第99話 精霊族奪還 2
ジャイガントが早く去ってくれることを祈っていると。
ゴブリン達が雄叫びを上げて近づいてくる。
戦闘をしていた帝国兵たちが押されているのだ。
ジャイガントも異変に気付いたらしく。騒ぎが起きている方に視線を向ける。
「騒々しいな!何事だ!」
ジャイガントに気付かれるのを恐れて司令官を装うことを決めた。
「はっ!森の方からゴブリンが大量発生した模様です。
群れで街に迫っておりますところ、兵士たちが応戦しております。
ただ何分向こうの数が多く。押されております」
「そうか、力を貸した方がよいか?」
ジャイガントは嬉々とした表情で問うてきた。
「いえ、問題ありません。モンスター如き私がねじ伏せてきます」
「だが、あちらさんはすぐそこまできているようだが?」
嬉々とした表情でジャイガントが指を差した方角を見れば、ゴブリン達が今にも国境の街に迫るところまできていた。
向こうにもジャイガントの巨体は見えているはずなのに、どうして止まらないのか。
「あちらさんはやる気のようだな」
嬉しそうにジャイガントが一歩踏み出す。
「お待ちくださいジャイガント様。あなた様がここで戦われては街にも被害がでます」
「上手いことやるさ」
ジャイガントはヨハンの言葉など聞く耳を貸さない。
ゴブリン達の元へと踏み出していく。
ヨハンの足ではジャイガントの一歩に遠く及ばない。
「行くなって言ってんだろ!」
このまま巨人の王をゴブリンの下へ行かせるわけにはいかない。
ヨハンが叫ぶと同時に重力魔法を使う。
ジャイガントの一歩が重くなり、地面に巨大な穴が空く。
ジャイガントは一歩踏み出した姿勢で振り返った。
「ほう~ワシの動きを止めるか。お主は本当に面白いの。
じゃが、八魔将であるワシの行動を一司令官であるお主が止めてよいと思っておるのか!」
威圧、殺意、殺気、本当の強者が放てば弱い者は心が折れる。
それだけでショック死してしまう。ジャイガントは本当の強者である。
戦闘に関して彼ほど戦闘を楽しみ、数々の戦闘を経験した者はいないだろう。
人を殺した数も、強者を打ち負かした数もジャイガントは誰よりも多いと言える。
「ここは私の管轄です」
ヨハンの管轄でもない。それでもここはヨハンが手に入れる。
「ワシの威圧を受けても耐えよるか。うむ。そこまでの意思があるのは良い。
だがな、ガルガンディア。我を止めることはできんぞ」
ジャイガントとの交戦は避けたい。こいつを倒せるのはランスだけだ。
「それでも止めて見せます」
「良いな、良いぞ。ワシはゴブリンなどと言う下等生物よりもお主のような者の方が面白いぞ」
ジャイガントは標的を変えてヨハンを見据える。
「ならば場所を変えて頂きます。街を壊させるわけにはいかない」
「よかろう」
ジャイガントは踵を返して街を離れる。
街の近くにある岩で埋め尽くされた山まで来ると、ヨハンを待ち構えるように座り込んだ。
「予定が狂ったな」
魔法で作り出した青い狼煙を上げる。リンとココナへの合図だ。
青い狼煙はヨハンに不測の事態があった場合。
緊急事態宣言の意味で用意していた。
ここからはそれぞれの考えで行動するようにと意味を込めている。
「待ちわびたぞ」
岩山に到着すれば、ジャイガントは胡坐をかいて座っていた。
「ジャイガント殿、同じ帝国の兵士なのです。戦う必要はないと思いますが」
「まどろっこしいことはどうでもいいわい。お主はワシに意見した。
意見を通してほしくば力を見せよ。男ならば黙って拳を交えればわかるというものじゃ」
戦闘バカに何を言っても仕方がない。
「わかりました。力を示します。それでどうかお帰りください」
「それほどに自身があるか?ならば御託はもういい。かかって来るがよい」
八魔将の一人、ネフェリト・ジャイガント。
ゲームの設定では、攻撃力と体力に関しては最強の存在である。
しかも、厄介な特殊能力ももってやがる。
「肉体強化!」
魔力を肉体の強化に費やす。ジャイガントには重力魔法以外は使えないのだ。
「ほう、魔力による肉体強化か。お主、ワシと戦ったことでもあるのか?」
ネフェリト・ジャイガントに魔法は通じない。
魔法を使えば全て吸収して、その身に取り込むからだ。
魔力吸収は特殊なスキルであり習得できる。
ただ、固有の種族だけに与えられた恩恵で、特殊スキルと最強矛を持った化け物を倒すためには、同じだけの攻撃力と特殊な武器による攻撃しかない。
「ありませんよ。戦いたいとも思いません」
「ならばなぜ止める?ワシが暴れたとしても、それほどの力量があればお主一人逃げることなど容易かろう」
「それもできませんから」
司令官の服を脱ぎ棄て、動きやすい格好になる。
「我儘な奴だ」
ジャイガントはフッと笑うと立ち上がった。
「だが、それが面白い」
極限まで肉体強化に魔力を注ぎ込む。両手に斧を構えてネフェリト・ジャイガントに向かって走る。膝にも届かない身長差を活かして死角に回り込もうとする。
「甘いの」
死角に周り込んで攻撃を仕掛けるが難なく防がれる。
「単純じゃな」
防がれることなどわかっていた。だからこそ、重力を付加している。
「グっ!」
ジャイガントの防いだ中指が変な方向に曲がっていく。
「個人魔法というやつか」
個人魔法はジャイガントの魔法吸収と同じで特殊スキルに分類される。
魔力吸収と同じ特殊部類に入るので、魔力を吸収ができない。
「面白いの~面白い」
自分の指が変な方向に曲がったことを巨人は笑った。
「久々に痛いと思ったぞ」
「痛いだけですか?結構全力なんですけどね」
魔力肉体強化+重力カウンターで指一本。ハッキリって割に合わない。
「ガハハハ。もっともっと楽しませてくれよ」
もしも、蟻と人間が戦ったならばどちらが勝つか?軍隊蟻は大勢で人を襲うことで勝つことはある。
だが、たった一匹の普通の蟻が、本気で追いかけてくる巨大な人の攻撃を防げるはずがない。巨大な掌が?ヨハンを襲う。
普通の蟻ならば踏み潰されて終わっていたことだろう。
「紫電」
魔力による肉体強化に上乗せする形で雷魔法で神経伝達の速度を上げる。
身体への負荷は計り知れない。自己治癒能力強化も上乗せして掌を避ける。
避けた速度を維持したままネフェリト・ジャイガントの腕を駆け上がる。
斧でジャイガントの腕を切り裂くことも忘れない。
薄皮を切り裂いただけのような感触だが、多少でも出血させることに意味がある。
「グヌヌヌ!ウガッー!」
腕を振り上げヨハンを振り落とそうとする。
「重力アップ」
自身の体重を数千倍の重さに変える。
自分もカエルのように押し潰されるが、ヨハンの重さはジャイガントの腕を地面にめり込ませて、骨が折れる音を響かせる。
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