第131話 援軍要請
ジャイガントたち巨人軍は国境の街から少し離れた山脈近くに陣地を構えることに落ち着き。それぞれの生活に馴染み始めたころ、サクから書状が届いた。
「ヨハン様、手紙を持ってきました」
国境の街に滞在して一か月が経とうとしていた。
ゴルドーと様々な物を作るのに没頭していて時間を忘れていた。
領地経営は他の誰かに任せていても成り立つ。
新たな発明は現代の物を再現するためには、自分の知識がどうしても必要になるのでゴルドーから求められ集中してしまった。
「うん?アイス帰ったのか、誰からだ?」
手紙を持ってきてくれたのはアイスだ。
アイスには一度ガルガンディアに戻って、ジャイガントとの交戦の報告をしてきてもらった。そのうえで少数を連れて戻ってきたのだ。
「リン様、サク様、ジェルミー様からそれぞれ一通ずつ預かってきています」
「そうか、重要な案件はあるか?」
「サク様から、できれば早急に読んでほしいと言付かっています」
「わかった。ではサクの手紙から読もう。ゴルドー、休憩にするぞ」
「ワシはもう少し詰めてやりますわ」
「そうか、あまり根を詰めすぎるなよ」
「わかっておりますよ」
ドワーフは体力がある。集中しだすと三日三晩でもやり続ける。
ある程度で止めなければならない。
「それじゃあ、サクの手紙を」
「はい」
アイスに手渡された手紙を開くと、どうにも面倒な内容が書かれていた。
「中身について話を聞いてきたか?」
「いえ、できれば早急に読んで判断を仰ぎたいと」
普通のことであれば、リンやサクが判断する。
それでも判断できない重要な内容だと判断して、アイスに尋ねたが無駄なようだ。
「そうか、はぁ~今いいところなのにな」
オーブントースターの開発は成功した。
ココナやゴルドーにも好評なので、ドワーフに作り方を教えて、酵母を作って食パン作りとトースターの作り方を伝授し終えた。
次は電子レンジだと思っていたところなのだ。
「どうかされたのですか?」
「どうやら英雄様のお呼びがかかったらしい」
「英雄様?」
おや?どうやらアイスはランスのことを知らないらしい。
「アイスは山を下りてから王国のことはあまり詳しくないのか?」
「はい。一番近かったガルガンディア領で人材募集をしておりましたので」
「そうか」
アイスにランスのことを説明した。
英雄とは王様と同格で、この国で一番偉いことを説明してやる。
そのランスからの要請で中央戦線に参加してほしいと書状が届いたことを話した。
「次の戦場に行かれるのですね?」
「正直行きたくない。国境の街もやっと落ち着いてきて。
便利な日常品開発に取り掛かれるようになった。ガルガンディアだって発展してきて、これからってときに領から離れたくないな」
「では、代わりの者を遣わせばいいのでは?」
アイスやライスは、ヨハンが第三軍の将軍として認めた者だ。
ランスの下へ出しても恥ずかしくない。
だが、相手はあのランスなのだ。ヨハンが行かなければ納得しないだろう。
「いや、もう一つ、俺が行かないといけない理由があるんだ。
実は俺は英雄と幼馴染なんだ」
「えっ?」
アイスに、ランスが同じ村出身者であり、幼馴染であることを話した。
「大変なんですね」
「昔からの付き合いだからな。あいつは俺が来ることを望むだろうな」
思案していると、ゴルドーが設計図をもってやってきた。
「ヨハン様、この設計図ですが」
「ゴルドー、すまない。どうやら俺はここを離れないといけないらしい」
「唐突ですな」
「ああ、主戦場からお呼びがかかった」
「それはまた」
「あとのことを頼めるか?」
「お任せください。わからぬところは経験でなんとかして見せましょう」
「ゴルドーがそう言ってくれるなら俺も安心だ」
ゴルドーに電子レンジ開発を任せ、評議員が集まっている建物へ向かう。
一応役所も兼ねているので、受付や事務員もいる。
代表を務めているのは、ゴルドーから引き継いだシーラだ。
「ヨハン様どうされました?」
受付をしていたのは、ドワーフの少女だった。
少女と言っても年齢は不明なのでわからない。
その横にエルフの少女もいるので、他種族同士が上手く折り合いがついていることに内心嬉しくなる。
「シーラはいるか?ちょっとここを離れないといけなくなったので挨拶がしたい」
「少々お待ちください。シーラ様は執務室で書類整理をされていると思いますので呼んでまいります」
ゴルドーと共に紙の木を見つけたので、皮を剝き、繊維を取り出して固め、紙を作った。まだまだ荒い紙だが、この世界にある高級な革紙よりも安くで大量に作れたので書類整理に使っている。
「わかった。俺の方が出向くから大丈夫だ」
「かしこまりました」
エルフの受付嬢が呼びに行こうとしてくれたので、呼び止めて執務室へと足を向ける。様々な案件をシーラ一人で処理しているわけではない。
彼ら事務の者たちが整理して、吟味したものをシーラが判断しているのだ。
文官みたいな仕事に、最初こそ慌てていたが大分慣れて落ち着いたようだ。
「失礼する」
ノックの後に一声かけて執務室へと入っていった。
「これはヨハン様、お呼び頂ければ私の方から出向いたのに」
「忙しいシーラにそんなことさせられないさ」
「して、今日はどのような御用でしょうか?」
「また戦場に行かなければならない」
どの一言でシーラは大体のことを察してくれた。
「そうですか、この街のことはお任せください。
ゴルドー殿もいますし、他の者たちも前よりも随分と自分で考えて動いてくれるようになりました」
エルフは種族として、長の言うことを絶対としてきた。
しかし、ヨハンが率いるガルガンディアの住民はヨハンに全て指示されずとも個々の力に任せて自主的に動くようにしている。
それを見たエルフは自分たちも何かしなければならないと働くようになったのだ。
国境の街や巨人族の肉を集めているのがエルフだ。
彼らは元々狩りが得意なこともあり、食糧事情の改善に取り組んでくれている。
家畜を育てたり、畑や耕すなどの自然に触れる行為は彼らの望む仕事だったらしい。
「ノーム族も最近は良く働きます」
モグラのようなノーム族の働きは目覚ましい。
元々地中深くに住んでいる彼らは周辺の開拓や畑を作る手伝いをしてくれている。
もちろんガルガンディアに来て開発の主にもなってくれている。
「それぞれ仕事があっていいことだ」
「それもこれもヨハン様が全て用意してくれたからです。
人は働かなければ目的を見失う。それをご存じなのでは?」
種族は違えど、それぞれが得意なことで助け合う。
ヨハンの理想が体現されつつあった。
「まだまだこれからさ。とりあえず、俺は一旦ガルガンディア領に帰るよ」
「はい。では、一つアドバイスを。あの土地には竜がいるそうです」
「竜?」
「はい。古代種のような龍ではなく、人が乗れる竜がいると聞いたことがあります。一度調査されてはどうでしょうか?」
「う~ん、考えておくよ。ありがとう」
「はい。では、ご無事をお祈りしております」
「ああ。シーラもあとは頼んだ」
こうして、ヨハンは国境の街を後にした。
供としてアイスたち王国兵とジャイガントがヨハンについてくると言うので、巨人族五名を連れてガルガンディア領へと帰還した。
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