消えていく世界で
綿麻きぬ
転生した世界で
君が守ろうとしたこの世界はもう少しで終焉を迎える。君が埋まっている場所に向かって闇に沈んでいっていく。闇に呑まれた所はもうバラバラな世界だ。
僕は今、君の墓所にいる。もう、来ないと思っていた。なぜなら僕が君を殺したから。
なんでこんな所に来たのか、君は不思議に思うだろう。
端的に言うと、君との約束を消しに来た。
僕は大人になった。こんな終わりを迎えている世界で言うのもおかしいけど。
だからもう君との約束なんてものは消そう。そして思い出の記憶さへも消してしまおう。
思い出はいろんなものがあった。喜ばしいものも、怒るものも、哀しいものも、楽のしいものも、大事なものも。全て、全て消してしまおう。
もういらないからさ。
君と僕は所謂、転生者だ。地球で死んで、この魔法の世界に来た。
元の世界で僕らは付き合っていた高校生だ。只々普通の人間だった。学校からの帰り道に死ぬまでは。
二人で歩いていた時だった。在り来たりだけど、トラックに二人そろって引かれた。
そして気が付いたらこの世界のとある幼馴染として産まれた。
二人ともお互いがお互いだとすぐに分かった。何も変な出来事は起こらなかった。
強いて言えば君の魔法の使い方が普通の人よりうまかった、それだけだ。
僕らは当たり前のように過ごし、時は流れていった。
とある時、君は僕に言った。
『私、この世界を守りたいの』
僕は君の発言の意図が分からずに、キョトンとしていた。
詳しく聞くと、この世界の神が世界を壊そうとしているみたいだ。そんなこと僕は初め
て聞いた。
そんなことを言うと君は悲しそうな顔をした。
『僕くんが知らないところで私は実は神の使いと戦ってたの。だけど仲間はどんどん死
んでいく。僕くんだけは巻き込まないって決めてたけど僕くんと過ごした世界を守りた
くて』
僕は直ぐに君とこの世界を守ることを伝えた。
そして神の使いと戦った。僕は普通の人より魔力の量が多いらしく、神の使いは直ぐに減っていった。
だから僕は君をどんどん置いていって、高いところにどんどんと近づいていった。
僕は『君のため』と犠牲をいとわなくなっていった。
そしてついに神を殺した。世界を救った。皆を笑顔に変えて。
最初は周りも英雄だと讃えた。だけどそれは徐々に憎しみに代わっていった。
神が消えた世界は歪んでいき、君に、僕に、付いて来てくれていた人は一人、二人と潰れていった。
僕と君の神を殺した力ばかりが一人歩きして、世界は崩壊の一途と辿っていく。
いいや、君の力ではない。僕の力だ。
その力はナイフのように君に憎しみを向けてくる人間を端から殺していった。だけど、君はそれを止める。
ある時、君は僕を殺そうとした。今思えば、それは君の愛だったんだ。
だけどその時、愛は海の底に消えていったと思った。
僕はそれに反撃した。そのまま殺されればよかったのに。
そして君を殺した。最後の君の言葉が頭に残る。
『Iってなんだと思う?
とある人はIはただの記号だというの。アルファベットの前から9番目の文字だとね。
とある人はIはiだというの。iは一人ではいられない。二つかけることで存在できるん
だって。
とある人はIは愛だというの。人に分け与えられるものだと。
とある人はIは私だというの。自分のことを指すと。
お願いだから僕くん、IにIを渡してあげて、ね?』
そして君は僕に笑顔を向けて死んでいった。
それから世界の終わりは加速していった。僕はそれを止めるために奔走した。だけど、終わりは止まらない。
そして僕は君が埋まっている場所にいる。
どれだけ『消えないで』『消さないで』『行かないで』と言っても君との記憶は消えていく。どうやってもそれは変わらない。
だから君との約束は無しだ。全てさ。
そろそろ僕は闇に呑まれる。
サヨナラ、サヨナラ。
消えていく世界で 綿麻きぬ @wataasa_kinu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます