幸せと欲望の共存

人鳥パンダ

幸せと欲望の共存

 今日も僕は研究所にいた。幸せとは何なのかを求めて。僕にとっての幸せは。

 それを探すためにここに居るのだ。愛研究所に。


 僕が16歳の頃、突如その疑問は沸々と沸き立ってきた。

「幸せとは何なのだろう。」

 中途半端が嫌いな性格の僕は、その答えを求めるのに夢中になっていた。しかし、僕は高校を卒業しても、その答えを見つけることができなかった。僕は大学に進学したが、そこでも幸せの答えを探していた。時には誰かに聞くこともあったが、途中で誰も相手にしてくれないことに気付いた僕は、一人で考えることにした。

 特に趣味や好きな事が無い僕にとっては、大学生活は、幸せの答えを探すのに、最適な時間だった。しかし、大学生活の4年が経っても、僕は答えを見つけることができなかった。そして25歳の今、愛研究所に居る。


 僕が23歳の頃、僕はまだ幸せの答えを探していた。無論、僕に諦めるという選択肢は無い。けれど、僕は少し探し方を変えていた。

 これまでは、ただ幸せとは何なのかを探していたが、それでは見つからないかもしれない。そこで僕は、幸せになる為には何が必要なのかを探すことにした。そこで僕は、ある気持ちについて、考えることにした。

 それは、"愛"である。

 愛とは何なのかを知ることによって、幸せの答えに辿り着ける気がした。そして、愛について、ネットで調べているとき、ある施設のサイトが目に飛び込んできた。それが、「愛研究所」である。僕は、怪しさ全開のその施設に、最初はあてにしないことにしていたが、最終的に気になってしまい、一度訪れてみることにした。幸い、意外と家から近い位置にその施設はあった。これは運命かもしれない。


 電車を乗り継ぎ、歩いていると、その施設の前に辿り着いた。見るからに人が居なさそうで、ボロボロのその施設を見て、最初は帰ろうかと思ったが、ここまで来たんだ。何かあればすぐに帰ろうと思い、その施設に足を踏み入れた。


 一歩一歩、ゆっくりと施設内を歩いていく。何かがおかしい。僕は施設に入ってからまだ誰とも会っていない。もしかしたら、もう使われていないのか…。そう思った時だった。

「動くな。」

 突然後ろから、男の低い声が聞こえてきた。僕は驚きを必死に抑え、支持に従った。そして次の瞬間、頭に衝撃が走った。

「ガコン」

 僕は頭に何かの装置を被せられたようだった。

「これは何だ。」

 と僕が言うと。

「黙っていろ。」

 と、強い口調で言われた。こうなってしまっては、もう何も抵抗することができない。抵抗してしまえば、この身に何が起こるか…想像するだけで怖気づいてしまう。僕は、その場に硬直した。

「ピピピ…ケンサカンリョウ」

 頭の装置が謎の検査の終わりを告げた。

「検査が終わったようだな。ついてこい。」

 と、装置を外された僕は、謎の男に連れられてある部屋に入った。


「あの…。」

 僕は聞きたいことが山ほどあるので、その山を崩そうとした。

「聞きたいことは後だ。ちょっと待ってろ。」 ちょっとと言いながら、30分以上パソコンの画面で何かのデータを調べているその男は、僕を制した。

「よし、分かったぞ。」

 と、その男が言うと、マウスをクリックした。

「ピピピ…タイプ"A"」

 と、コンピュータは告げた。

「あぁー…タイプAかぁ…。」

 その男は残念がっている様子だった。僕は少し申し訳ない気持ちになった。

「あの…。」

「あぁ…すまなかったな!急に実験台にしてしまって!もう帰ってもいいぞ!」

 実験台?もう帰っていい?何点か疑問を抱く箇所があるが、僕はその男に訪ねた。

「あの…ここはどういう場所なんですか。」

「ここか?ここは『愛研究所』だ。」

「愛研究所…?」

「そうだ。ここでは、愛とは何か。愛が人に与える影響とは何なのかを調べているんだ。」

 その瞬間、僕に一筋の光が差し込めた。

「あの…!僕、幸せの答えを探しているんです…もしよかったら、ここでその答えを探し手もいいですか…?」

 僕は、ここにその答えがあることを確信していた。何故だかは僕にも分からないが、勘というものだった。

「んー、そうだな…まぁ、実験もさせてもらったし、君にとって大事なことなら…いいよ。ここを使って。」

 その日、僕の幸せを求める旅が大きく進んだ。


 そして今に至る。愛研究所に通い始めてから、2年が経つ。僕なりに、愛とは何か、僕にとっての幸せを見つけ始めていた。

 そして今日は、その答えの最終点を見つける日だ。やることは一つ。僕がここにきて最初に付けられた装置を改良したものを、ここ2年間で集めたデータから僕にとっての幸せを分析するということだ。

 準備は整った。今日、やっと僕が求めてきた答えが分かる。幸せとは何なのかが。

 装置を頭に装着する。そして、スイッチを押す。

 すると、

「ピーピーピー…」

 どうしたんだ。何が起きている。すると次の瞬間。

「ピピピ…ガガガ…プツリ、、、」

 まさか、、、壊れたのか…?嘘だろ。おい、動け。おい!これまでの2年間は何だったんだ!幸せの答えを教えてくれよ!おい!動けよ!

 興奮して怒り狂っていた俺は、いつの間にか気を失っていた。


 2020年夏。僕は27歳になった。今は、バイトをしながら、勉強をしている。幸せの答えは、まだ見つかっていない。だからこそ、僕には就かなければいけない仕事があった。僕は昔から、パイロットになるのが夢だった。パイロットになれば、幸せになれるかといったら、そうではないかもしれない。けれど、すこしでも幸せのこたえに近づけたら、それで十分だった。


 2020年夏…

「実験は順調に進んでおります。」

「そうか…もうすぐで辿り着けるな。」

「はい…ですが、本当にこんなことをしてもいいんですか?もしバレたりしたら…」

「うるさい!君はそんなことを考えなくてもいいんだよ。早く見つけなくちゃね。幸せの答えを…」

 東京都のある研究所。その場所は地下にあり、誰も辿り着くのことのできないであろう研究所であった。その研究所では、今日もまた、幸せの答えを探していた。

 高度な技術を駆使して開発した装置。それは、日との人生を自由に操る架空現実の装置だった。

 27歳の男が、その実験の餌食だった。


 あなたが生きている世界。それは、本当に現実ですか…?もしかしたら、それは誰かに操られているものかもしれません。

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