第123話 奇襲
ヨハンは突然の状況にできる限りの行動を取ろうと、新しいスキルを発動させる。
本来であれば最終手段にしたいと思っていたスキルだ。
「ディメンション」
襲撃してきたジャイガントを巻き添えにして、次元の狭間に身を投じる。
本来であれば、こんなことはしたくなかった。
だけど、ジャイガントがいると巨人軍の力は何倍にも膨れ上がる。
逆にジャイガントがいなくなれば、巨人軍の力を弱体化することができるのだ。
「うん?景色が急に変わりやがったな」
「閉じ込めさせてもらった」
「閉じ込めた?」
「そうだ。ここはあんたと戦うためだけに作った空間だ。
ここでは外から魔力を取り込むことはできない」
ヨハンはヨハンなりに考えた。
シールチェーンを使えば確かにジャイガントに勝てるかもしれない。
だけど、それは本当に勝ったことになるのか?巨人たちは納得するのか?自分の部下として気持ちよく戦えるのか?色々なことを考えた。
考えて出した結論は、正面から戦うだった。
ただし、この間のように無限に回復されては、こちらの魔力が尽きてしまう。
だったらとうすればいいか。簡単なことだ。
魔力を吸収できない環境を作り出せばいい。
魔力を吸収できない場所で互いの全力でぶつかり合い。
ジャイガントを討ち果たせばいい。
「魔力を取り込めないか……面白い。我は生まれながらの強者だ。
我を倒すためにいろんな奴が、いろんなことをしてきた。
だが、我はそのすべてに勝ってきたんだ。お前がどんな方法を取ろうと我が勝つ」
気持ちいいぐらいの戦闘バカにヨハンも遠慮など必要なかった。
「なら思う存分やらせてもらう」
前回と同じでは芸がないと思ったので、今回は斧ではない武器を用意した。
これまで何度も作り、何度も使ってきたことで手に馴染んだ鎖をアイテムボックスから出現させる。
「得物を変えたか。不得手な得物で我に挑むか?」
「不得手かどうか試してみろ」
鎖を振り回しジャイガントへと挑みかかる。
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ヨハンがジャイガントを道連れに次元の狭間に消えたことで。
互いの大将を失った両軍の明暗はハッキリと分かれた。
ヨハンの襲撃の知らせを受けて、すぐに意味を理解した王国軍の将軍二人が迅速な行動をとったのだ。
奇襲をかけたはずの巨人軍は、いきなりの大将不在に混乱を収めるモノがおらず、後手に回ることになる。
シーラ・シエラルクは敵が攻勢に出る前に霧を発生させて巨人軍の目くらましをする。普通であれば巨人たちに吸収されてしまうが、一瞬でいいのだ。
目くらましにさえなってくれればそれでいい。
シーラの意図を察したアイスの号令で、シールチェーンが巨人たちへ向けて放たれる。
ガルガンディア式訓練によって、基礎能力が高く。魔力の肉体強化を覚えているアイスたちからすれば、シールチェーンの重みなど無いに等しい。
誰が投げても巨人たちの肩の辺りまで飛ばすことができる。
すぐに行動に出たおかげで、巨人たちの虚を突くことが出来た。
数人の巨人を無力化することができ、巨人たちも鎖如きに自分たちが捕まえられると思っていなかったのだろう。自身の体に当たった鎖を払うことなく。
むしろ気にも留めていなかった。
しかし、鎖はシーラの霧に反応して近くにいる巨人たちの動きを封じていく。
動きを封じられた巨人たちを見て、仲間の巨人たちが鎖を取ろうと鎖に触れる。
そうしたことで巨人ホイホイとなって鎖に触れたものも連鎖して動きを封じることに成功した。
シーラの霧が晴れたときに立っていた巨人は足った三人だけだった。
「三人残ったわね」
一人でも一騎当千の力を持つ巨人を、三人も残してしまったことにシーラは危機感を覚えた。しかし、シーラの心に反してアイスは軍を一気に加速させる。
残った三人の巨人目掛けて矢を放った。
巨人たちは未知の鎖に対処の仕方を図りかねていたのだ。
放たれた矢から逃げるように三人の巨人が後ずさる。
アイスの行動に感化されたシーラもエルフたちに指示出して物理攻撃を主体に攻撃を仕掛ける。正面からぶつかり合うのではなく。
あくまで遠巻きに矢や、投げ槍を放つことで攻撃をする。
三人の巨人は後方にいたため難を逃れたモノたちなのだ。
シーラたちとの距離を詰めるためには、倒れている仲間を越えなければならない。
「アイス殿!」
シーラの叫びにアイスは手を挙げるだけで応えた。それで十分だった。
「巨人軍の猛者どもよ。現在我らが大将と、そちらの大将が一騎打ちをしておられる」
アイスの攻撃を止めさせたシーラは、風魔法で拡張した声で巨人たちに語り始める。動きや魔力を封じられ、地面へと縛り付けられた巨人たちからすれば、今の状況は許しがたい屈辱であることだろう。
しかし、優勢な状態でしかできない相談がある。
シーラはエルフの長として、巨人に語り掛けた。
「我々としてもこれ以上の戦いは望まない。大将が戻られるまで一時休戦といたさぬか?」
シーラの声を聴いて、まだ身動きが取れる三人の巨人も動きを止める。
鎖に繋がれても攻勢に出たいと考えている巨人はいるようだが。
三人は動きを止めて両手を上げた。
さらにジャイガントの後ろに立っており、ジャイガントがいなくなったことで一番先頭に立った男がギロリとシーラを見る。
「主らの申し出を飲もう。彼ら三人はまだ若い者たちなのだ。見逃してやってくれ」
男は残った三人の命乞いをした。
自身の身に起こっている不思議に対して男は理解しているのだ。
自分たちの力では鎖を抜け出すことはできない。
「約束します。このままの姿勢でお待ちいただくことになると思いますが。
しばし大将同士の戦いが終わるのをお待ちください」
「あい、わかった」
男はそれ以上何も語ることなく目を閉じた。それに習うように他の巨人もまるで眠りにつくように横たわり動かなくなった。
「なんとななりましたね」
シーラの下へアイスがやってくる。
アイスとの共同戦線は初めてだったが、シーラはアイスとの連携が上手くいった。
「あなたは不思議な人ね。まるで私の考えが分かるようだったわ」
「なんとなくですよ。エルフさんも狩人でしょ?私も狩人として森に棲むものですから、なんとなくわかるんです」
「何っ?アイスは狩人なの?」
「はい。これでも村では一番の腕利きなんですよ」
アイスが細い腕を出して力こぶを作る。
そんな仕草が面白くて、シーラは笑った。
ヨハンがいなくなったことで、二人の親交が深まるいい機会となった。
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