第56話 奴隷を見に行こう

ジェルミーを確保できたヨハンは、更なる人材確保のためにヤコンの店を訪れていた。ヤコンには戦争孤児たちの手配を頼んでいた。

孤児院に入れる者は、まだマシな方だと言える。

王都にはスラム街があり、そこでは毎日食べるのにも困っている戦争孤児が存在している。

そういった孤児たちをヨハンは引き取って、後々の自分の配下にしようと画策していた。


それともう一つの案件もヤコンに手配を頼んでいる。


「本当によろしいんですか?」

「何がだ?」

「リン嬢に黙っているのでしょう?」


ヨハンはリンの顔を思い出して、「不潔です」と叫んでいる姿を思い浮かべてしまう。リンは家族を案内するため、今は別行動を取っている。


「リンには……後で言い訳するよ」

「言い訳ですか」


ヤコンは面白いモノを見るようにヨハンを見ていた。


「なんだよ」

「いえ、二人の力関係が面白いなと思っただけですよ」

「別に恐いわけじゃないさ。慕ってくれているのに嫌われたくはないだろ」

「そういうことにしておきましょう」


ヤコンに話をはぐらかされ。

釈然としないヨハンであったが、話を続けても自分の方が不利な状況になるだけなのでぶり返そうとは思わない。


「それで、どこにいくんだ?」

「奴隷は合法な商品です。ですが、やはり人目を気にする商品でもあります。

そのため普通の露店や商館ではなく。奴隷専門の商館があるんですよ」


ヤコンに案内されてきた場所は、ランスと初めて街を散策したときに迷い込んだ。怪し雰囲気漂う遊郭街だった。

あの時助けてくれたお姉さんがいないか視線を向けてしまう。

視界の先に見つけることができないまま馬車は奥へと進んでいく。


「ここでです」


ヤコンがここだと言った場所は何の変哲もない古びた屋敷だった。

古びた屋敷の前には剣を携えた傭兵が立って玄関を護っている。


「商人ギルドのヤコンだ」

「話は聞いております」


ヤコンは事前に訪問を予約していてくれた。

屋敷の中は薄暗く、黒いカーテンで部屋の扉が全て見えないようになっていた。

真っ直ぐに廊下を抜けたところで、広い部屋に出た。


「こちらです」


案内された場所は広い部屋の横にある個人商談用ソファーが置かれた部屋だった。


「これはこれは新鋭貴族のヨハン・ガルガンディア様ではありませんか。

いや~ヤコン殿から客を紹介すると言われて、お待ちしておりますれば。

これはこれは楽しみな貴族様をご紹介いただけるとはありがたい」


部屋に入るなり、物凄い勢いで話し出したシルクハットをかぶった男。

この商館の主人であるドドンと名乗っていた。

ドトンの勢いに圧倒されながら、席に座らされ話もそこそこに質問を投げかけられる。


「ヤコン殿より事情はある程度お聞きしております。

それでどう言った奴隷を御所望でしょうか?働き者のゴブリン族がよろしいでしょうか?それとも見目麗しいエルフの少女?はたまた魔法が使えるウィッチなども取りそろえておりますよ」


奴隷のほとんどは他種族のモノが多い。

獣人に関しては獣人王国と同盟関係にがある手前。

王国内で取引されることはほとんどない。

しかし、どこにでも抜け道は存在するらしく裏では取引が行われている。


「それぞれ相場が分からないので、全て見せてもらえますか?」


正直な感想に関して、ドドンはにんまりと微笑みで大きく頷いた。


「かしこまりました」


シルクハットを外して深々と頭を下げたドドンは、奥の部屋に入っていき準備に取り掛かる。


「予算とか聞かれないんだな」

「ドドンは優秀な商人です。あなたの風貌を見て判断したのでしょう」


緑色のローブはすでに返しているので貴族になるに当たり。

王様に与えられた金貨で服装は整えた。

それでも楽な恰好が好きなので、露店商で見繕ってもらった物を好んできている。


「そうか」


まぁ粗悪な奴隷を見せられても別にかまわない。

ヨハンと融合した俺が奴隷を見てみたいのだ。

しばらく待っているとドドンが10人の少年少女を連れてきた。


「お待たせしました。いや~選りすぐりを選ぶのに時間がかかってしまいました」


ドドンが額に汗を流しながら連れてきたのは、ゴブリンが三人とウィッチが三人、オークが三人、エルフの少女が一人だった。


「いや~この娘が言うことを聞きませんで、苦労しました」


ハンカチで額の汗を拭いながら、エルフの少女だけは首輪をつけられている。

首輪から鎖が伸びて、ドドンが鎖を引っ張っていた。


「そうか、それで相場を教えてくれるか?」


若干ドドンに嫌悪感を持ったので、そっけなく質問を投げかける。


「はい、ただいま。まずゴブリン三人は良く働きますが、力はそれほど強くありません。ですので、一人当たり銀貨30枚でセットで買っていただけるのなら銀貨70枚で構いません。

ウィッチは全て女しかいませんので、色々使い道もあります。

ですので、一人当たり金貨一枚でしょうか?

オークは力も強く良く働きます。彼らもウィッチと同じ金貨一枚と言ったところですかね」


ドドンはそこで一旦言葉を切ってエルフの鎖を引っ張る。


「エルフは存在だけでも珍しい存在です。こいつはまだ少女ですので、希少価値は跳ね上がります。そうですね。金貨20枚は下らないでしょうね」


他の者とは明らかに違う高額な値段にヤコンを見れば、妥当な金額であると頷かれる。

溜息を吐きたくなる気持ちを抑えながら、エルフの少女を見ていると、あることを思い出した。


【キシナリ】の攻略対象である最後の存在を思い出してしまった。

ランスが恋に落ちる最後の女性はエルフの姫君でハイエルフだった。

帝国と戦争の最中にランスが出会う最後のヒロインで、どのヒロインを選んでも出てくる隠しキャラで、ランスの心を他のヒロインから奪ってしまう横取りキャラのはずだ。


「どうかされましたか?」


エルフを見つめて呆然としてしまった。


「いや、少し考えていただけだ」

「そうですか、それでどうされます?」


ふぅーと息を吐く。まだランスとヨハンは繋がっていると実感させられる。

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