しましま

1.

東京。二〇二〇年。六月を迎えた東京は、徐々に夏の暑さを手に入れはじめて、アスファルトがジリっと言い出している。外に出るには日焼け止めが手放せなくなって、外に出る回数が減り始める。


「暑い。」


声に出すと涼しくなる気がして、声に出すけれど、全然そんなことなくて、暑い。夏はもうそこまで来てるんだなあ、と思う。


「理香子、暑いなら帰る?」


道端にしゃがみ込んで花の写真を撮っていたはずだった杏は、困ったような笑顔でこちらを見ていた。


「うーん、いや、いきたいから行こうかなと思う。」


私の方にカメラがむけられてシャッターが切られる。いつも、何気ない顔ばかり撮るから、ちゃんと化粧しておめかしして出かけないと行けないじゃん、って言う愚痴は言わないようにしている。


「写真撮り甲斐ないから笑ってくれない?」


私が嫌そうな顔をしていると、杏は意地悪な笑顔で笑いかけてくる。


「無理。暑いから。」

「そっか。」


そう言うと、立ち上がって、歩きながら空の写真を撮り始めた。


私たちの休日のいつもこんな感じ。二人とも休みが不定期だから、休みが合う時は一緒に買い物に出かけて、こうして行きは歩きながら写真を撮って、帰りは両手に荷物で重いとかなんとか、文句言いながらゆっくり歩く。

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