第2話 パーティー加入

 あれから1週間、クリスは肩身の狭い思いをしていた。


「はぁ、どこのパーティーにも入れてくれないなぁ」


 そう、どこのパーティーにも入れずにいたのだ。

 その原因は、言うまでもなく自身のスキルにあった。

 彼の「召喚」というスキル。それは、任意の道具を召喚するという、使い勝手の悪いスキルなのであった。

 そのため、スキルの説明をすると、どこのパーティーも入れてくれないのだ。


「困ったなぁ、このままじゃソロで依頼をこなさなきゃいけないや……」


 クリスは途方にくれた。それにここ数日は酒場に籠りっぱなしで、仕事にもありつけていない。

 仕方がない。そう思って席を立とうとした矢先であった。


「君がクリス・ホーネットかな?」


 唐突に後ろから声をかけられた。

 クリスが振り返ってみると、そこにはなんとステファン・ドラゴニクの姿があるではないか。

 クリスが動揺を隠せないでいると、ステファンのほうから声をかけてくる。


「聞いたよ。君、道具が出せるんだってね」

「え、まぁ……」

「それなら頼まれてほしいことがある」

「な、なんでしょう?」

「我々のパーティーの仲間になってほしい」

「え、えぇー!」


 クリスは驚きのあまり、椅子から転げ落ちそうになった。だが、それは夢でも幻でもない、現実の話である。


「どうだい?この話を受けてくれるかい?」

「も、もちろんです!願ってもいないことですから!」

「よし、それじゃあ早速依頼を受けに行こうか」

「はい!」

「それに、僕の事はステファンと呼んでほしいな。もう僕たちは家族みたいなものだし、ね?」

「……うん!」


 クリスは勢いよくうなずくと、彼のあとを追いかけていった。

 クリスにとって最初の依頼を受ける。近隣の村に存在する魔物の群れを討伐せよとの依頼だ。

 その移動の最中に、他のパーティーメンバーとの自己紹介を交わす。


「君も知っているだろうけど、僕がステファン・ドラゴニク。前衛を担当しているよ」

「俺がテニー・ロイ。同じく前衛だ」

「私はセシリア・ホワイト。後衛の魔法使いよ」

「……エレナ・カートン、後衛」

「俺はクリス・ホーネット。みんな、よろしくね!」


 こうしてクリスの冒険者としての日々が始まったのであった。

 早速近隣の村に到着した。


「そういえば、クリスはなんの装備もしていないのかい?」

「あぁ、装備ならある程度スキルで代用できるよ」


 そういってクリスは自分のスキル、「召喚」を使用する。

 すると、そこには剣や防具などの装備が一式召喚されているのだった。


「おぉ、すごいじゃないか!これがあればどんなときでも道具をそろえることができるよ」


 ステファンはクリスのことを褒める。


「そうかな……。へへっ」


 最近気が滅入っていたクリスにとって、それはまさしく天からの恵みのようであった。

 クリスは早速召喚した装備を身に着け、彼らのあとを追う。

 今回の依頼は近くに出来たばかりの魔物の巣を駆除することである。

 探索には、エレナのスキル「お告げ」が利用される。この「お告げ」は結構便利なスキルで、こういった探索から簡単な未来予知までできるのだ。そのため、彼女はパーティーメンバーの中でも重要な役割を果たしているといえるだろう。

 そんな彼女の功績あってか、簡単に魔物の巣を見つけることができた。

 その巣の主は狼が魔物化したような姿であり、群れが大きく成長すると厄介なことになる。だが、今のうちに潰しておけばそうはならずに済む。


「……よし、みんな配置に着いたな?」

「OKだ」

「うん……!」

「じゃあセシリア、頼むぞ」

「任せてっ」


 彼らは巣の近くにある茂みに隠れて、討伐のタイミングを見計らっていた。

 そしてセシリアのタイミングで攻撃を開始する。

 セシリアの爆破魔法によって、巣の入口をふさぐ。これによってまずは群れ全体の6割を片付けたことになる。

 その後、外をうろついていた魔物の群れを、前衛担当であるステファン、テニー、そしてクリスが攻撃を仕掛ける。

 ステファンは冒険者学校を主席で卒業しただけあって、その動きに無駄はない。

 テニーも、自慢の大斧を使って的確に魔物にとどめを刺していく。

 クリスも動きは不格好であるが、キチンと魔物の討伐に励んでいる。

 こうして格闘すること約1時間、全ての魔物を倒したことを確認して依頼は達成である。


「いやー、今回もみんな無事でよかったよー」

「テリーも動きが良くなったんじゃないか?」

「ははっ、ステファンには劣るさ」

「……」


 各々が互いを褒め讃える。

 その姿に、クリスはなぜか涙が出てきた。


「おいおいどうしたクリス?そんなに戦うのが嫌だったか?」

「……違う、こうやって誰かと一緒になって戦うのがすごく気持ちよかったから……」


 そう、クリスにとってここ1週間は、誰も自分の事を見てくれなかった期間でもある。

 そういった意味では、クリスが涙するのも致し方ないのかもしれない。


「……大丈夫だ、クリスはちゃんとやっているよ」


 そうステファンが声をかける。


「そんな辛気臭いことやってねぇで、打ち上げでもしようぜ!今日はクリスのパーティー加入祝いだ!」

「いいねぇ、そうこなくっちゃ!」

「……賛成」


 こうして一行は王都へと戻り、クリスのパーティー加入を祝う宴を上げたのだった。

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