第47話 攻城

 それより数時間前。

 クリスと参謀は魔王城の攻略のために、どのように動くかを話し合っていた。


「斥候の情報によると、敵の本拠地の中心には城がそびえたっているようです。おそらくそこに魔王がいると考えられます」

「しかし、城は強固な守りをしているのもまた事実……」

「えぇ。なのでこの城壁をいかに攻略するかが鍵になります」


 野外に設置された簡単なテーブルの上に、地図を広げて作戦を練る一行。

 彼我の戦力を表す駒が平然と並べられている。


「我々の戦力はおよそ2万、対して敵の戦力は一切不明です」

「その前に、魔王城の外壁を何とかしない限りはまともに攻略することも困難でしょう」

「どうするの、クリス」


 困難な状況に、エレナが聞いてくる。

 クリスはスキルの中から、何か攻略を楽にしてくれるものがないか探す。

 すると、スキルの方からいくつか道具を提示してくる。

 その中から、クリスはあるものを選択した。

 多連装ロケットランチャーTOS-3だ。

 口径300mmで50連装にもなるロケット弾を撃ち出すことができる車両である。

 また、分厚いコンクリート壁を破壊することも可能だ。

 クリスはこれを複数台召喚する。

 これの射撃をホーネット中隊の兵站工兵に任せ、また射撃のタイミングを指示するため無線を用意した。

 そして護衛に機関銃兵と何人かの冒険者をあてる。

 こうしてクリスは、連合国軍を率いて魔王城へと向かった。

 数kmほど移動すれば、魔王城の全体が見えてくる。

 どんどん近づいていくと、魔王城からは魔物の群れがワラワラと出てきた。

 どうやら敵は臨戦態勢であるようだ。

 敵は警戒しているのか、魔王城の周辺で動こうとしない。

 クリスはこれをチャンスだと捉え、無線を取り出す。


「こちらクリス、射撃開始」


 クリスが射撃の指示をする。

 しばらくして、上空をロケット弾が通過していく。

 数百発になるロケット弾が魔王城に向けて飛翔した。

 ロケット弾は、その大きさに見合った大量の炸薬を封入している。

 そのため着弾した瞬間、地面をえぐる程の爆発が発生する。

 爆発によって発生した爆風によって、周辺にいた魔物は内臓破裂の状態に陥った。

 またロケット弾は魔王城自体にも命中しており、多大な被害を及ぼす。

 外壁に穴が開いたり、穴が開かなくとも内壁の破片が飛び散り建物内部を蹂躙した。

 これによって外にいた魔物のほとんどは倒される。

 これを見たクリスは叫ぶ。


「総員、突撃!」

「おぉ!」


 雄たけびが上がる。

 そして冒険者が真っ先に突っ込んでいき、その後ろを兵士がついていく。

 ホーネット中隊も遅れを取らないように前進する。

 ロケット弾の爆撃を生き残っていた魔物が防衛のために対抗してきた。

 しかし、手負いの魔物は冒険者によって簡単に倒される。

 そのまま前進し、城門にたどり着く。

 もちろん、城門は分厚い木の扉によって固く閉ざされている。

 冒険者は多種多様な攻撃魔法を使って城門を打ち破ろうとするが、対魔法障壁が張られているようで、まったくビクともしない。

 これを見たクリスはスキルの力によって、SUS-8専用ガトリング砲を召喚した。

 銃身が回転を始め、一気に射撃する。

 城門は対魔法障壁は張っていたものの、物理攻撃は想定していなかったようだ。

 大口径の弾丸によって、扉は大量の穴を開けて脆くなっていく。

 クリスはそこを見逃さず、すかさず吶喊する。

 そしてSUS-8で扉に体当たりした。

 城門は派手に破片を飛ばし、砕け散る。

 それを見た冒険者は、我先にと魔王城の中になだれ込んでいく。

 その時、その場にいた全員が頭を締め付けられるような感覚を覚えると同時に、頭の中に直接声が響く。


『人間よ、よくぞここまで来た。褒めて遣わそう。だが、これ以上我の城を荒らすことは万死に値する。故に人間諸君にはここで死んでもらおう』


 魔王の強力なテレパシーだ。

 頭の締め付けがなくなると同時に、様々なところから魔物が飛び出てくる。

 冒険者はこれに対応するため、各々が交戦を始めた。

 ホーネット中隊は魔物の群れに構わず、先を急ぐ。

 ホーネット中隊の目的は魔王であり、魔物ではないからだ。

 すると、目の前から魔物の群れが飛び出してくる。

 クリスはとっさのことで、思わずガトリング砲で攻撃した。

 魔物の群れは一瞬のうちに肉片へと生まれ変わる。

 クリスは魔物が飛び出てきたところに通路があることに気が付いた。


「この先に何かあるのか?」


 そう思ったクリスは、SUS-8小隊を連れて通路を進む。

 通路はSUS-8が身を屈む程度の大きさであった。

 通路を進んでいくと、ひと際大きな空間に出る。

 そこは魔物の培養場であった。


「なんだこれ、気色悪い」


 クリスは培養水槽の一つを眺める。

 人間の脳に似た塊とそこから伸びる神経に、魔物の肉体が吸着しているような状態だ。

 肉体が吸着していくことで、魔物の形を成しているようだった。

 奥のほうでは、出来上がった魔物が自動的に培養水槽から排出され、ものの数分で活発に動き出している。


「ここで魔物を造り出していたのか」

「中隊長。ここを押さえれば魔物はこれ以上外に出ないのでは?」

「確かにそうかも」


 クリスは手にしていたガトリング砲を構える。

 SUS-8小隊も30mm重機関砲を構えた。

 そしてクリスは引き金を引く。

 ガトリング砲から、相当量の弾丸が投射される。

 弾丸は培養水槽はもちろん、中にいた魔物も無差別に破壊していく。

 SUS-8小隊の射撃も合わせて、培養水槽をひとつ残らず破壊した。


「これで魔物の数は増えないだろう」


 クリスはSUS-8小隊を連れて、地上を目指し培養場を突っ切った。

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