俺にベタ惚れな後輩があざと可愛すぎる件について

柊木ウィング

SHR 『始まりを告げる入学式について』

プロローグ 『口を綻ばせた少女の想い』

しゅう、告白しないの? 今日終わったら春休み入っちゃうよ」

「だからなんだよ。来年あるだろ」

「それ去年も聞いた」


 ガタンゴトンと揺れる体をつり革で支えながら、俺達はいがみ合う。

 正直、俺だって自分に自信があるか相手がすぐに堕ちるちょろいんなら告っている。


 が、相手の水越柚葉みずこしゆずは先輩は文武両道で才色兼備、二年で生徒会長を務める人気実力共に高い美人。

 対して俺は、根暗で目付き鋭くて陰キャで……それを悪いとは言わないけど言われるような存在。


「自信つくと思うか?」

「当たって砕けろって言葉あるよ」

「砕けたら俺の精神もついでに持ってかれるよ」


 さりげなくこいつ、俺が失敗する前提で話しやがったな? 間違ってねぇから否定もできないけど!


 ちなみに俺の隣でいじってくるのは幼なじみの小松夏菜こまつなつな。名前の最初を取ってコマツナと呼んでいる。

 コマツナは愛らしい印象を与え、美人というよりは美少女に近い。故に水越先輩とは違ったジャンルの人気を集めている。これと幼なじみ、俺の唯一の取り柄。てへ。


 他力本願な自慢を見せつけたところで、根本的な解決は見いだせない。

 そんな心中の俺に、コマツナは悪びれた様子なく。


「もう付き合ってたりして」

「性格悪ぃな、お前。人の恋路くらいちゃんと応援しろよ」

「ストーカーを応援するほど、私はお人好しじゃないよ」


 ストーカー、その言葉に俺はギクリと肩を震わす。今まで語ってはきたが、俺と水越先輩には接点が無い。ただただ、小・中が同じで、追っかけで高校まで一緒にした。あれ、ストーカーですね。

 と、まあそんな感じで、接点はゼロに等しいのだ。


「始まりが既に終わりの恋愛。……なんか、かっこよくね?」

「かっこよくねぇ」

「俺の言い方っぽく否定すんなよ……」


 吐き捨てるようにコマツナが言ってくるが、俺のラブコメ知識は乏しくない。

 近年流行りのラブコメは、学生か働く人。俺の場合働いていないので、学生に当たる。


 学生ラブコメの場合、大概の主人公が――


「ラブコメが高校二年生から始まるって知ってた?」

「知らない。私、よく告白されるし、始まってるって言えば始まってると思うけど」

「やめようか、そういうの。俺の希望を打ち砕くには十分すぎるよ?」


 俺達は電車を降りて、帰路を歩む。


「コマツナはなんで告られても振るんだ? 高校生なら付き合ってキャッキャしてぇだろ」

「え、したくない。付き合ったら面倒くさそうじゃん」


 そういう考えもあるんだな、と俺は頷くと同時、水越先輩が脳裏をよぎった。

 もし、水越先輩が付き合いたいって思わなかったら? 恋愛に興味がなかったら? 確か、浮ついた情報は何一つ聞いたこと無い気が……。


「はっはっはっ、なわけ」

「ないと思い込みたい? 付き合うことが出来る人が何年も彼氏いないんだよ?」

「お前ほんとは付き合っても別れてるだけじゃねぇの? 性格クソだぞ」


 俺がツッコミを入れると、バシッと叩かれた。理不尽なんだよな、マジで。


 いがみ合う俺達は大して仲がいいワケではない。幼なじみだから仲がいい、なんてのはラブコメの中だけで、実際には学校でも会話をしない。

 今はクラスメイトが一人もいないから話をしているが、一人でもいるとコマツナは猫を被って愛想良くする。付き合いはしないがモテてはいたい、そう思っているのだろう。ヒガミジャナイヨ。


 まあ実際、立場を入れ替えた時に学内で俺と仲良くするか、と問われたら即答でしないと答える。

 メリットが無いのにデメリットだけ与えられて、素直に受け取る奴なんていないだろ。……今日、自虐ネタ凄いね、大盤振る舞い。


「ちょっと休憩しない? 疲れた」

「へーへー」


 近くにあったベンチに腰をかけるコマツナに、俺は自販機でコンポタを購入して手渡す。


「あ、ありがと……」

「……なんだよ」

「ん? いやぁ、気が利くなって。幾らだった?」

「要らねぇよ。遊びに行かねぇ俺は、金が有り余ってんだよ」

「…………ごめんね?」


 いや、謝られると傷つくんだけど。自傷は癒されて初めて終わりを迎えるんだよ?

 テニスの時のヒキタニ君の自虐ネタスルーは可哀想だけど、謝られるのも同等にキツい。


 ついでに買っていたコーヒーを啜って、小さく息を吐く。

 そんな俺に気を使ってか気まぐれか、コマツナは空を眺めながらポツリと尋ねる。


「知ってる? 来年の一年生に、美少女が入学してくるって噂」

「興味ねぇな。俺は水越先輩一筋だから」

「うわぁ、キモイ。――ほんと、よく何年も一筋でいられるなって思う」

「なんか言ったか?」


 後半聞こえず問う俺に首を振って応答するコマツナは、ぐびっと飲み干して缶を投げ入れた。


「すごくない!? 入ったよ!」

「おー、すげぇな」


 缶一個分開いたゴミ箱に投げ入れて喜ぶコマツナを素直に褒める。

 ご機嫌になったコマツナはにひっと笑顔を作って、


「じゃあね、柊。二年も同じクラスだといいね」

「だな」


 一緒のクラスだからって話すことは無い。

 それでも同じ空間に昔からの仲の友達がいるのは、新環境に挑む上で心持ちに天と地の差が生まれる。


 俺に手を振って家に走っていくコマツナは、学内が美少女と評した理由がわかるほど、可愛く映った。岡目八目とはよく言ったもんだ。


 俺も促されるように重い腰を上げて缶を投げ捨てる。

 カランとゴミ箱に弾かれて地面に落ちる缶を拾って。


「え、こんなとこでも差出んの?」


 ポイと捨てるがどこか納得いかない結果に心残りがありながら、新学期を迎えた。


 *


 俺、作本さくもと柊は貼りだされたクラス表をマジマジと眺めて、C組であることを確認。ついでにコマツナも確認すると、C組に名前があった。俺のラブコメ、コマツナと始まる感じ?


 なんて言えばキレられそうなことを考えていると、陽キャな連中がやってきた。

 俺は忍びの如く、すらりと学内に入った。バスケだったら最強、ミスディレクション!


 生徒がまちまちに入っていく校内。

 その出入口に一人の少女が深呼吸をしている。

 オレンジの髪が目立つのか、それとも顔立ちの良さで目立つのか、周りの生徒はちらちらと何度も見ている。


 深呼吸を終えた少女は、顔を上げると同時に桜色の瞳で学校を見つめながら口を綻ばせて。


「ここに先輩がいるんですね……! わたしが彼女になりますから、覚悟して待っていてくださいね、作本先輩♡」

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