘆願書か」
聖女アクアの影響は、共和国領内だけに留まらず。
帝国領にある人の街にも影響を及ぼしつつあった。
彼らには悪気はないことはわかっている。
わかっているが、こちらとしても対応に困ることに関しては、ローガンもわかっているのだ。
「それもこの街だけではありません。すでにいくつかの街では勝手に、教会を建設する準備に入っている村や街もあると聞いています」
「聖女が作り出した流れは止められないか」
「はい。何か対策を考えませんと。こちらの情報が筒抜けになってしまいます」
人の信仰は絶対神一柱に絞られている。
エルフやドワーフなどは精霊神、魔族なら邪神などがいるが。
それは一柱ではなく、個々の種族によって神が変わったりする。
しかし、人の神は一柱であり、絶対神は国が変わろうと崇められている。
「いっそ筒抜けのままにして、王国に降伏するか?王国も他種族を認めているのなら、悪いようにはならないだろう?」
「本当にそれでよろしいので?私は普通の人です。
私自身が害が及ぶことはないでしょう。
ですが、本当にすべての種族のモノに害がないのかは、将来的にはわかりませぬぞ」
ローガンの言いたいこともわかっている。
だからこそ、ローガンという男が信用できる男だとヨハンは思えた。
彼は他種族であろうと分けることなく冒険者として取り立てていた。
そんな彼だからこそ、ヨハンは三十二機関へ誘ったのだ。
「そうだな。とりあえずは王国の動きに警戒をしながら、教会の侵食を食い止めるしかないな。人族の移住が必要になりそうだ」
「致し方ありませぬな」
ローガンとの話し合いを、さらに各地の三十二機関の者達に話した。
そこからヨハンは今後の方針を決めた。
全ての話し合いが終わる頃には一週間が過ぎ、リンとの再会は調査開始から一カ月が経とうとしていた。
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