第180話 援軍集結
リンが大橋で陣を敷いて、すでに数日が経過しようとしていた。
いくらヨハンが強かろうと、敵の数が多すぎて対処できるとは思えない。
負けないまでも、勝てる戦いではないのだ。
だからこそ、リンの陣を追いかけ、大軍が現れると思っていた。
しかし、いくら待っても帝国軍は姿を見せることはなかった。
「どうなっているのでしょうか?」
「わかりません。ですが、あれだけの兵ならば、こちらを全滅にすることもできたでしょう」
リンは偵察兵を出して、帝国兵の動きを調べた。
それでわかったことは、帝国兵はリンと同じように陣を敷いて休息をとっているということだった。
「ますます不可解ですね」
リンは死霊王の行動について考えを巡らせる。
しかし、リンの頭では死霊王という人間を理解することはできなかった。
リンは知らないことだが、帝国内部に不穏な動きがあるため、死霊王は進軍するほどの余力を持っていないのだった。
「二日……」
リンは敵とにらみ合った状態で、二日が経過していることにため息を吐く。
ヨハンは帰還せず、不可解な敵の動きに翻弄され、リン自身疲労からめまいを感じ始めていた。
「リン様、援軍が到着しました」
オークキングの言葉はリンに活力を与えた。
援軍要請に一番に応えたのは、カンナだった。
カンナはリンの助けをするため、一直線に元共和国領内を横断して駆けつけてくれた。さらに一日が経過してシーラとアイスが、さらに一日経ちセリーヌが援軍として駆けつけてきた。
「皆さん、本当にありがとうございます」
各幹部を集めた天幕はどうにも華やかな色合いを見せている。
セリーヌとカンナの軍は、共和国を手に入れたことで人数が増強されていた。
セリーヌ軍五万、カンナ軍十万の軍勢を連れてきてくれたのだ。
さらにシーラとアイスが、ガルガンティアから集めた兵士二万を足して、二十万の大軍勢が集結していた。
「状況を説明してくださる」
蒼い鎧に身を包んだセリーヌの一言で、集まったメンバーで作戦会議が開かれた。
ヨハンの不在の会議で、リンが現状を説明していく。
「かなり厳しい状況だな」
話を聞いた深紅の鎧を纏ったカンナが、腕を組み考え出した。
ヨハン不在と言うのが、彼女にとってかなり大きいことであり。
カンナはヨハンの智謀を高く買っていた。
セリーヌも、ヨハンという人物を警戒しているため、戦においてその強さを認めている。
「敵の数はこちらの倍以上、こちらは大将を欠いた状態で戦うしかないか」
シーラは冷静に現状を告げたつもりだった。しかし、発言によりそれぞれの将軍の顔にはどうしようもない喪失感が生まれてしまっていた。
「まぁ、勝てないまでも負けない戦いはできますね」
そんな中でアイスだけが、違う表情で話題を振ってくる。
「勝てないけど、負けない戦い?」
アイスの言葉に反応したのはリンだった。
現状を聞いて、どうしてそんなことがいるのか理解できなかった。
「そうですね。まず、この橋を壊します。
そうすれば敵は橋が使えなくなり、攻め手を失うので負けることはないでしょう」
アイスの大胆な策に、全員言葉を失う。
「まぁそれも無理なら、多少被害が出るかもしれませんが。魔法攻撃の乱戦ですかね。敵も準備をしていると思うんですが、こちらはヨハン様が編み出された協力魔法があります。それを使えば敵の防御壁を破ることができると思うんでよね」
アイスの口から漏れ出る内容に、誰も反論しようとは思わない。
むしろ、さすがはヨハンが選んだ将軍であると関心していた。
「まず大橋を壊すのは賛成できないわね」
アイスの意見に対して、セリーヌが反論を口にする。
「どうしてでしょうか?」
「この橋が唯一帝国にわたることができるからです。
船を使うにも、河の流れは速く、船の方が持ちません。
何より河に住む魔物に食べられるとも聞いたことがあります」
セリーヌの言葉に、アイスは残念そうな顔をする。
「さらに魔法の打ち合いと言いましたが、こちらが魔法を撃てばあちらも撃ってくるでしょう。それはただの正面衝突というので、策とは呼べません」
セリーヌによって考えた作戦をつぶされたアイスは、さらに思考を巡らせる。
「ここは大橋の出口まで下がり、そこで陣を敷くというのはどうでしょうか?
そうすればこちらは広がって敵を迎え討つことができます」
セリーヌが自信満々に語った作戦は、三死騎の一人、オクビン・シンガードと同じものだった。裏を返せば敵はその逆転を知っているということだ。
「それはやめた方がいいと思います。
セリーヌ様の待ちの姿勢を否定するようにで悪いのですが。
敵の三死騎オクビン・シンガードが使った手と全く同じものです。
何より敵が攻めて来なければ、無駄に兵糧を失うだけです。
ヨハン様がいないので、私たちの兵糧は正直微々たるものです。
援軍に来ていただいたおかげで現在は兵糧には困っていませんが。
時間をかけるのであればかなり危険かと」
セリーヌ軍とオクビン・シンガード軍がにらみ合いをしていたいのは有名な話である。それは互いに慎重であり、どちらかが手を出させばカウンターでやられてしまう恐怖から動けなくなっていたのだ。
オクビンが膠着状態から軍を引いたのも、リンが指摘した兵糧が少なくなったためだ。
「そう……」
リンの言葉を聞いて、セリーヌも黙ってしまう。
カンナは何度も頭を捻っているようだが、良い案は浮かばなかったようだ。
「なら、私が霧を発生させ、アイス殿が魔法隊を、カンナ様が戦士隊を率いて、それぞれで戦ってはいかがでしょうか?」
シーラの提案に四人は意味が分からず、首を傾げる。
「それぞれの得意分野で戦いを挑む方がいいのではと思いまして」
シーラの提案は、元々各隊は同じ王国軍ではあるが。
行動を共にしたことが無く。合同軍なので連携は取れないだろう。
ならば多少個人プレイに走っても、自分たちの得意な戦法で挑んだ方が理があるのではないかと言うものであった。
「それはいいかもしれませんね」
リンが賛同したことで、アイスが頷き。
カンナも思考に疲れたのか、シーラの提案を受け入れた。
「ちょっと待ってください。私はどうすれば?」
「あまり戦いたくなさそうなので、後方支援でいかがですか?」
セリーヌの慎重な性格は現状必要ない。
むしろ、カンナのように何も考えない猪突猛進や、シーラのような特殊能力の方が集団戦では役に立つ。
「私を愚弄しているの?」
アイスの発言に、セリーヌは顔を赤くして怒りを表す。
「ではカンナ様と同じように最前線に出られますか?」
助け舟を出したのはリンだった。
しかし、それが助け舟になっていたのかは不明である。
「ええ、手柄は私が頂きます」
セリーヌはリンの申し出に対して、躊躇うことなく受け入れた。
「わかりました。では、布陣としてはこういう形で」
アイスが地図を広げて細かな作戦を各々に伝えていく。
「では、これでお願いします」
「おうよ」
「任せなさい」
前線を守る両将軍は気合十分で豊満な胸をたたく。
「中距離はシーラ様お願いします」
「ええ」
前線と魔法隊の間には精霊族を率いてきたシーラが受け持つ。
そうすることで霧を発生させ弓での攻撃を可能にするのだ。
「私とリン様は後方で魔法隊を編みます」
「はい」
アイスが考えた布陣で納得したメンバーは天幕を出ていく。
「ヨハン様、待っていてください。必ずあなたを迎えに行きます」
リンは、ヨハンが死ぬことなど微塵も考えていなかった。
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