共和国編 

第22話 名判決

 第三師団師団長マルゼリータが腕を組み、憤慨した顔で立っておられた。


「何かしましたか?」


 もちろん全力でとぼけてやる。


「自覚がないのですか?相変わらずのバカっぷりですね。あなたの所業はすでに王国兵内に知れ渡っていますよ」


 ここまで責められることとはなんだ?冒険者として働いたことを責められるだけだと思っていたのに。


「本当に何かわからないようですね。あなた方が獣人王国と通じていたと黒騎士が報告してくれました。スパイ疑惑とはバカもここまでくれば極めたと言ってもいいかもしれませんね」


 アイツか!話をややこしくしやがって。ティアを見たときから黒騎士は気付いていたんだ。


「どういうことですか?」

「まだシラを切りますか、こちらには証拠もあります。もうあなたと話していてもラチがありませんね」


 マルゼリータは俺に興味を失ったように、ランスに視線を向ける。ランスはマルゼリータの美女っぷりに固まっていた。


「あなたの方も何も語りそうにありませんね」


 ランスは目を瞑り、腕を組んだまま固まっている。


「とりあえず、法文官に任せます。連れて行きなさい」


 俺達もフリードやリンと同じように兵士たちに連行されていく。ここで逆らっても意味などない。


「だから言ったんだ。良い予感がしないって」

「バ~カ。俺達は正しいことをしたんだ。何も間違ってない」

「はぁ~騎士になることは諦めるしかないかな」


 冒険中はカッコいい姿ばかりだったランスは、心底落ち込んだ顔で溜息ばかりついている。ランスにそんな顔をさせたことが悔しい。

 俺達が山賊を倒さなければゲームオーバー確実な獣人王国との戦争が待っていたんだ。依頼を受けたことは間違っていない。答えは必ず出るはずだ。


 牢にぶち込まれた俺はこんなシナリオが合ったかと思い出そうとするが心当たりがない。俺が関わっているせいで、何かシナリオに変化があったのだろうか?そんなことを考えながら一日幽閉され、次の日の昼にお呼びがかかった。


「出ろ。王が会われるそうだ」

「はっ?王様?」

「そうだ。異例の事態だからな」


 兵士に連れられて、俺とランスは謁見の間へとやってきた。すでに連れて来られていたフリードとリンは膝を突いて頭を垂れていた。


「第三魔法師団所属ヨハン、門兵ランス連れてまいりました」


 兵士の声に王座に腰かけるナイスミドルが頷いた。王様の前へと連れて来られ片膝を突く。

 兵士はスパイ疑惑を信じているのか、侮蔑を含んだ目で俺達を見ていた。謁見の間にはミリューゼ様や、他のお偉いさんらしき人達がズラリと並んでいる。

 その中にマルゼリータもいたが、こっちを見ようともしない。


「面を上げよ」


 王の声に俺達四人は顔を上げる。威厳に満ちた王の顔が俺達を見下ろしていた。


「お前達が何故牢屋に捕まっていたか、わかっいるな」


 王の問いにフリードとリンは本当にわからないと首を横に振る。ランスは何となくマルゲリータの発言からスパイ容疑がかかっているのを察して何も反応しなかった。

 

 俺は口の中が乾いてくるのがわかる。


「身に覚えのない疑いをかけられたからです」


 そんな俺に変わってランスが言葉を返す。美女が近くに居なければ素晴らしい行動力をもっている奴だ。

 目を瞑ってミリューゼ様やマルゼリータを見ないようにしていなければ尚カッコいいのに。


「ほぅ~主は身に覚えがないと?」

「はい。私達は休暇を利用して冒険者の仕事をしていただけです。規則に反することはしていません」


 王様は俺とランスをジッと見つめてきた。ランスは頭を下げ、俺もそれに習う。


「ふむ。主の言い分はわかった。では、主らに沙汰を言い渡す」


 王の無情な言葉に、リンやフリードは処刑台を待つ囚人のようだ。


 俺だってそうだ。まさかこんなところでバッドエンドを向かえることになるなど思ってもいない。


「第三魔法師団である、ヨハンは第三魔法師団副長の座につける。また現副長であるジェルミーには第三騎士団団長を任せる。また、門兵であったランスは第一騎士団従士隊への配属を命じる。よいな」


 兵士である俺達には階級昇進が言い渡された。


「へっ、は、はい」


 ランスは何とか声を裏返しながらも返事をする。処刑を覚悟していた俺たちに与えられた昇進の言葉に唖然としてしまう。


「謹んでお受けいたします」


 なんとか乾いた喉の奥から言葉を絞り出す。


「うむ。冒険者であるフリードとリンに関しては望むのであれば、兵士へ取り立てよう。望まぬ場合は相応の報酬を渡してやる」


 王様の沙汰が下ると、項垂れていたフリードとリンが顔を上げる。何を言われたのか理解できなかったという顔だ。

 しかし、言葉の意味が分かってくると二人は泣きだした。まだまだ12歳のガキなのだ。助かったことが嬉しいのだろう。


 しかし、王の沙汰に対して驚愕し憤慨する者がいた。


「お待ちください。王様!この者達はスパイなのですよ。どうして昇進なのですか。何より第三師団師団長は私です」


 マルゲリータが王の前であることを忘れている。もともと感情的な人物ではあるが、王に対してあまりにも不敬な物言いで言葉を発している。


「慎め、マルゲリータ」


 王が諌めるよりも早くミリューゼ様がマルゲリータの発言を止める。それは礼儀を欠いたマルゲリータの行動にではなく。王へ逆らってはいけないという意思表示とマルゼリータを庇うものだ。


「しかし!」

「ミリューゼよ。マルゲリータの言い分も理解できる」


 ミリューゼの制止を辞めさせ、王が直々にマルゲリータを見据える。


「皆もどうしてこやつらが昇進なのか納得できまいて説明してやろう。こやつらは我が国に宣戦布告をしてきた獣人王国に内通していたと報告があった。そのため尋問の上、処刑されるはずだった」


 王が言葉を切ったことで、参列していた兵士は侮蔑の顔を向けてくる。


「しかし、昨日の夜に獣人王国の王キングダムより和平の申し出がなされた」


 王の言葉にざわめきがおきる。一度発した宣言を撤回するなど、恥のようなものだ。しかし、それを獣王に決断を変えさせるほどの出来事があったということだ。


「キングダムからの書状には、我が国に所属する彼の者達に礼を尽くし、戦争の終結を申し出たいというもだった。それがこの四人だ。

 この四人は休暇を利用し盗賊を討伐しただけでなく。魔族化してしまったオーガを討伐し、獣王の姫君を救い出したのだ。それに感謝したキングダムは戦争の終結と侘びとして迷惑料を寄越し和平を伝えてきた。この意味が分かるな」


 王の言葉が終わり、マルゲリータが苦虫をかみつぶしたような顔になる。


「はい。異国の姫君を救い。起こるであろう戦争を未然に防いだ功績は大きいものであると心得ます。王国に利益をもたらしました」

「そうだ。もう少し褒美を与えたいところだが、こやつらも未熟の身だ。それを鍛える環境を与えることが褒美であると考えた。何か間違いはあるか?」

「ありません」


 マルゲリータはそれ以上何かを反論することなく。王へ行った不敬に対して謝罪を口にして下がっていく。

 これはマルゲリータだけでなく。この場で詳しい事情を知らない者すべてに対して発した言葉だった。

 噂だけで判断し、俺達に侮蔑を向けた者への戒めでもあった。


「では、四人の沙汰を終える。異論のある者は他におらぬな。下がってよいぞ」


 常識人であるミリューゼ様の父親は、素晴らしい見極めのできる王様だった。

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