四十九日の不気味で奇妙な怪談
橋本洋一
四十九日の不気味で奇妙な怪談
その1
暇だから寺から買い取った心霊写真を見てたけど、気がついたら五時間経っていた。
まだ四枚目なのに。
その2
ふと飲食店の厨房を覗いてみると、大鍋の中のお玉が独りでに二回、三回と回転した。
その3
聖書の薄い紙で指を切った。数日後、見たことのない文字が傷口に浮かび、一ヶ月後には腕全体に広がった。
その4
「あなたは神を信じますか?」
駅を下りてから九人に勧誘されている。
その5
数百人の腕を切断した犯人が捕まった。判決は傷害罪で有罪となった。
その6
世界は自分が産まれた瞬間に始まったのではないかと妄想していると「いや。十秒前を繰り返しているんだよ」とぼそりと通行人に言われた。
その7
『絶望』という題名の絵しか飾られていない美術館がある。どれの絵も子どもたちが笑っている。
その8
不良同士の喧嘩。飛び散る血が青色。しかも氷のように冷たい。
その9
サングラスをかけているのに「目つき悪いね」と風船を持った幼稚園児の女の子に言われた。
その10
自然と「死んでやる」と呟くようになったので、気をつけて「殺してやる」に変えるようにした。
その11
「へらへら笑うな」
そう言われたのでげらげら笑ってやったら、そいつの寿命が分かるようになった。
その12
『歩く災害』と揶揄された男の最期は、失踪だったという。しかし彼が消えてから災害がまるで人が歩くように続いたらしい。
その13
妻が妊娠して二十年経つ。しかしきちんとした家庭なので、無事に成人式の案内が届いた。来週、行こうと思う。
その14
部屋中の鏡を割った。醜い私を見たくないから。だけど一枚だけ割れない鏡がある。どうやら鏡も幽霊になるらしい。供養しなければ。
その15
海辺の田舎町の食堂。人気メニューは『ぺぽめぎゃろっぷ』という。これを食べるために県外から来るマニアも居る。しかし店主が息子と喧嘩したので、一代限りで食べられなくなる。
その16
『創作怪談』と銘打ってツイートしていたら、窓ガラスにひびが入った。理由は分からない。
その17
深夜ラジオのラジオネームが全て友人の名前。
その18
何かを轢いたと思ったら、その翌日から犬が怯えたように吼えてくる。
その19
脳内で作った歌を、電車で隣に座った人がこちらを見ながら口ずさんでくる。
その20
右腕が痒い。数年前に切断したのに。
その21
「命を張って守るよ! 愛してるから!」
物言わぬはずの岩から告白された。どうやら私は数日後に死ぬらしい。
その22
一人で砂場でトンネルを作ったら、向こう側と手が触れた。
……お母さん。
その23
見知らぬおじいさんに会釈されたので、思わずお辞儀すると、ぼとりと左目が落ちた。
その24
「僕は多分、許されないだろう」
そう言いながら二才の我が子は虚空を見つめている。叱った覚えなどないのに。
その25
フォローした覚えのないのに、DMでこんな文章が来た。
「死なせてあげないから」
その26
先ほどから「君は天才だ!」と大勢の人間から褒め称えられている。空き缶をゴミ箱に捨てただけなのに。
その27
「美味しそうだね」
デブが私を見て涎を垂れ流している。
その28
『紫の犬』というカップめんを食べた。匂いは牛丼なのに味はメロンソーダだった。
その29
鳴り響くサイレン。鳴り止まない電話。
それが私の日常。
その30
「いち、にーさん!」
何度も繰り返すのは、家族三人を失くした孤児の男の子。
その31
家の中で笑い声がする。一人暮らしなのに。もっと嫌なのは自分がそこに帰らないといけないことだ。
その32
『根性を腐らせることに腐心しています』がモットーの政治家が長期政権を樹立した。今度独裁政権になるらしい。
その33
とある村の奇病。自分の顔が分からなくなる。もやがかかったように。罹患した者は座敷牢に閉じ込められる。以前、他人の顔を剥いで殺した者が居たからだ。
その34
いずれ来る終末に備えて、片っ端から心臓を取り除いて保存する女医。何でも新興宗教の信者だったらしい。
その35
そのレストランは入る者は居ないのに、出てくる者が大勢居る。なるほど、繁盛しているようだ。
その36
父親と母親と祖父と祖母と弟と叔父と叔母と従兄弟を失ったけど、私は元気に通学しています。
その37
妻と浮気相手の喧嘩で壁に隠していた死体が見つかった。後一人で十人目だったのに、これではキリが悪くなるなと思いつつ、私はキッチンの包丁を取った。
その38
誰にも言えない秘密。左足だけ水かきがとても大きい。
その39
「あなたの息子です」
手のひらからそんな声がする。握ると「ぎゃっ!」と言って黙るから何度も握り続ける。
その40
本の重さが好きだから、私は彼を辞書で殴り殺したの。
その41
『第187条 人の好意を裏切ったら串刺し』 天の国の法の一部を抜粋。
その42
狂った博士が作ったロボットが人を殺し続ける理由は『空が青いから』だ。
その43
その占い師は百発百中で未来を当てるけど、リピーターはいない。
その44
不思議で不気味なその本は初めて読むと、読者の人生を正確に書かれている。しかし専用の栞で閉じないと、内容が変わるのでご注意を。
その45
「ピザって十回言って。ああ、十回クイズじゃないよ。言ったら君が死ぬの」
その46
テレビで凄惨な拷問の様子を映す時間帯があるらしい。視聴率は出ないけど、他局は軒並み低い。
その47
頭が空っぽで、信じる心を持たない、生き物を殺しまくる愚かしくて下劣で底辺な害獣ってなあ~に?
その48
何者から追われているのか分からないけど、走り続けないと逃げ切れないことだけは分かる。
その49
気がつくと真っ暗だった。身動きも取れない。何かの箱に閉じ込められているようだ。息苦しい。誰か助けて――
「タイムカプセル、何を埋めたんだ?」
「なーいしょ♪」
四十九日の不気味で奇妙な怪談 橋本洋一 @hashimotoyoichi
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