第1話 はじまりは
チャイムが鳴った。
今日もこの世の真理について考えていたら、あっという間に一日の授業は終わってしまったようだ。
「
六時間の授業が終わり、現代文の先生の
何か悪いことしたかな。
さっき菊瀬先生に呼ばれた通り名字は雨芽、ついでに名前は
高校二年生、ぼっちである。
小学校の時は、みんな純粋だしあっちも友達が欲しいと思っているから交友を広げるのは簡単だった。
中学の頃は小学校からの面白い友達の後をついて行ってその場のノリで交友関係を築けたが、高校には中学からの友達がいないので、ぼっちになった。
小中高一貫してぼっちではないのが、少し珍しいんじゃないかと思っている。
つまり、なろう系ぼっちだ。
ある日突然ぼっちの力に目覚めた俺が高校生活で無双する!
………忘れよう。
職員室に歩いて行き、菊瀬先生の名前を探し座っている先生の前に立った。
授業で使った資料をとんとんと机で音を立てて整えて、菊瀬先生は話し始める。
「話の前に、お姉さんは元気か?去年の三月だったか」
「自分で聞けばいいじゃないですか。LINEも持っているんですし」
「いやぁ、文字だけでは聞けないこともあるだろう。それに直接聞くのもちょっとな」
姉はこの高校の卒業生だ、六歳上。
何故、卒業生と先生がLINEで繋がっているのかは知らない。
「元気ですよ。あれからちゃんと仕事にも行っています」
「そうかそうか。良かった。心配だったんだ。顔が見えないと、文字はいくらでもごまかせてしまうからな」
菊瀬先生は何度もうんうんと頷く。
この先生の名前は菊瀬
俺が俺の姉、雨芽
まぁ嫌ではないんだけど。
「話は終わりですか?」
「いや待て。話の前に、と言っただろう」
何故かその話の前にわざとらしく俺の姉のことを心配した菊瀬先生は一つの鍵を取り出した。
「ここに、使われていない一つの多目的教室の鍵がある。君にはそこで人を助ける活動をしてもらう」
「……は?」
なんだって?
「あの…先生の、言っている意味がわからないんですが……」
「雨芽笠真くん………君は優しいから早いうちに人助けについて学んでおいた方が良い」
「俺は、優しくなんてないですよ」
「大丈夫、私が保証する。君は優しい」
少し間を空ける。
菊瀬先生の目が次第に左右に揺れ始めて、俺と目を合わせようとしなくなった。
馬鹿でもわかる。
何か隠している。
「先生、本当の理由は」
今度は菊瀬先生が間を空けた。
「時間が…ないんだ」
菊瀬先生はとても辛そうな声で言った。
それからその声の調子を続けて、いや、さらに深刻な声で続きをかろうじて聞こえる声で話す。
「…通常の業務が忙しすぎて、生徒たちの悩みを捌ける時間がない……」
……思ったよりブラックな悩みだった。
踏み込んでいいか悩むライン。
「でも、それ俺に任せて良いんですか?」
俺は思った事をそのまま口にした。
生徒たちは先生を頼っている。
それは間違いないはずだ。
だからこうして、忙しくても先生に依頼は溜まっていく。
自分たちで解決できない悩みを先生に言っているのだ。
「ふっ。そこは安心してくれ。いろんな依頼を目に通したが、生徒たちはずばり、第三者を欲している」
………?
「つまり、自分たちとは関係のない人、関係があっても、そこに距離がある人を欲しているのだ!」
つまりつまり、そこからさらに意味を推測すると…。
「………そこで、誰からも孤立している俺に声がかかったんですね」
「そういうことだ。だから先生じゃなくても良い」
はぁ……。
そんな理由で俺かよ…。
「まぁどのみち、君には人助けを学ばせたかったし、良い機会だと思ったんだ」
「それは嘘じゃなかったんですか?」
「半々ってとこだな」
菊瀬先生から鍵を預かり、多目的教室へと歩く。
空いている教室があるのは珍しいことじゃなく、そこを見つけて新しく部活を作る者もいる。
…………だったらこれ部活なのかな?
いやだな、帰宅部だったのに。
まぁ中学ではサッカー部に入っていたから一応、中学以来約一年ぶりの部活になるのかもしれない。
教室に着き、扉を開ける。
誰もいない、静かな部屋だ。
見たところ普通の教室とは大差ない。
黒板もあるし、少ないが机もある。
ずっと夢に見ていたマイルーム!
机を並べたり黒板に落書きしたりしたが、すぐに飽きて辞めた。
逃げて帰ろうかな。
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