第195話 聖女の政策

聖女は国の力を使い。不要な人材の排除に取りかかった。

命令をするだけで不要な使徒たち、まずは十人の教祖たちの配下である使徒を排除した。

彼らが管轄していた地域を自分の息のかかったものたちにすり替え、実権の掌握に努めた。


「何をするのだ売女め。貴様がなぜ聖女と呼ばれるようになったのかわかっているのか」


十人の教祖たちも一人一人丁寧に捕まえて話を聞き、話を聞いたうえで処刑していった。そうすることで異端だと確定するように仕向けて行ったのだ。

そのための材料は彼ら自身が持っていた。

着服、少女誘拐、使徒暴行、彼らの犯罪は暴けば暴くほど下劣なものばかりだった。


アクアを罵る最後に残った教祖が、聖女アクアを売女と罵る。

彼に出来る最後の抵抗であるこは本人もわかっているのだろう。

それでも言わずにはおれなかったという感じだ。

アクアは教祖に対していつもの笑顔を浮かべる。


「ええ、よく存じております。教祖様」


アクアは教祖に対して、聖女として自然に笑みを浮かべて言う。

もうアクアは動きだしたのだ。

九人の教祖とそれに連なる信者を手にかけた。

王国の兵士、聖女の名に従う従順な信者達の手を借り、アクアは改革のため手を染めた。


「ならば、絶対神様に許しを乞い。私を離すのだ」


ここに来ても教祖は自分が優位な立場で話をする。

彼はそう教えられてきたのだろう。

自分こそが特別な存在であり、崇高な使徒であると。

アクアに教えを説けば説き伏せることができるとまだ思っている。

それが神の教えではなく、教会の教祖たちに優位な教えであったとしても。

自分こそが特別な存在であり、聖女はそれに従うと思い込んでいる。


「どうして私があなたを最後に残したか、分かりますか?」

「最後だと?」


教祖は他の九人が殺されたことを知らない。

そういう風にアクアは動いたのだ。

彼らが権力を奪い合い、争い合う関係であることを利用していることを知っているのでそうしたのだ。

最後に残された教祖は、説教の途中でアクアに問いかけられ、現状に対して思考を巡らせる。


「我こそが誰よりも崇高な使徒であるからであろう」


しかし、彼は最後の意味をはき違えた。

他の教祖たちよりも自分が特別であるという結論に至った。

もちろんアクアとしても、彼が特別であることは間違いない。

彼は教祖の中で誰よりも純粋な信者であることは疑いがないからだ。

それは教会という中ではという意味が込められる。

彼は教祖になるために、多少黒いことをしたこともあるが、それもこれも自分が信じる神のため。自分が行う行為を全て正当化してきたのだ。


「そうですね。あなたが一番バカで、一番どうでも良かったからです。

厄介な方たちには早々に死んでもらいました。

ねぇ教祖様、あなたは純粋な信者かもしれない。

だけど、他の人たちよりも世間を知らないおバカさんでしたよ」


教祖が最後の本当の意味を知ったときには、アクアの号令で教祖の首が飛んでいく。それは、完全に教会内をアクアの手中に納めたことを意味する瞬間だった。


「シスタークレア、今日からあなたが教祖です。私と共に教会をもり立ててくださいね」


聖女の従者だったシスターは、教会の頂点に上りつめることになった。

それが傀儡の頂点であろうと、彼女は粛々とその任を全うする。


「かしこまりました」

「これで、全ての準備が整ったわね。あとはミリューゼたち次第。

まぁここまでお膳立てしたのだから動いてもらわなければ意味がないけれど」


アクアが教会を掌握したことで、国と教会の太いパイプが繋がった。

これにより、アクアは教育の改革を行うことから始めた。

それは亜人種に対しての考え方を変えることだった。

彼女はヨハンが強みとしている亜人族との交流を、自身も取り入れていったのだ。

これまで教会によって亜人族は劣等種として教えられていた。

そのため聖女の教えは人々を戸惑わせた。

アクアは劣等種という言葉を排除し、共存する主従であると謳った。


聖女の言葉は絶対神の言葉であることを利用し、亜人種を劣等種と罵りはしないように厳守した。

彼らは共存できる仲間であり、主は人、従は亜人と作り分けたのだと言った。

 

さらに、これまで読み解かれていた古い文献が間違っており。

新たに訂正されたと発表したのだ。


これにより、奴隷として蔑んでいたものたちは罰が悪そうに。

仲良くしていた者たちは嬉しそうに。

そして奴隷として扱われていた亜人種たちは突然のことに戸惑った。

教会は彼らの保護を名目に、奴隷の開放を行っていった。

ここまで教会が全面的に動いたことで、教会が本気であることが伝わり。

少しづつ亜人種に対しての扱いが変わっていった。


「ヨハン・ガルガンディア、あなただけが亜人種の味方ではなくなりましたよ。

どうしますか?」


アクアは政策が上手く行っていることにほくそ笑み。ヨハンのことを考える。

ここまで情熱的にヨハンのことを考える人物は他にはいないのではない。

それからもアクアはヨハンの政策を真似るように動いていった。

次に行ったのは学校である。

王都には貴族院と呼ばれる貴族と聖職者だけが通う学校がある。

アクアは平民や亜人種が通える学校を作り、教会管轄の孤児院を同時に併設した。

さらに教育の改革だけでなく、これまで農民は生活に困るような環境だったものを、全ての畑を国と教会の管轄とすることで、農民には必ずお腹いっぱいのご飯と多少の贅沢ができる金子が渡れるようにした。

これはランスの案にアクアなりのアレンジを加えものだ。

ランスの案ではお金をただ渡すだけだった。

しかし、国の管轄とすることで、彼らは国に雇われているということになり。

市民として扱うことで管理をしやすくしたのだ。


アクアの政策は、ヨハンを真似たようなものであった。

しかし、それは確実に王国に力を蓄えさせ、アクアがヨハンを敵にすると言ってから、一年後には確実な成果を出した。

これまで手付かずにされていた帝国領、共和国領へ王国が介入することができるようになっていったのだ。

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