騎士になりて王国を救う
イコ
騎士になるには兵士から
第1話 兵士を目指して
恋愛シミュレーションRPGゲーム《騎士になりて王国救う》
誰でも懐かしい昔にやったゲームってあるだろ? 俺にとって《キシナリ》は、そんなゲームだった。
画面はドット絵で、お世辞にも今の綺麗な映像とは比べることもできない。
恋愛シュミレーションゲームのくせに可愛い女の子の画像は無い。
正直、何が面白かったのかすら覚えていないほど古いゲームだ。
それでも子供ながらにクリアしたくて何度も繰り返しプレイしたものだ。
中世ヨーロッパ風の街並みと王国を舞台にした物語。
シナリオがこっていたこともあり、案外人気があった。
話のあらすじとしては、主人公が田舎から騎士になるために王都にやってくる。
すぐに騎士になることはできない。
最初は、兵士となって、街の人々と交流を深めていき、人々に認められ騎士になるという成り上がりをしていく。
子供の頃は騎士という響きがカッコ良かった。
お伽話に出てくる王女、魔族、獣人、少年心がくすぐられた。
今にして思えば、画像がないドットだから、言葉をただ読んでいるだけだった。
今の技術では考えられないほど、チープなゲームだった。
パッケージの絵師さんが有名だったから、勝手に妄想を膨らませたものだ。とまぁここまではよかった。
久しぶりにゲームがしたくて引っ張り出してきて、ゲームの準備をするために、コンビニでビールとつまみを買い行った。
それがいけなかった。
コンビニで買い物をしていたら、トラックが突っ込んできて運悪く巻き込まれてしんでしまった。心残りはゲームしたかったなぁ~と案外余裕なことを考えていた。
「おい、起きろよ」
「うん?」
「いい加減にしろよ」
声をかけられて目を覚ました先に居たのは、ボロボロの服をきた少年だった。
「は? 誰?」
「おい。まだ寝ぼけてんのか? それとも頭を打って、本当に俺のことを忘れたのか?」
何やら必死な少年に捲し立てられる。
年齢は15、6歳ってぐらいだろうか? こんな少年に知り合いはいないはずだ。
しかも日本人からは程遠い欧米風の堀の深い顔立ちをしたイケメン君など知るはずもない。
思考しながら体を起こすとあちこちが痛い。特に頭がズキズキと脈打つ。頭を抑えてうずくまると次第に落ち着いてきた。
痛みと共に冷静に状況を把握しようと辺りを見渡せば、緑色の肌に角が生えた子供ぐらいの何かが倒れている。
「それにしてもゴブリン如きに遅れをとるとは情けないぞ!」
ゴブリンと言う単語に一気に意識が覚醒する。
「ゴブリン? えっ? あのファンタジーに出てくるゴブリン? ちょっとまって、ここはどこ? 私は誰?」
「おいおい、ふざけている場合じゃないって言っているだろ!? 本当に大丈夫か? ここは王都エリクドリア近郊の森だろ。俺たちは村を出て、今から王都に行って騎士になるんだ。子供の頃からの約束だぞ。覚えてないのか?」
少年の言葉が理解できない。
またも頭痛が酷くなり、頭の中に様々な映像が流れてきた。
それは自分がこれまで育ってきた半生であり、そして目の前の少年と自分の境遇を理解するのに十分な情報が含まれていた。
「ランス……」
「なんだ覚えているじゃないか。俺の名前はランス。そしてお前は……」
「ヨハン」
「そうだ。お前はヨハン。俺の幼馴染で、俺たちは子供の頃から騎士になるって約束しただろ」
思い出したというか自覚した。
どうやら俺はコンビニでトラックに引かれて死んだことで転生したらしい。
それも、俺が死ぬ前にやろうとしていたゲームの中。『騎士に成りて王国を救う』通称キシナリに登場しなかったキャラに転生したのだ。
いや、登場はしていた。確か、主人公には幼馴染がいたはずだ。
その幼馴染は王国に向かう途中で、モンスターの集団に襲われて命を落としてしまう。
主人公は、幼馴染の男の子の分も必死に騎士を目指すという話があった。
どうやら俺は、その幼馴染に転生してしまったらしい。
「全部思い出したよ」
「よかった。隊商は逃がしたけど二人で戦っている途中でお前がやられて焦ったぞ」
「悪かった。もう大丈夫だ」
「そうか? まぁ、念のために街についたら治療師のとこにいこう」
「バカか! 治療師なんていけるかよ。金貨一枚なんて払えるか」
ゲーム内でも出てくる治療院はバカ高い。
駆け出しの間は、苦い薬草を拾い食いでもしなくては金がいくらあっても足りない。
「確かにそうだな……てか、本当に大丈夫そうだな」
ランスも動揺していたらしい。心配してくれるのはありがたいが、俺は自分のことを整理するので精いっぱいだ。
「とにかく戦利品のゴブリンの耳を持って行こうぜ」
「そうだな」
ゲーム内でもゴブリン討伐の依頼は存在する。そのときに討伐証明として耳を持っていくとお金と交換してもらえる。
だが、現実にゴブリンに近づいて、耳を削ぐのは吐き気を覚えた。
目の前に人の形をした死体があるのだ。
どうやら、この世界のヨハンと元の世界の俺が上手く融合出来ていない。
人型のモンスターの耳を削ぐのが躊躇われた。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
腰に差しているナイフを抜いて耳を削ぐ。
今まで当たり前にやってきたと、記憶は教えてくれている。でも、心と体はそり合わない。拒否反応をするから、かなり疲れた。
「本当に大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「大丈夫だって」
心配そうに見ていたランスも返事をすれば「そうか」といって気にしていないようだった。全てのゴブリンの耳を回収したので、腰袋に詰めて街へと歩き出す。
「馬車に乗れないと……。後一時間はかかるな」
精神的に疲れた俺は歩きたくなかった。
「仕方ないだろう。それまでに遭遇する低級モンスターでも狩りながらいこうぜ」
馬車で走れば二十分の距離も、警戒しながら歩く俺たちでは一時間はかかってしまう。
「そうだな。修行しながら行かなくちゃ俺たちなんて、すぐにやられるもんな」
ランスの言葉にチュートリアルは存在しないのだと思い知らされる。
ただ有難いことに、モンスターは出現しなかった。
ゆっくりと思考を整理時間が出来たので、ステータスが表示できないかと念じてみる。
右目にアイコンが表示された。ドット絵のゲームが進化していた。
最新ゲームと変わらないアイコンが出現して、操作しようと右手を上げるが押せなかった。
「うん?」
「どうかしたのか?」
「いや。気にしないでくれ」
どうやら空中に浮いているというわけではないようだ。
右目に表示されているのは間違いない。なら頭で操作するのか? アイコンを押すと念じてみる。アイコンが開き、今度はステータス画面が表示される。
右目いっぱいに広がる情報に奇声を上げてしまう。
「うわっ!」
「なんだよ。お前さっきからおかしいぞ」
「いいから、とにかく周りの警戒を頼む」
「はいはい。わかった、わかった」
ランスに周囲の警戒を頼みステータスに集中する。
名前 ヨハン
年齢 14歳
職業 冒険者(ランクC)戦士
レベル 10
体 力 76/120
魔 力 17/17
攻撃力 100
防御力 89
俊敏性 121
知識力 3
スキル 斧術1
スキルポイント 10
思いっきり戦士職向きなスキルだな。
魔力の最大値17って低すぎじゃね? 魔法使ってみたいんだけど知識3って、アホすぎるだろ。
確かにヨハンの記憶に勉強はない。ヨハン、お前は字も書けないのか? 計算も出来ないだと! 自分の体に怒鳴っても始まらない。
このままではこの世界の文字も数字も読むことが出来ない。
計算も出来ないと言うことは単位もわからないってことだ。
「さっきから何してるんだ? 顔が七白鳥みたいに変わってるぞ」
七白鳥とは、吉報を告げる鳥と言われている。実際は喜怒哀楽を表現する珍しい鳥なので、顔色を変える人に使うこともある。
「誰がアホ面だ」
また七白鳥が、喜怒哀楽を表現していないときはアホ面をしている。
「そっちの意味じゃねぇよ」
七白鳥を意味する時は、アホ面と顔の表現が多いことを意味する。
「紛らわしいわ。俺はバカなんだ」
アホは怒るくせに自分をバカだとは認めている。
「悪かったよ。それで難しい顔をしたり、笑顔になったり、急に怒ったりなんなんだ?」
「ああ、別に色々体に異常がないか確認してただけだ」
「それならいいが。とりあえず、最後の戦闘だ。門は見えてるど、それまでにゴブリンが三体いやがる」
ランスの言葉に小鬼を目視できた。緊張しながら背中に担ぐ、斧に手を添える。
「俺が二匹やるから、お前は残りの一匹を頼む」
主人公様は格好いいね。まぁありがたく一匹を相手にさせてもらうぜ。
「いくぞ!」
ランスの掛け声で、俺たちは駆け出した。
ランスはゴブリン三匹の真ん中に突っ込み攪乱しながら一匹を斬り倒した。
反撃に出ようとした一匹に俺が斧を振り下す。無我夢中だった。
必死でやらなければ自分たちがやられる。
ゴブリンは怯える俺を嘲笑う。
それでも戦闘が続けば必死な形相になっていた。すでにランスが一匹を倒しているので、俺も目の前のゴブリンに斧を振り下ろした。
「ハァハァハァ、なんとか終わったな」
「ハハ、おう。息切れしすぎだろ」
ランスに笑われる。初めての実戦なのだ。
想像以上に緊張していて、俺は自分が生きてると実感できた。
初めての戦闘を終えて、この世界で生きて行かなくちゃならないんだ。
そう思うとヨハンであった記憶が融合していった気がした。それまであった体の違和感がなくなり、吐き気も起きなくなった。
「俺はこの世界で生きて行くぞ!!!」
「おう! 早速街に行こうぜ」
「おうよ」
街の門に向かえば、一緒にここまできた隊商が門のところにいた。
「あれって俺たちが護衛していた隊商じゃなぇか?」
「そうみたいだな」
「どうしたんだろうな?」
「隊商は入るのに検閲があるからな。検閲待ちじゃねぇか?」
ランスは俺よりも知識力が高いらしい。
ヨハンの記憶に検閲なんて言葉は検索できなかった。
「そうか、俺たちはどうするんだ?」
「そうだな。隊商に護衛成功の判をもらって冒険者ギルドにいこうぜ」
騎士になるのが目的だが、お金も稼がなければならない。
二人とも成人と認められる12歳のときに冒険者登録を済ませた。
地道に仕事をしながら実戦で経験値を稼いだ。Cランクまでランクを上げることができた。Cランクからは隊商の護衛ができるようになるので、やっとは他の街へ護衛として旅立てるようになった。
「判をもらってくるから、並んでおいてくれ」
「わかった」
門の前には王国内に入る人たちで列ができている。
ランスはすぐに戻ってきて、順番も近くなってきていた。
「隊商の護衛で参りました。冒険者のランスです。ランクはCです」
「同じく護衛として参りました。冒険者のヨハンです。ランクはCです」
門番に冒険者ギルドの証明書を見せながら話をする。
身分書から作らなければならない定番イベントは起きないで済みそうだ。
「よし、通っていいぞ。ようこそ王都エリクドリアへ」
門番の言葉を尻目に門の中に入って行く。
王都エリクドリアは、城壁に覆われた立派な城下街があり、東西南北に門が設けられている。
中心部にはエリクドリア城が立っていて、エリクドリア王城を中心に城に近づくほど身分が高く貴族たちが住む。
門の近くから外堀にかけては商人や平民で賑わっているのだ。
「スッゲー!」
「そうだな。本当にデカい」
「ああ、広いな」
二人は呆然と街並みを眺めた。田舎者丸出しの二人だが、この日から二人の騎士を目指す日々が始まるのだ。
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