第48話 魔人

 地下の培養場を抜けたクリスたちは、地上に上がる階段を見つける。

 階段を上った先は、倉庫のような薄暗い部屋であった。

 部屋を出てみると、そこはどうやら城の内部のようであり、しばし移動したところでエントランスホールに出た。

 内装はあまり良くなく、実用性もほとんど考慮されていないようなだだっ広いだけの構造をしている。

 ちょうどその時、外につながる扉が破壊され、エレナたち率いる歩兵小隊と冒険者たちが飛び込んできた。


「エレナ、外の状況はどう?」

「だいぶ魔物の数は減った。今は兵隊さんが見回りをしてる」

「よし。エレナ隊はここを守備、ペトラ隊とティナ隊は俺と一緒に魔王の居場所を捜索だ」


 クリスはホーネット中隊に指示を飛ばす。

 だが、それを阻止するように声が響く。


「そこまでよ、人間」


 声のする方向を見ると、そこには魔人たちの姿があった。

 魔人たちは階段の上にいて、ゆっくりと階段を降りてくる。


「この間はお世話になったわね。私たち人間のこと甘く見ていたわ。けど今度はそうはいかないわ」


 そういって魔人は手をかざす。

 その手から、攻撃魔法が発動される。

 エントランスホールにいた冒険者たちに攻撃が及ぶ。

 その攻撃はかなり強く、一発で行動不能にされる冒険者もいるくらいだ。

 そんな中、冒険者の先頭を走っていたステファンが魔人に向かって突っ込む。


「モード反転!ザ・ビースト・カリバー!」


 深紅色に変色するアダマン・ソードを振りかざし、ステファンは魔人に斬りかかる。

 もちろん、魔人は障壁を展開して防御した。

 障壁はアダマン・ソードを受け止めるが、ヒビが入ってしまう。

 それを見た魔人は一瞬驚き、距離を取る。

 これを逃すまいと、ステファンは距離を詰めた。


「トラスト・カリバー!」


 ステファンはアダマン・ソードをまっすぐに立てて、突きをする。

 魔人は障壁で防ごうとするも、一点に集中した状態では瞬く間にヒビが全体に入り、障壁は砕け散った。

 そのままステファンは魔人の首を狙う。

 だが、その前に魔人は目に見えないほどの速さで回避する。

 ステファンの一振りは空振りになってしまう。

 魔人は元いた場所から、後方の天井付近に移動していた。


「ふぅ、危ないところだったわ。あんなの食らったらタダじゃすまないわ」


 魔人はそう言うと、冒険者たちを見下す。


「さぁ、最高の戦いをしましょう」


 一斉に魔人たちが襲い掛かってくる。

 冒険者たちの間に割って入るように移動した魔人は、そばにいた冒険者を吹き飛ばす。


「相手は少人数だ!人数で押せば勝てる!」


 そういって冒険者たちは魔人に襲い掛かる。

 魔人にしてみれば一対多数の圧倒的劣勢であるが、それでも魔人は冒険者相手に優位に戦いを進めていく。

 クリスは動いていなかった魔人に対してガトリング砲を向ける。


「あら?あなた私の相手してくれるの?」


 そういって魔人はゆっくりと近づいてくる。


「全部隊、目標魔人!」


 クリスはSUS-8小隊と歩兵小隊に対して、銃を構えるように指示する。

 たった一人の魔人に、百丁を超えるM4カービンと30mm重機関砲、そしてクリスの持っているガトリング砲が向けられた。


「撃て!」


 一斉に射撃が行われる。

 濃密な弾幕が魔人に向けられた。

 これだけの弾幕を食らえば、肉体は残らず散るだろう。

 しかし魔人は障壁を展開しており、その攻撃は一切通っていない。

 だが障壁にも限界があるようで、少しずつヒビが入っていく。

 魔人は意を決したようで、展開していた障壁を消す。

 その瞬間、魔人は姿を消した。


「瞬間移動だ!注意しろ!」


 クリスは周辺を警戒する。

 しかし、魔人の姿は見当たらない。

 必死に探すホーネット中隊をよそに、魔人はクリスの後方にいた歩兵小隊の何人かを吹き飛ばす。

 クリスはそちらに向くが、すでにそこに魔人の姿はない。

 どこから来るか分からない恐怖が周辺を取り囲む。

 その間にもSUS-8の一機が損傷を受けたり、歩兵がやられたりしていた。

 そして、魔の手はエレナにも降りかかる。

 エレナは魔人の姿を見るどころか、目をつむって微動だにしない。

 魔人の攻撃がエレナの目前まで迫ってきた。

 その瞬間である。

 魔人の目の前に障壁が展開された。


「え!?」


 魔人の攻撃は、すんでのところで障壁によって阻まれる。

 エレナはゆっくりと魔人のほうを向く。

 その目はまるですべてを見通しているかのようだった。


「くっ!」


 魔人はその目を見ると、何かを感じ取ったのかその場を離れる。

 エレナは冷静にまた目をつむった。


「エレナ、今のは?」


 クリスがエレナに尋ねる。


「『お告げ』で見ているだけ。次はクリスの上方に来る」


 エレナのスキルである「お告げ」は、成長によって未来予知のようなこともできるようになった。

 そんな「お告げ」を使って、エレナは魔人の次の出現場所を予言する。

 クリスは上のほうを向くと、ちょうどそこに魔人が出現した。

 クリスはとっさに手を出し、魔人のことを捕獲する。

 魔人は捕まったことに驚愕した。


「な、なんで私の動きが見えているの?」


 魔人は狼狽えている。

 そこをペトラがスキル「剣術」を使って瞬間的に接近、魔人が障壁を展開する間もなく首をはねた。

 クリスは、魔人が息絶えていることを確認すると、体をおろす。


「残りの魔人もすべて討伐します!」


 そういってペトラは、冒険者が取り囲んでいる魔人に対して突撃を敢行する。

 冒険者の相手をしている魔人は、クリスたちが相手したように瞬時に移動するようなことはできない状況にあった。

 その隙をついたペトラによって、魔人は次々に倒されていく。

 その状況を見ていた他の魔人は、このまま戦闘を続けるのは不利であると考え、撤退しようと瞬間移動を行おうとする。

 しかし移動先はすでにエレナによって障壁が展開されており、避けることはできない。

 一瞬動きが鈍った魔人に、ティナが渾身の一撃を食らわせる。


「でりゃあ!」


 吹っ飛ばされた魔人は壁まで飛び、そのまま気絶した。

 そこを近くにいた冒険者たちが囲んで最後のとどめを刺す。

 こうして冒険者たちを襲った魔人を倒すことに成功したのである。


「さぁ、残りは魔王だけだ」


 クリスたちは城の中を駆け巡る。

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