第12話 変わらないこと

 そして後日。

 体育祭は負けた。

 予想通り。


 俺が出た競技は点数への影響が少なく責任は軽いはずだ、多分。

 クラスリレーは平均並みの足の速さを活かして特に誰にも何も言われずに走り終えた。

 あ、陽悟ひごがなんか言ってたな。

 良い走りだったよ、とかなんとか。

 喜んで良いのかこれ?


 結果はE組が学年部門も総合部門も優勝。

 体育祭はそれで終わった。

 悔しいとか、今度こそ、という気持ちは湧かなかった。

 同じクラスのみんなには申し訳ない。

 いや本当に申し訳ないと思っている、ほんとだよ?

 でもどうせみんなその後の打ち上げの方が楽しみなんだろう?

 俺はもちろん行かなかった。

 気付いたらいなかった、仕方ない。

 今日はこのまま行こうぜ!

 と、思われているに違いない。

 いやもしかしたらいたことにも気づかなかったかも。

 ……考えてたら泣けてきた。

 この話はもう止めよう誰も悪くない。


 体育祭が終わった後は第二回定期テスト。

 今朝あった朝礼では切り替えが大切だ、と教頭先生は言っていた。

 ……切り替え、ね。

 今回から久米くめも部室で勉強するらしい。

 櫛芭くしはも必死に勉強している。

 久米も必死だな。

 櫛芭と仲良くなろうと。

 隣に座り、良い感じの距離を維持しながらチラチラと視線を向けて構ってアピールをしている。

 おい、勉強しろよ。

 櫛芭は気に留めていない様子だ。

 かなりの集中力だな。

 そんな感じで今、絶賛テスト勉強中だ。


 ……俺もやんなきゃな。

 一番窓側の席、そこで俺は教材を開いた。

 そんなこんなで日付は移り変わり、テスト明けの放課後。

 久米がどこにでもいる高校生らしく

「今回もダメだったぁ!」

 と大声で泣き叫ぶ。


 こういうのってただの報告なんだよね。

 中学時代からこの手の発言には苦労した。

 今も対処法は見つかっていない。

 助言も反論も許さない隙のない論法。

 憧れちゃうね!

 他にも、今日寝てないわぁ!とか、テストノー勉だわぁ!とかがある。

 あれってどうしたら良いの?


未白みしろちゃんはどうだった?うぇ!?」

 驚きの声を出す。

 ………そんなにすごいのか…気になるな……。

「まだまだよ。こんなのじゃ。全然」

 櫛芭は満足ではないみたい。

 それどころかすごく悔しそうに見える。

 ………一回目のテストの時から、櫛芭はすごく焦っているように見える。

 結果を早く出したいと、勉強している姿にもそれは映っていた。


 俺がそのことについて考えていると久米が後ろに回っていた。

雨芽うめくんのも見せて!」

 あ、とられた。

 まぁ別に見られても良いけどね。

「高い、地味に………。私より………」

 えっ?最後の言葉どういう意味?

 もしかして下に見られてた?

 ふっ、だがざまぁみろ。

「俺は幼少期に親に遊びで記憶力トレーニングをやらされたんだよ」

「えぇ!良いなぁ!なんで私の親はしてくれなかったんだろう?」

 その記憶力トレーニングのせいで結構物覚えも良くなったし、ものごとを忘れにくくなった。

 まぁ良い面も悪い面もあるんだけど。

「文系科目はもちろん、理系の問題もそれなりに点数を取れるようになったんだよ」

 久米はさながらチーターでも見るような目つきで俺に視線を向ける。

「小さい時に苦労もせず遊び感覚で記憶力はついたんだ。親に感謝だな」

 みんなもやろう!フラッシュカード!

「………なんかずるくない?私だって真ん中より少し高いくらいなのに」

 久米は櫛芭に目を向けた。

 ……やっぱり悪かったとか言って普通の点数取ってるんじゃねぇか久米。

「え?えぇ、そうね。そう思うわ」

 ………こいつ多分話聞いてなかったな。


「雨芽くんの記憶力がすごいって話!」

 久米が再び話を始める。

 それ色々と端折りすぎじゃない?

 生まれつきみたいになるじゃんそれ。

 いやまぁそういった可能性がゼロとは言い切れないけど。

「そう。記憶力が。それはすごいわね」

 ……これ、話聞いてないんじゃなくて興味がないのかな?

 それからはいつも通り久米が中心となって話している。

 櫛芭は俺より久米に心を開いているようだ。

 触れてなかったけどいつの間にかお互いのこと名前で呼んでるし。


 誤魔化すのならもっと上手く誤魔化してくれよ傷ついちゃうだろ………。

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