第46話 肯定してくれる場所
時計の長針が12の時を刻み、パソコンの配信画面に表示される準備中の画面が、いつもの放送画面へと切り替わる。
「みなさん、こんばんは。うしろです」
『始まったあああ』
『こんばんは~』
『うしろちゃんだ~』
「ふふっ、いつも温かいコメント、ありがとうございます」
普段通りの軽快なやりとりを経て、バーチャルアイドル『うしろ』は満面の笑みで視聴者に語り掛ける。
「前にもお知らせしましたけど、私が出演したWEB番組【Vで繋がりたい】は見てくれましたか?」
『見たよ~』
『初々しくて可愛かった』
『あー、まだ見てないかも』
「みんな見てくれたみたいだけど、まだ見てない人もいるって感じなのかな?」
その日を振り返るように、うしろは収録現場での裏話を入れ込みながら、トークを続け、その度に返ってくる視聴者の反応を見ながら、話題を振っていく。
「いや、本当に緊張しっぱなしで、面白いこと言えなくてね……」
『うしろちゃんはそのままでいいよ』
『うしろちゃんは清楚枠だから』
『むしろあの二人相手によく頑張った方だよ』
内心、緊張しながらも、それを笑いでごまかしつつ発せられた、うしろの自虐。
しかしながら、それは杞憂に終わり、視聴者の言葉が優しくうしろの心を包み込んでいた。
「みんな、ありがとう」
心からの言葉を、素直に口に出すうしろ。
胸のつかえが取れたかのような安心感に、パソコン前に座っているそらの顔も自然と柔らかなものへと変わる。
そんな中、流れ続けるコメントの川の中に浮上した発言の一つが、そらの目に留まった。
『そういえば初のコラボだったけど、これからも共演とかはあるの?』
――これは、
そらはパソコンの配信画面外に別途ウインドウを開いて、予定の確認を行う。
その上で、そらは改めて『うしろ』として重大発表を行った。
「はい、実はですね……」
焦らすように間を置いて、心を一旦落ち着け、うしろは発表を行う。
「
自ら拍手をしながら、高らかに宣言をするうしろであったが、視聴者の反応は予想と若干異なったものであった。
『えっ、あの危ないお姉さん? 大丈夫?』
『楽しみだけど、うしろちゃんが心配だ』
『どうして許可が出てしまったのか』
「あれ? みんなの反応が思ったのと違うんだけど……」
『だって、今までの
『うしろちゃんのことを心配してるんだよ』
大多数の心配するコメントを見て、うしろも言葉を繋ぐ。
「確かに休憩中でも、りーやさんは収録中と差はそんなになかったかも……」
『あ、やっぱり……』
『石川はガチだから』
『それ、余計に心配なんだけど』
「もう、みんな。私もかなりお世話になった人なんだから、りーやさんのこと、あんまりひどく言っちゃダメだよ」
『でもなぁ……』
『ごめんなさい』
『すいませんでした』
「うん、みんないい子だね」
子をあやす母親のようなうしろの声に、素直に従うコメントたち。
その従順さに、うしろは思わず笑いだしてしまう。
「あははっ、ありがとうね、みんな」
上手に話すことができず、反省しかなかったうしろの初仕事。
しかし、うしろの放送を見に来てくれている視聴者たちは、彼女の思っていた以上に温かく包み込み、その不安を
それを肌で理解することができたうしろは、心の底から立ち直ることができたと、実感していた。
「あっ、もうこんな時間……1時間って早いね。それじゃあ、また今度、新しい連絡があったらお知らせするから、待っててね」
『はーい』
『お疲れ様でした』
『またね~』
「うん、またね。ばいばい」
充足感に身を預けながら、そらは終わりのあいさつを告げて配信画面を閉じる。
そして目を閉じて、視聴者のコメントを思い返しつつ、
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