ディバイン・ブレイズ ~元中間管理職の俺が異世界征服を目指す~
@askn
序章
ブレイブザストーリー。
2050年現在、同時接続数500000人を記録。
常に人口が増え続け、東京5つ分ほどの広さがあるサーバー20のどれもが一ヶ月のアクティブ率が9割を超えるという、全世界で今一番熱いVRMMOの名前だ。
ネットワークの環境がより使いやすい物へと整備され、大企業からインディーズといったありとあらゆるゲーム会社が年間に約100個ほどのVRMMOを発表する時代の中、何故ブレイブザストーリーが支持を得ることができたのか。
その特徴はTRPG……いわゆるテーブルトークRPGのようなゲームシステムの自由度に起因する。
最大の特徴は「ユーザーが全てを自ら作り出せる」ということである。
ヒューマン、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ。
サービス開始時には4つの種族しか実装されておらず、これだけだと他のVRMMOと種族の数が同じ、もしくは少ないと感じてしまうかもしれない。
しかし、種族の名前と設定を決め、決められたリソース(補正やレベル)を振り分け、肌の質感や骨格まで調整することができるキャラクタークリエイティブ、もしくは実装されている3Dモデリング機能を使うことでプレイヤー自ら新たな種族を生み出すことができる。
生み出した種族は他のプレイヤー達と共有することもできるので、ユーザーが多ければ多いほど様々な種族が選べるようになった。
さらに一部のデザイナーやクリエイターによって制作されたアクセサリー、コスチュームにより様々な格好に変えることが可能だ。
骸骨にベトナム戦争中のアメリカ兵の服を着せて、アサルトライフルを持たせたる。ロリっ子サキュバスにメイドを着せる。全身を黒い布で包んで空中に浮かせるなどなど。
様々な手段で自らのキャラクターを表現することができる。
人の数が多ければ多いほどキャラクターの幅が増えることになるのだが、それだけではない。
ブレイブザストーリーは与えられたスキルポイントを振り、スキルを習得するシステムとなっている。ゲームに実装されているスキルは戦闘に関わる耐性や技だけではなく、馬車や料理に関係するスキルもあるため様々なロールプレイを行うことができるのだ。
冒険者でモンスターを狩るも良し、料理人として店を開くのも良し、暗殺者として他プレイヤーからの依頼を受けるのも良し、運搬専門のカンパニーを設立するのも良し。
これによりサキュバス、ハイエルフ、エルドラケン、アンドロイド、スライム、鬼人、天狗などのプレイヤーが生み出した種族と幅広いスキルを駆使することによって様々なロールプレイングを行う集団が現れた。
悪役を楽しむ魔王軍、鬼人オンリーの傭兵集団、耳と尻尾の生えた半獣人による犬猫メイドカフェ……いわばTRPGのような「キャラクターシート」のように様々なスキル、種族、道具、設定、ロールプレイを通して剣と魔法の異世界で無限に遊ぶことが可能なのだ。
ブレイブザストーリーのキャッチコピーは『セカンドライフを剣と魔法の異世界で』というものなのだが、それは言い得て妙といえるだろう。
このVRMMOはPCは勿論のこと、様々な家庭用ゲーム機でもサービスを展開しているのでユーザーの世代が幅広い。
深夜に夜更かししている大学生、時間を持て余す年寄り、学校終わりの小学生、仕事帰りのサラリーマン。1日に大勢の人がVRMMOへ出入する。
それが大きく減少する日が1日だけある。
一年に一度しかない、一年の節目を迎える日。
大晦日。
家族、友人、恋人……大切な人達と過ごすことが一般常識であるこの日は、サーバーに入る際にかかるロードが5分の1ほど短くなり、プレイヤーが営む商店街は全ての店が閉まる。
ブレイブザストーリーが最も静かになる日とも言われている。
そんな日だというのにも関わらず、岩肌が目立つロックフォード山脈の隙間に隠れるかのように存在している城があった。
高さが350メートルほどある白い壁が目立つ城で、風でなびく赤色の旗にはヤギの頭蓋を模したエンブレムが描かれている。
城の名は地獄の底を意味するヘル・ボトム。
第一世界アルト・ララと呼ばれるサーバーで猛威を振るう、ベゾンダース・ジェニー・エーデルというギルドの拠点である。
人間関係やギルドのルールに嫌気がさし、逃げ延びてきたプレイヤーで構成される集団。故にこのギルドのモットーは「己の好きなことを自由にやる」というものだった。
10階層もあるこの巨大な城は、単純に大きいわけではない。
「サーバーの全てのギルドの力を集結させても、絶対にこの城を打ち破ることはできないだろう」
……とPVP、PVEの上位ランカーが涙を流して言うほどの実力と知識を兼ね備えたプレイヤー25人、NPC200人以上を誇るギルドの城だ。
この城には全ての階層にそれぞれの役割が割り当てられている。
ギルド間の領土問題が原因で、プレイヤーとNPCが混ざった5000人規模の軍隊の進行を阻止した第1、第2、第3階層。
農場と家畜から食料を得ることができる第4階層。
黒魔術や魔法、防具や武器などの研究を行う第5階層。
NPC達の経験値を上げるために怪物を生成しつづけ戦わせたり、スキルの習得を早めるためのトレーニングジムのような設備が整った6階層。
様々なNPCやモンスターを戦わせて見物するためのコロッセオや、カラオケボックスなどの娯楽施設が用意された第7階層。
外の景色が一望できる露天風呂やNPCの部屋がある8階層。
ギルドに所属するメンバーの部屋、集めたスクロールや本を納めた巨大な図書館、溜め込んだ素材置き場がある9階層。
そしてギルドマスターのみが入ることができる書斎と、メンバーである25人が互いに顔を合わせるための円状のテーブルが置かれた10階層がある。
これら全ての部屋の雰囲気は統一感されておらず、NPCから部屋の内装全てが個々の好きなように作り上げられている。
25人のギルドメンバーが後先考えずに増やしていったので、場所によっては風通しの良い和風から、天井から数多のシャンデリアが光を放つ洋風へと様変わりする。
つまりこのヘル・ボトムという城は25人の欲望の塊ともいえる城なのだ。
そんな城の最上階のとある一室で立ち尽くし、25人が座れる円状のテーブルを前に沈黙する男……いや、その姿は男とも、ましては人間とも呼べない姿であった。
というのも首から下は人間と呼べる体系ではあるが、首から上はねじれた2本の角が特徴的な羊の頭蓋を備えた姿をしている。
その禍々しい頭と身長が2メートルはある彼の風貌を例えるとするならば、悪魔と呼ぶに相応しいものであった。
彼の名前はしゃけ。ベゾンダース・ジェニー・エーデというギルドのギルドマスターであり、このブレイブザストーリーの中で避けては語れぬ有名人物の一人である。
アルト・ララの世界において、ゾンダース・ジェニー・エーデルはギルドに所属しているメンバーが25人しかいないのにも関わらず、ギルドの総合的な能力を表すギルドポイントからなるランクでは2年間の間一度も下がることなく常に1位を独走。
そして自ら魔法の研究・作成が行えるこのゲームで、しゃけは自ら編み出した魔法、魔力を糧に燃え盛る炎【黒炎/ダークブレイズ】を使用する。
黒い蛇のように蠢く陽炎とも言えるビジュアル、名前から漂うカッコよさに魅了された他のユーザーは、どうにかして彼の魔法をマネしようと研究を行うが、未だに誰一人として成功例は発見されていない。
ブレイブザストーリーの中で、しゃけだけが雄一扱うことができる究極の魔法なのだ。
まるで神話のようなロマン溢れる功績と、燃え盛る黒い炎に身を包みながら他のユーザーを圧倒する姿に、開発者は直々に「ディバインブレイズ/神々しい炎」というしゃけにしか使用できない称号をプレゼントしたことがあった。
それがインターネットのニュースで取り上げられ全世界で話題となり、現在でもブレイブザストーリーのプレイヤーの中で最も知名度がある人物として知られている。
しかし、現実世界ではブラック企業で働くただの中間管理職の一人である。
大晦日だというのに予定もなにもない彼は、送られてきたギルドメンバーからのメッセージを見ていた。それらは全てギルドで毎年行っていた新年を迎える会には参加できないという意思を伝える物だったのだ。
新年を迎える会とは言うが、別に何かをするわけでもなくただただ家で時間を持て余しているメンバーで集まり愚痴を言い合う親睦会のようなものだった。
4月から新しい生活が始まり、日常を送っていれば嫌なことが少なからず起きる。それら新年までに愚痴を行うことによって吐き出し合い、ちょっとでも気を楽にさせる。そういった趣旨の元に開催されていたのがこの会だった。
去年の参加者は15人ほどだったが、今回は愚痴を言う相手も聞く相手もいない。
だが現実世界で何かやることがあるかと言われたら何もない。
平均以上には仕事をこなし、グループをまとめ上げる能力もある程度備わっていることから会社からは評価されてはいる。しかし、しゃけ自らのコミュニケーション能力不足から来る物静かで寡黙という性格が原因で、プライベートにまで踏み込む者はいなかった。
そんな彼がゲーム内では人目を気にせず、活発になれたことによって趣味思考が全く違う25人をまとめることができたのだ。故に自分が自分でいられる彼の居場所はゲーム内にしか存在しなかった。
何もすることがなく、しゃけは呆然と立ちつくす。
しかし、しばらくしてからこの誰もいない状況だからこそ自由に好きなことをできるのではと考え始めた。
間も無く決心すると、目の前に表示されていたメッセージ画面の右端をタッチして消去すると、壁に付いてあった古ぼけた電話機のようなものに近づいた。NPCを部屋へ呼び出すことができるコールシステムというものである。
服装やアクセサリーを指定すると、指定した格好で部屋に呼び出すことができる。なのでギルドメンバーからは「便利なデリヘルシステムだ」と言われていた。
本来ならばNPCを部屋に呼ぶだけの機能なのでそれ以上の価値を持たず、そもそもギルドに所属するメンバーであれば製作者が許可しているNPCのみメニュー画面で自由に呼び出すことができる。
つまり存在する意義すらないのだが、世界観を大切にしたいというメンバーの1人が勝手に部屋に付けたものだった。現にこの使われていない受話器は城中の出入り口付近の壁に設置されてある。
しゃけが部屋に呼び出したのは、ギルドメンバーが作成した11人のNPC……いわゆるノン・プレイヤー・キャラクタだ。
ギルドの城を作るにはまずギルドマスターを1人、そこに所属するギルドメンバーが10人がいることが条件となる。それを満たしたならば土地を購入し、建築を行うNPC、またはプレイヤーを雇って作り上げる。
そうして完成した城には階層と呼ばれる機能が使用できるようになる。
条件は30レベル以上のNPCを担当という立場に設定する。そして各階層の家具や内装を充実させる、もしくは配属するNPCを増やすことによってレベルが上がり、それに伴い様々な要素を追加して楽しむことができるようになるのだ。
永遠と敵を出現させては倒して経験値を得る、武器を自ら作り出す、娯楽施設を作ってカラオケを楽しむなどが可能になり、ゲーム内での自由度が格段に上がるのだ。
それらの各階層を任されているこの11体のNPCは、このヘル・ボトムを代表する存在と言っても過言ではないだろう。
直立不動で目の前をただ見つめるだけのNPCの姿は、やはり何度見ても同じギルドにいるNPCとはとても考えられなかった。
というのも大体のギルドでは規模が大きくなればなるほど同じ防具やアクセサリーを身に着けて統一しようとすることが多い。しかし目の前に並ぶNPCだけでも魔法少女、騎士、お姫様……装備にもアクセサリーにも統一感が全くなのだ。
それはある意味このギルドの特色とも言える。
「付いてこい」
【system】NPC:はい
NPCはプレイヤーの言葉に反応し、右下のチャットログには二文字のひらがなが流れ、しゃけを向いてお辞儀をした。
これらは定型文に沿っているだけであって決められた行動や返事しか行えず、人工知能が搭載されているわけでもなければ口を動かして声を出して話すわけでもない。
簡単な指示しか受け付けず、ログに短い文字が流れるだけ。
言葉に反応した11人のNPCはしゃけの後ろを歩き、外の景色が一望できるベランダへと着いた所で足を止めた。
「止まれ」
【system】NPC:はい
しゃけの言葉通りにNPCはその場で体を硬直させる。
そして何度も様々な角度からNPCを見つめては、メニューを起動して姿勢や角度を細かく調整すと、しゃけは再度扉へ触れて廊下へと出た。
NPCの手によってきっちりと掃除されている。
という設定の赤い絨毯が床一面に広がる。
その上をひたすら歩き続けていたのだろうか、メイド服を着た1人の人影がこちらへ歩いていた。
顔立ちがはっきりとした丸眼鏡をかけた美少女で、170センチほどの肢体はすらりと伸びている。モデル体型とでも言うべきだろうか。
目を合わせるとメイドは立ち止まり、頭を少し下げてはスカートの端を掴んで開く。そしてそれに引っ張られるかのように、頭から生えていた褐色のうさぎの耳は上下に揺れた。
そう、ただのヒューマンのメイドではない。
白黒のメイド服を着てはいるが、左の手の甲や腕、肩には鉄の防具を身に着け、動物のような耳と尻尾を生やしている。
戦闘もできるし歌って踊ることもできる、ニホンウサギをモチーフにデザインされた半獣人の戦闘メイドである。
製作者はもちもちというギルドメンバーであり、半獣人が大好物だった彼は前ぶりもなく突然40人の半獣人で戦闘もできるメイドのアイドルユニットを作ることを宣言すると、現実世界でも服の制作を仕事にしているドミナントとインターネット上で有名な漫画家であるダテ茶と手を組んで作り上げた。
40人全てのメイドはモチーフとなった動物が存在しており、それらの特徴を最大限に上手く取り入れるために何度もデザインを考えて全て1枚のイラストに仕上げ、それに似合う素材で作られたメイド服を身に着けさせようと試行錯誤を繰り返して完成したというまさに血と涙の結晶であった。
始めて完成した40人のメイドを見たしゃけは、思わず声を上げてしまうほどに感激した。同じギルドメンバーによって作られた40人専用のモーションを流し込み、それぞれに個性のある半獣人の美少女達が目の前の舞台で楽しそうに歌って踊る姿は圧巻だった。
そしてその一方、横で魂が抜けたかのように棒立ちの3人の姿によく頑張ったと労いの言葉をかけたことを思い出していた。
「付いてこい」
【system】NPC:はい
ぺこりとお辞儀をして、表情一つ変えずにしゃけの後ろに付いて歩く。
NPCだからしかないとはいえ、その無機質ともいえる行動と仕草にしゃけは少し寂しさを感じた。
ドアを開いて先程の部屋へと戻ると、再度NPCを角度とポーズを微調整しながら配置させる。それからある程度の時間が経過した頃、しゃけは一息ついて外へと歩むと後ろを振り返った。
目の前には呼び出したNPC達がしゃけに跪づく光景が広がっていた。
「……こんなの他のギルドメンバーには見せられないな」
一旦冷静になってから自分の行動を振り返り、恥ずかしさのあまり口から心の声をこぼす。だがログインしているギルドメンバーは今日は1人もいない、なら好き放題にやっても構わないだろうとしゃけは開き直った。
しゃけは目の前のNPCへと目をやる。
細かい装飾が施された、黒色に輝く鎧を着こんだ2メートルはある巨体の騎士。
鮮やかなピンク色フリルを揺らしながら、先端に星の付いたステッキを持つ魔法少女。
昆虫のような要所が尖った手と足が特徴的で、額から二本の触覚を生やした虫女。
見た目、雰囲気が全く違うNPCが並ぶこの光景は、まさしく魑魅魍魎と言えるだろう。
本来ならば階層の担当を呼び出すと、その階層の機能が衰えてしてしまうので推奨されるべき行為ではない。
しかし、誰も攻めてこない今日ぐらいはじっくりと眺めるのも悪くない。
それにしてもよくここまで大きくなったなと、しゃけは地平線まで永遠と続く星空を見つめながら五年前のことを思い出す。
初めてギルドを設立した日。
土地を購入するためにメンバー全員で武器の素材を商集めて売っていた日。
芸術家とかいう滅多にお目にかかれない人の紹介で、1度にギルドメンバーが4人増えた日。
リアル小学生のギルドメンバーが、全裸でギルドを走り回っていた日。
ギルドメンバーが対ギルド兵器アルテミアという、土地全体に呪いのデバフを付与する魔法を当時一番大きかったギルドの土地に間違えて発動させてしまった日。
商業都市の一坪を巡って、ギルド同士の大規模戦争が勃発した日。
全てが5年間の間に行われてきた出来事だったが、それでも昨日のことのように鮮明に思い出せた。
しゃけは思い出に浸りながら空中をタッチする。
表示された自室の倉庫から、一本の棒を画面外へスワイプして右手に握った。
全体がねじられたかのようにうねり、禍々しい赤黒い色をした杖の先端に白い板が3枚ぶら下がっている。アルト・ララの槍と言われるワールドアイテムであり、サーバーの最強のギルドを意味する印のようなものだった。
効果は突いた物体に亜空間の隙間を生み出すというもであり、簡単に言えばこれでつつかれたらブラックホールに吸い込まれて消えてしまうというものだ。
一見バランスを無視している壊れたチート武器だと思われるかもしれないが、これで倒したモンスターは素材がドロップせず、さらには1週間に1回しか使えないのであまり使える場面がない。なのでギルドでは飾りとして扱われている。
1年間、商売や狩りで得られるギルドポイントが合計で1番多かったギルドだけが入手できるものであり、3年連続でベゾンダース・ジェニー・エーデルが一位の座に輝いていた。
持ち味を活かした有名な同人作家であるギルドメンバーの衣装の販売や、1日中ログインしていた廃人プレイヤー達によりかなりのチームポイントを稼いでいたが、今年はしゃち含めてギルドメンバーがあまりログインできなかったので来年には手放すことになるだろう。
そんなことを考えていたら、整理もされていない倉庫の端っこで持て余していたこのアイテムが少し名残惜しくなったのだ。
首からぶら下げていたペンダントを開いて時刻を確認する。
只今11時59分12秒、あともう少しで新しい年になる。
彼女ができましたなんて自慢してきたギルドメンバーは今頃キャッキャウフフと楽しんでいるのだろうかと想像していると、不意に一人の男が視界に入った。
短髪の白髪と渋い顔が目立つ、185センチはある巨体。体へ触れると頭上にはリッパーという名前が表示された。ミリタリーが大好きなグンソーというギルドメンバーが製作者のNPCだ。
鉄の加工が仕事でありミリタリーオタクと自称していたグンソーは、どうにかこのゲームで銃を作れないか試行錯誤していた所、プログラムに詳しい同じミリタリーオタクであるタッチと協力することによってこのゲームで始めて銃を製造できるベルトコンベアを製作。
その際銃を持って戦うNPCを作ろうと考え、銃を扱う攻撃モーションを作り、生み出したのが悪魔人という種族のリッパーだった。
グンソ―はその後、リッパーの部下と称して5人の分隊を5つ制作し、様々な現実世界の兵器を生み出す。
剣と魔法のファンタジーであるはずのこの世界に、ヘリが飛んでいるのを始めてみた時の衝撃をしゃけは一生忘れることができないだろう。
「……ん?」
頭上に禍々しく尖った赤色のリングを浮かべ、背中から黒い羽根を生やした女性のNPC……それを見たしゃけはふと疑問に思った。
しゃけが知る限り一度も見たことがなかったからだ。
キャラクターに触れてステータスを確認してみる。
名前はニグルムで種族は堕天使、レベルは上限の150カンスト。レベルとスキルがしっかりと整っており、明らかに長い時間をかけて作られていると想像できる。
詳細が気になったしゃけはキャラクター説明文を表示させた。
「今年もどうせギルマスに彼女ができないって分かってるから、俺が親戚のおじさんとしてギルマスにお年玉としてあげるわ。今年もよろしくな……はは。彼らしいなぁ」
そのNPCを作った人物はXxちゃっかまんxXという名のギルドメンバーの1人だ。3Dモデリングを熟知している日本の有名なクリエイターの一人である。
彼のPCから生み出される3Dモデルは肉の質感や肌の細かさまですべてがリアルだと評価され、映画に使われるモデルの製作依頼が来るほどの人物であった。
そんな彼がしゃけへと渡したこのNPCとメッセージを見る限り、ひとりぼっちで大晦日を過ごすしゃけへの同情の意味が込められているのだろう。
そんなXxちゃっかまんxXの行動にしゃけは余計なお世話だと思うと同時に、感謝をしながらニグルムのキャラクター説明欄を最後まで見ずに閉じる。
只今11時59分50秒。
空中をタッチして設定画面を開き、UI……ユーザーインターフェーズを非表示へと変えた。
あと10秒で年が明けることを確認して、周囲を見渡す。
そして随分と静かになった10階層に去年の光景を重ね、寂しさと恐怖を感じた。
10……9……8……
しゃけにとってはこのギルドが全てで、現実など既にどうでも良かった。
確かに評価はされて中間管理という立場にいるものの、それは生きるために仕事をしていたら勝手になっていただけで自ら望んだ結果ではなかった。
それ以外の何物でもない、ただの飾りでしかない。
だけどここは違う。
現実世界とは違って仲間がいて、
現実世界とは違って尊敬されていて、
現実世界と違って大きな城があって、
現実世界とは違って自分が自分でいられる場所。
けれどこの場所がいつかこんな風に誰も来なくなってしまうのであれば……そんな悪夢を何度も考えてしまう。
7……6……5……4……
今日が元旦だということを思い出す。
年越しに不吉なことを考えるのはよそうと頭にまとわりつく黒い煙を払おうと首を横に振る。
目の前で跪く13人のNPCを見て呟いた。
「ここにいる目の前のNPCが全員、自我を持ってたらなぁ」
そんなことあるわけないだろう。
と、しゃけは自らにツッコミを入れる。
肉の付いていない羊の頭でもわかりやすいほどに大きくため息をつき、ただ時間が過ぎるのを待った。
3……2……1……
0……
12時を知らせる金が鳴った。
しゃけは部屋に響き渡る音を聞きながら、新年を1人で迎えたという事実に頭を抱えそうになりながらも下を向いて呟いた。
「はぁ……あけましておめでとう」
本来ならばその言葉は部屋に虚しく響くだけだ。
そう、しゃけしかいない部屋であれば――。
「あけましておめでとうございます。しゃけ様」
始めて聞いた女性の声に、しゃけはあっけにとられる。
どこから声が聞こえたその声に、実は誰かログインしてて驚かせようとしているのだろうかと疑った。
「――どうかされましたか?」
声のした方へと目をやる。
それは目の前で跪く堕天使――ニグルムから発せられたものだった。
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